Scum of the earth.
言われる前に言っときます。 ナニコレ?
控え室で一服をし、便所でションベンをしてから会場に戻る俺達
会場の後ろの方でいつものメンバーと合流する
「お疲れ様!今日のライブ凄かったね!盛り上がりとか、お客さん皆テンション上がってたよ!!」
と興奮冷めやらぬ感じで声をかける玲奈
君もテンション高いのな。他のみんなも。嬉しい限りです
「俺らなんか前座だよ。多分、あとの2組はもっと凄いよ」
かっつんは照れながら言う
確かにstand outと+25℃のライブとなりゃあ盛り上がるのは必至だ
少しでも俺らが場を温めれたなら上出来だろ。
「こんな後ろで見てねーで前の方行こうぜ!!」
「そうだな。」
とタマの一言にミスターが乗っかる
俺達は会場の人混みを掻き分けステージの前の方へ
照明が暗くなり、stand outの3人が舞台の袖から出てくる
会場は大歓声に包まれる
まだ何にもしてねーのに…
やっぱ人気あんなー
ゆーたさんは彰人さんと拓哉さんに合図をし、曲が始まる
曲と同時に客が沸く
相変わらずカッコいいライブだ
観てる人を引きつけるような魅力がビンビンくる
あっという間に一曲目が終わる
「やっほー。stand outだよーん。どーよ?盛り上がってる?」
さらに沸く観客
「いい反応だねぇ!ま。インブル、イカしてたかんね!俺らアイツら大好きなんだよねー!可愛い後輩バンドなのさ。応援してあげてね」
ゆーたさん…照れるよ。
「ま。嘘だけどね!」
嘘かいッ!
なんだよ!!普通に嬉しかったのに!
「調子にのるな!インブル!!大好きだっ!」
もうなんなんだよ!ワケわかんねーよ!この人…
しかもウケてるし…
「んじゃ2曲目。跳ねろよ!」
てなワケの感じで2曲目に突入
ノリの良いアッパーな曲なので跳ねたり、ヘドバンかましたり大忙し
客も一体となっている
もちろん俺達も
「ハイハイハイ!後ろにいる人も前寄って!!一緒に騒ぐぞ!!」
前回よりもパワーアップしているstand outの演奏
楽しくて、それでいて魅せるような場面もあり、そしてステージの上の3人が一番笑っていて
それに客がノっかって、さらに楽しくて暑苦しい空間になる
これが本当のライブだな
「じゃあラスト!タマ!!テメーダイブしろ!!」
俺達を見つけたゆーたさんは子供のような悪戯な笑みを浮かべ、タマをステージに上げる
タマを困ったような顔をしたが、すぐにステージに上がり曲が始まると踊り始める
アイツ、ダンスのセンスねーな!
でも、それがいい!
そして、タマはポケットからデストロイヤーマスクを取り出し被る
つーか、持ってきてたんかいっ!
そして、曲の盛り上がる所でダイブ
つーか、ボディプレスだな…ありゃ。
客もタマのマスクを取ろうとしてるし……
欲しいのか?あれ?
そして曲が終わる。stand outの3人はすげー満足げ顔をしている
「ん〜!楽しかった!ありがとー!!そんじゃ!皆さんお待ちかねの超ビックゲストに登場してもらおうかね?+25℃!!」
ゆーたさんが+25℃の名を呼ぶ
観客は半信半疑で中途半端なリアクション
そりゃそーだ。信じられるワケがねー
俺達もそーだったもん。
「ってあれ?+25℃さーん!出番ですよー」
なかなか出て来ない+25℃
まだ寝てんのかなぁ?
「待たしたなぁ!」
会場の後ろの方から聞こえる声
その声に全員が後ろを振り向く
+25℃の3人は会場後方からステージに向かって猛ダッシュ
観客も呆気に取られて状況を理解出来ないでいる
観客を押しのけステージに登る+25℃
ゆーたさんからマイクを受け取る
「来たよ!+25℃が来たよぉ!もっと喜びなさいよ!!」
やっと状況を理解した観客達からは今日一番の大歓声
客が盛り上がりのも分かるが卑怯だ…
ちょろっとしか喋ってないのにあの盛り上がりは卑怯だ!
もう絶対客の頭の中から俺らの事なんか消えてるな…
「さ!そいじゃあ、やりますか!ホラ!お前ら降りろ!邪魔邪魔」
シッシッとstand outの3人をステージから降ろす
「「「ヒッデェーな!」」」
うん。俺もそう思う。
「うーん。なんか懐かしい感じがするねぇ。」
大きく深呼吸をし、曲が始まる
カッチョイー!
わかっちゃいたけど、カッチョイー!
これがプロとアマの差なのか?
