序章 エピローグ 2
次回から新章 第一章がスタートします。
リュークの冒険者としてのスタート地点からとなります。
城までの視線がおかしい。
ぶっちゃけ可也はっちゃけたなあという認識のあったイディオだが、ちょっとやり過ぎた?と感じる程度。
こういう事に全く鈍感な俺様勇者は何がどうしてこうなった状態。
そして城に到着し、城に入ろうとするとなんと城の入り口を守っている衛兵に入場を止められた。
「どういったご用件で?」
「何言ってるんだ?俺様の事が分からないのか?」
「・・・・ああ、あんたが今噂の・・・・ちょっと待ってろ。」
・・・何だあの態度は。それに噂って何だ?
今までこんな態度で接してきた兵士などなく、困惑する勇者。
暫くすると城内から案内が到着。
「話は聞いてる。そこに武器は置いていけ。ついて来い。」
「おいてめえ!誰に口きいてるのかわかってるのか?」
「何を言ってるのかわかりませんが、人間扱いしてるだけましと思ってもらえませんかね?」
あきれたのを通り越して、固まる勇者。
「様子が変だぞ勇者。気をつけたほうがいい。」
そう言うイディオだが、イディオ自身もどうしたら良いか分からない。
「は!ひょっとして何かサプライズでも用意してるんじゃあねえ?」
そう言う勇者だが不安は隠せない。
そして控えの間に通され、かなり待たされ、数時間待ってようやく謁見の間へ案内される。
すると、椅子には皇帝ではなく従兄のエルムントが座っており、その場に同席している重鎮たちの視線が険しい。
「おいエムルント、なんでそこに座っている?」
「うるさい下郎!誰がしゃべってよいと言った?」
重鎮の一人が勇者に言い放つ。
「なに!誰に口をきいてるのかわってるのか?」
勇者とイディオ以外、全員残念なものを見るような眼で勇者を見つめる。
「てめえらみんながみんな何だその目は!俺様は勇者だぞ!」
そしてさらに重鎮が何か言おうとしたが、身振りでエルムントが止める。
「時間がもったいないから話を進めるぞ。しかしどの面下げて戻ってきたんだ?ヒルベルトにイディオ。」
「おい!名前で言うな!俺様の事は勇者様と言えって言ってただろうが!」
勇者の名前はヒルベルト・リーネルト。皇帝オーレリアンの弟を父に持つ、皇族である。
そしてイディオは勇者のお付きとなった勇者の幼馴染、とある侯爵の長男。
そして勇者ヒルベルトは勇者という特別な存在になった事に関して有頂天になり、自らを勇者と言わせる事にしたのであった。だがここにきて従兄のエムルントが勇者を名前で言ってきた。、
「まあいい。ヒルベルト、お前は父上が用意したパーティーメンバーの聖女アルフォンシーナに手を出したらしいな。そしてイディオ、貴様もだ。アルフォンシーナの付き人ビーチェを犯したそうだな。」
黙る2人。
「それにまだある。今までの度重なる愚行で収納カバンを3つも破壊し、その代わりに手配した冒険者リュークと、宮廷魔術師として随行していたレーツェルが行方知れずとなっている。これについてはどうなのだ?」
勇者に詰め寄るように言い放つエムルント。
この場の空気を感じ気まずそうにするイディオ。
だが勇者は気が付かない。
「アルフォンシーナをどうしようと俺様の勝手だろう?ビーチェもそうだ。俺様のパーティに参加した以上イディオとかわいがってやっただけだ。気にする事ではない。それにあの二人は戦闘中に穴に落ちた。」
そう言う勇者。
「ヒルベルト、人間の屑だな。因みに、宮廷魔術師のレーツェルだが・・・・本当に気が付かなかったのか?」
「何を言ってるか分かんねえな。」
「彼女はな、父上の密命を受け、ヒルベルトの素行を調べてたんだよ。しかもな、認識阻害の腕輪を装着してただろう?」
「は?はあ?・・・・ああ?!あの腕輪!おかしいとは思ったんだ!じゃあ・・・・あいつの正体って・・・・?」
「我が妹エリザヴェータだ!」
「げ!」
ここにきてようやく自分の行いのまずさに気が付いた勇者だが、周りを騎士たちに囲まれる。
「今まで帝国を挙げて庇ってきたが、もう庇えきれん。ヒルベルト、皇族の籍をはく奪、今後はリーネルトの姓を名乗る事は一切許さぬ。そして、勇者は残念ながら女神様よりの授かりものでこちらがどうこう出来ぬゆえ、国外追放とする。」
「な、何!そんな事ができるものか!」
驚く勇者。それに輪をかけて
「それにイディオ、てめえは侯爵の長男のくせに、ヒルベルトを諫める立場にありながらそれを行わず、あまつさえヒルベルトと同じく最低の行動を繰り返す。よってヒルベルトと同じく国外追放、そして侯爵家からの除籍。せめてもの情けだ、ヒルベルトへの同行は許す。」
「何勝手な事決めてるんだあ!」
怒るイディオだが
「イディオ、これは俺達が決めた事ではない。てめえの父親が決めた事だ。さあ、2人共今すぐここを出て行け。上手くいけば5年後か10年後には戻ってこれるかもしれない。勇者としての務めをやってくれる事を願うよ。」
そう言い放つとエムルントは去っていった。
呆然とする勇者とイディオを複数の騎士が囲み、またその周りを魔術師が囲う形で強制的に城外へ追いやった。
そしてこの後、とぼとぼと歩く勇者とイディオをあちこちで見られたが、どうやらインダルチャンス王国方面に向かったとの情報の後、行方が分からなくなった。
この後1年ほど後、世界中を巻き込む戦争が起き、皇帝は愛娘の行方が分からないまま失意のうちに没した。享年58歳。
そしてさらに14年余りの年月が経ったが、2人の行方は分からなかった。