Anthem
くたばれ!インフルエンザ!!
「起きろー!!バカ兄貴ー!!」
「あ゛ー!耳がぁー!!」
朝っぱらから耳元でデカい声だすんじゃないよ!
耳から血ぃでるわ!!
「お兄ちゃん!明日から夏休みなんだから、今日くらいちゃんと学校行きなさい!」
朝から怒ってるねぇ…
つーか、耳キーンってなってて何言ってるかわかんねー!
「あうあー。」
「……」
痛いっ!痛いっ!
無言でローキックすんな!痛い!
佐々木小次郎のモノマネはお気に召しませんでしたか…
「早くご飯食べてよね!」
「はい…すいません…」
奈緒に叱られ、居間に行き朝飯を食う。
「おはよ。兄ちゃん。」
「おす。今日はめずらしく目覚めがいいみたいだな。里緒」
俺はコーヒーとトーストを食いながら言う。
「お兄ちゃん、今日って学校終わったら用事ある?」
奈緒はエプロンを外し席に着く。
「ん〜。バンドの練習かな?なんかあった?」
「んーん。練習頑張ってね!」
奈緒はニコッと笑う。
……?
なんだよ?急に。
変な奴だな〜。
「そーだ!お前らに良いもんやるよ。」
俺はそう言い、自分の部屋からあるものを持ってくる。
「ほい。inbull初のライブ『stark naked』のチケットじゃ!」
俺は2人にチケットを手渡す。
「やったー!」
「嬉しい…」
2人とも喜んでくれたみたいだ。良かった。良かった。
俺は2人の嬉しそうな顔を見ながらコーヒーをすする。
「お兄ちゃん!ありがとー!!お兄ちゃんのカッコいいとこ一番前で見るから!」
「兄ちゃん。ありがと。」
「約束だったからな!でも、あんまり期待すんなよ。初めてライブだから失敗するかもしんねーし。」
俺は苦笑いで言う。
ぶっちゃけ、オリジナル曲の方が納得のいく出来になってない。
まぁ、妹たちに言ってもしょうがないから言わないけど。
「期待してるから。兄ちゃんのカッコいいとこ見れるの。」
里緒は微笑みながら言う。
「ところで、この『stark naked』ってどういう意味?」
「真っ裸って意味。俺らが決めた訳じゃねーけど、イカしてるよな?」
俺はゲラゲラと笑いながら言う。
奈緒と里緒はポカンとしてるけど。
朝食も食い終わり、妹たちと一緒に家を出る。
「お兄ちゃんと一緒に登校するの久しぶりだね!」
「何で今日は早く家でたの?」
「特に理由はねぇよ。なんとなく気分的にだ。じゃあ、俺ぁこっちだから、気ぃつけて行けよ。」
俺は奈緒と里緒にそう言い、駅の方へ向かう。
駅の前まで行くと、美鈴が改札から出てきたところだった。
「おはよ!鉄人。今日はずいぶん早起きじゃない?なんかあったの?」
美鈴は少し嬉しそうな表情で俺の近くまで走ってきた。
別に走らんでもいいだろ。青春ドラマじゃねーだから。
「おす。今日は気分的に早く行こうかな〜なんて思っただけ。とりあえず一緒に学校行こうぜ。」
「うん!」
美鈴は嬉しそうに返事をする。
つーわけで、美鈴と一緒に学校までの道を歩く。
「ねぇ鉄人、そろそろライブやるんでしょ?いつ?」
「8月の2日ぁ。ほい。チケット。」
俺はタバコの煙を吐きながら、美鈴にチケットを渡す。
「あ、ありがと… ねぇ…このチケット、私以外の人に渡した?」
「奈緒と里緒にはあげたけど。なんで?」
「ん。なんでもない!ありがと!!」
美鈴は満面の笑みで礼を言う。
ん〜。なんつーか…その笑顔は卑怯だな。
「そーいやぁよ、タマの奴バイト決まったってよ。アイツ、ウェイターだって!笑っちゃあ悪いけど、笑っちゃうよな!ハハハ!!」
「タマがウェイター!?アハハハ!!想像できなーい!タマに接客されたら子供泣いちゃうって!」
「だろー!?今度、冷やかしにその店行ってみようぜ!」
いつもは遅刻して、1人で登校してるけど、誰かとバカ話ししながら学校来るっつーのも悪くねーな。
学校に着き、教室に入る。
教室はマジメそうな生徒が何人しかいない。
早く来すぎたかぃ?
「美鈴。俺、ちょっと部室行ってくんわ。」
「わかった。先生くる前に戻って来なさいよ!」
「あいあい。」
美鈴に返事をし、部室に向かう。
いや〜。にしても静かだね。
こんな朝早くに来たの小学1年生以来じゃねーか?