にわかファンは動けても、ホントに好きな奴は引き込まれちゃって動けない
あっという間に一曲終了
「オイオイオイ…君達、コンサートとライブの違いもわかんないのかぁ?動けよ!騒げよ!これはライブだぜ!!」
膨れっ面で言うシマノさん
あなた方の演奏がスゴくて何も出来なかったんだよ…
「じゃあ次イクよ!今度はノってよ〜!『nitpick』」
シマノさんはニヤリと笑い、曲が始まる
+25℃の代表曲だ
最高潮にヒートアップする会場
インディーズシーンに弱い美鈴や紗季ちゃんですらノってる
そして俺の横にいるこの男はどエライ事になっとります…
「キャー!シマノー!!ウヘァ!!」
みすたさん…
あんたのキャラぐちゃぐちゃですよ…
自分のライブよりノリノリやないすか!
ヘドバンしすぎて首飛んでくんじゃないの?
なんて俺達もミスター程じゃないがノってます。
ノリノリです!
やっぱプロは違うなぁ!
いつかは俺達もこれ以上のライブがしたい
いや、必ずあの位置まで上り詰めてやる
絶対にあの位置まで…!!
胸中に充満する熱い感情
ヤバい。にやける。なんかワケのわからない感覚に支配されるこの感じ
これが目標?
違う。そんなダサいもんじゃない。
欲望よりネッチョリしてて希望より明るいモノ
まだ形にはならない、ぼんやりとしたモノ
多分誰もが持っていて、それを形にするのはとても難しいモノなんだろう。
扱いきれずに殺してしまう人もいるだろう。
諦める人もいるだろう。
そうこれは『夢』と呼ばれる奴だ
だけど俺はそんな綺麗な言葉に置き換えたくないね。
だって俺ひねくれ者だもん!
『夢?それ食えんの?』って言っていたいもん!
恋人が出来てもガキが出来ても攻めていたいもん!
ぐるぐると廻る思考
なんで俺はライブ中にこんなこと考えてるんだ?
つーか楽しまないと!
ってもう終盤じゃん!!
ボケっとしてた俺をよそに曲は終わる
「みんな良いノリ!サイコー!んじゃ今日はおしまーい!」
『エーッ!!』
観客からの残念そうな声
「黙らっしゃい!!もっと観たいなら俺達のライブに来なさいよ!
じゃあ、stand out、インブル!!ステージ上がって!」
何故か呼ばれる俺達
ちょっと恥ずかしげにステージに上がる
「お前らサイコーじゃい!これからもバシバシやれよ!!」
+25℃は俺達とハイタッチと握手を交わす
「んじゃ楽しかったぜ!バーイ!!」
爽やかな笑顔でステージから退場する+25℃
気持ちいい人達だったな
「泣くなよ…ミスター」
かっつんがミスターを慰めてる
って!ええっ!?
「そんなに好きか!?泣くほど好きか!?」
思わずマイク使ってつっこんじゃったよ!
マジ引くわ!
観客も苦笑いじゃん!
つーか、stand outと俺達ステージ上がったの良いけど結果、放置プレーだよ!
なんかやりきれねーよ!
「どうしましょか?ゆーたさん」
とりあえず主催者のゆーたさんにブン投げるしかねー
「よしっ!鉄人!シメろ!」
無茶ぶりキター!!
あんたがやってよ!言い出しっぺでしょ!
客も面白い事言わねーかな?みたいな顔すんな!
ハードル高いっつーの!
「え…えー…本日はご来場まことにありがとうございます。それでは本日のメインイベント デストロイヤー玉山 VS ミスターチャーンの30分一本勝負を執り行いたい思います」
全員キョトンとしてます。
もうヤケだい!構うもんか!
「青コーナー!港南の覆面ヤロー!デストロイヤーたまーやまー!」
状況を理解したタマ
Tシャツを脱いで、お決まりデストロイヤーマスクを被る
さすが相棒!ノリがいいぜ!
青コーナーとかないんだけどね。
「赤コーナー!モジャ毛と涙はミスマッチ!ミスターチャーン!」
こっちも状況を理解してくれたミスター
ミスターはTシャツを破くというデモンストレーションつきだ
さすがモジャ毛!ノリがいいぜ!
「始めいっ!」
俺のかけ声でつかみ合う2人
なんじゃこりゃ!カオス過ぎる!!
観客ドン引き…!!
俺が言うのもなんだけど…
もう帰ろうよ…恥ずかしいよー
勝負はミスターのサソリ固めにタマがギブアップするという冴えない形で終了
三分くらいで決着ついて良かったよ
観客もよく観てたよ…
帰れば良いのに最後まで、よく観てくれたよ
「えー。皆様本日はまことにありがとうございました。
今日はもうおしまいっ!!また来てね!」
なんとも締まらない挨拶で強引に終了
いや、なんか…ほんと申し訳ない…
もう泣きたいよ…
stand outとインブルのメンバーに『ドンマイ』って言われました
もうイヤや…
もうイヤや…