部室に入り、端に置いてあるアコースティックギターを持つ。
ギターはそれなりに弾けるが、人前で披露できる程上手くない。
自分の作った曲をゆっくりと弾く。
ん〜。やっぱり何かイメージしてるのと違うなぁ…
「ドゥーだぃ?アクマ君!作曲活動は!?」
「ドゥーにもうまくねーんだな…これが… なんとかなんねーかぃ?タマちゃんよー!」
いつ来たのか知らんが、入り口で俺の作ったメロディーを聴いてたタマが茶化すような口調で言う。
「ちょいギター貸して。つーか今日、なんで早起きなん?」
俺からギターを受け取り、タマは質問する。
「奈緒に起こされた。オメーは?」
「懐かしのゲーム、スパルタンXをやってて徹夜した…」
スパルタンXって懐かしすぎるだろ!?
このご時世にファミコンソフトで徹夜できるのがすげーよ!!
「………オメー、バカだろ? ま。いいや。とりあえず、いいメロディーがあるなら弾いてくれ。」
「おっけ〜。さっきアクマが弾いてたのより、緩急をつける感じに弾くから」
タマは曲を弾き始める。
俺のイメージとは逆で、曲のアタマの部分は速いテンポでサビの部分は柔らかい感じに弾く。
俺がさっき弾いていたのとは、ガラッとイメージは変わる。
「どーよ?アクマの声が映えるように、サビの部分はちょい抑え目にしたほうがいいと思う。ただ、バカっぽさと疾走感を出すためには、ある程度の速さも欲しいとなると、こんな感じかな?まぁ、後はみんなで合わせてみてだな?」
「ハハハ!オメー、すげーな!隠れた才能か?」
コイツが弾き出したメロディーは俺の頭にあった違和感を見事に溶かしていった。
「あたりめーだ!!俺だってねぇ、ヤるときゃヤる男なんだ!脳ある鷹は爪を隠すって言うだろ?」
あ。調子のった。
なんかムカつく……。
「んじゃ、もうちょいスゲーとこ見せてもらうかぁ?」
「フヘヘヘ!リクエストは?」
「Right Nowだな!タンバリンって、どっかにあったよな?」
「そこの棚ん中だわ。んじゃ、イクぜ!」
タマと目を合わしお互いフッと笑う。
タマがギターを弾き始める。SR-71の『Right Now』アコースティックバージョンだ。
曲が終わり、タマがギターをジャカジャカと鳴らす。
「ハッハハ!悪くねーな!!」
「イヤ、相当良いでしょ!?ダッハハハ!」
タマと2人で笑いあう。
その時、玲奈、カオル、紗季ちゃんが部室に入ってきた。
「おはよ。部室の前、通ったら歌が聞こえてきたから立ち聞きしちゃった。ごめんね。」
玲奈は申し訳なさそうな顔をして手を合わせる。
まぁ、ライブでやる曲じゃないからいいんだけどさ。
「おはよ。別にいいよ。ちょうどいいや。これ、ライブのチケットね。」
3人にチケットを渡す。
「ありがと!」
「ありがとー♪」
「ありがとうございます!」
3人とも喜んでくれた。
つーか、けっこう喜ばれるな。このチケット。
「ねぇねぇ!タマちん!もう一曲、弾いてよー!」
「私も聞きたーい!」
「私も鉄人さんの歌、聞きたいです…」
3人にもう一曲せがまれる。
可愛い娘に頼まれちゃ、断れねーのが男の性って奴か…
ライブ前にミニライブしてる場合じゃねーんだけどな。
ま、まんざらでもないんだけどね!
「一曲だけだからな〜!」
「そーそー。お楽しみは本番でな!」
俺とタマは少し困った顔をして、Good charlotteの『lifestyle of the rich and famous.』を始める。
Good charlotteの代表曲でもある、この曲のアコギで弾く。
元の曲もいいが、アコギで演奏するのも相当カッコいい。
女の子の前で歌うのは、ちょっと緊張すっけどな。
「「「…………」」」
曲が終わったんだが、3人は無言だ。なんかリアクションせぇや!
「アクマぁ、俺、なんかミスった?」
タマが小声で俺に訪ねる。
ほらぁ!タマが不安になってんじゃん!
なんかリアクションちょうだいよ!!
「すごい!!鉄人君もタマちゃんも格好良すぎ!!プロ目指した方がいいよ!!」
いきなり、玲奈が俺の手を握りながら言う。
そこまで興奮されるとこっちがリアクションしずらいなぁ…
「てつ君、有名になる前にサインちょーだい!!」
サインなんかねーよ!!
もぉ!急なリアクションでタマがタジタジになっちゃってるよ!
「素敵…」
紗季ちゃんはトリップしちゃってるし…
でも、ちょっと本番に向けて自信がついたぜ。
「4人で演奏したら、こんなもんじゃねーから――『キーンコーンカーンコーン』」
んんっ!!これは予鈴ではないのかね!?
この予鈴で全員、我に帰る。
そして……
「「「「「やっべー!!」」」」」
5人一斉に部室から飛び出る。
うわぁ!全然、早く学校来た意味ねー!!
次回はもっと早く更新したいなぁ〜。