Wannabe
「タマ、ギターソロの部分もうちょい派手にしてくんねぇ?」
「おっけー。」
夏休みまで、あと一週間。練習場所を手に入れた俺たちは、8月のライブに向け毎日練習していた。
一応、軽音楽部ということで学校に申請し、なぜか金城が顧問になった。
「てっちゃん、ちょっと休憩しようよ。」
「あいよー。」
「鉄人、オリジナル曲の方はどーよ?」
ミスターがコーラを飲みながら言う。
「ん〜。まぁ歌詞の方は出来てきてるんだけど、音つけるとなると時間がなぁ…」
「足りねぇか…。コピーだけじゃつまらないしな。なんとかなんねぇか?」
「なんとかするさ。とりあえず、オリジナル以外の曲は仕上げとかないとな。」
立ち上がり、それぞれの楽器を握る。
「アクマ ドアんとこに誰かいるけど知り合い?」
タマに言われドアの方を向く。
誰だ?あれ?
「へ?知らない。かっつんのファンじゃねーの?」
「違うよ。俺が軽音楽部って知られてないもん。ミスターは?」
「まったくもって知らんなぁ…」
んじゃ、誰だ?
けっこう可愛い娘だけどなぁ…
つーか、めっちゃ見てる!
とりあえず何か用があるか聞いてみるか。
「何か用っすか?」
ドアを開け、女の子に問いかける。つーか、このリボンの色は2年生だな。何の用事だ?
「………。」
……
………
…………
いや、何か喋れよ。
すっごい見てるね。
つーか、すっごい睨んでるね。
メンチの切り合いなら負けねーよ?
「もー!ゆっきー!!置いてかないでよ!!」
俺と先輩が睨み合ってると、廊下からもう一人2年生の女の子が走ってきた。
「桜がいつまでも用意しないから、先に仕事しただけ。」
うおっ!!喋った!
でも、すっごい睨んでる。
「だーかーらー、待っててって言ったじゃん!てゆうか、なに見つめ合ってるの?」
「この子がずっと睨んでくるから」
俺が悪いみたいな言い方しないでよ。
つーか、ずっと睨んでたのアンタでしょ?
「いやいやいや、別に睨んじゃいねーっすよ。んで、なんか用でもありました?」
いまだに俺を睨み続けてる先輩を無視し、後から来た先輩に問いかける。
「ごめん。ごめん。紹介が遅れたね。私は、生徒会副会長の春日 桜。で、この娘が書記長の高見 雪江ちゃん。よろしくね!」
「はぁ… んで、生徒会の先輩方が何の用っすか?」
「ん〜。新しく出来た部の活動の調査と見学かな?」
春日さんは首を傾げながら言う。
かな?って言われてもねぇ…
「調査って言われても、ただ音楽やってるだけの部っすよ。」
「まぁ、そうなんだけどね…」
春日さんは苦笑いで言う。
「あなた達の普段の生活態度から部活動の風紀を乱す可能性があるため、調査にきました。調査結果によっては廃部にせざるを得ませんので」
高見さんが俺を睨みながら言う。
ま、確かに授業はサボるし、遅刻はするし、しょうがねぇんだろうけど
「んだと!コラァ!!マジメに部活やってんだろーが!!」
ミスターが怒鳴りながらこっちに向かってくる。
「納得いかねーっすね。先輩。俺らは先生の出した条件をクリアしたから、この部を作ったんすよ。」
めずらしくかっつんも先輩につっかかっていく。
タマは何のこっちゃって感じでポカンとしてるけど
「まー。落ち着けなさいよ。ミスター。かっつん。つーか、調査って言っても俺らが音楽弾いてるの見るだけでしょ?」
「それだけじゃないわ。一応、持ち物検査をさせていただきます。」
はぁ!?マジかよ!?
やべーぜ!制服ん中にタバコ入りっぱなしだぜ!
ミスターもタマも一瞬にして顔が青ざめてるし。
「それではカバンをこちらにもってきて下さい。」
「ごめんね。一応、決まりなの。何にもなかったらお姉さんがジュースおごってあげるから。」
高見さんは俺らを睨みつけながら、春日さんは申し訳なさそうな顔をしながら言う。
「(鉄人、マジやべーって!!)」
「(アクマ、どーすんだよ!?)」
「(どーするって言われてもよー…)」
俺とタマとミスターは焦ってオロオロしている。
つーか、タバコバレたら廃部じゃすまないよね。
良くて停学だろーな。
「(大丈夫だって。とりあえず、バレないようにタバコ、俺のカバンの中に入れて!)」
かっつんに何か策があるのかわかんねーけど、とりあえず言われた通りにするしかねー。
「はい。先輩。」
かっつんは俺らのタバコの入ったカバンを先輩に渡す。
まさか一人で罪をかぶる気じゃねーよな。
先輩達はかっつんのカバンの中を覗く。
「ねぇ前田君、カバンの中、なんにも入ってないみたいだけど…」
「そーっすけど、なにか?」
へ?俺らタバコ入れたよな?
セロみたいに時空を操れるの?
かっつん以外の全員がポカンとしている。
「俺ら、バイトあるんで早くしてもらってもいいですかぁ?」
「へ?あぁゴメン。ゆっきー、次いっていいよね?」
「うん… 問題ないみたいだし。」
春日さんと高見さんは少し腑に落ちない顔をしてミスターのカバンを見る。
結局、かっつんのおかげで俺らのタバコは見つからずお咎めを受けずにすんだ。
「んじゃてっちゃん、俺とミスターとタマちゃん先に帰っから、後よろしくー!」
3人は逃げるように音楽室から出て行った。
「おい!かっつん、ちょっと待てって!! ……つーわけで、俺も帰っていいっすか?」
「うん。時間とらせちゃってごめんね。ジュースでも飲む?」
春日さんは少し申し訳なさそうな笑顔で俺に言う。
「んにゃ。またの機会にとっときますよ。それに、そこの背のちっちゃい先輩がハンパなく睨んでおっかないんで」
俺は笑いながら高見さんを見る。
すっごいムスっとしてるわ〜。
「あはは!ごめんね。ゆっきーは男の子苦手なんだ。」
「不良が嫌いなだけ。別に苦手じゃない。」
そすか…
別に俺ら不良って訳じゃねーんだけどな。
「んじゃ、帰りますわ〜。さいなら」
俺はてきとーに手を振りながら先輩達と別れる。
は〜。なんか疲れた。
携帯を取り出しかっつんに連絡する。
『はいはーい』
「あー、かっつんかー?君ら、もう帰ったのけ?」
『うん。バイトあるからね〜。タマちゃんもバイトの面接あるから帰ったよ。つーか、置いてけぼりにしてごめんね〜。時間なくてさ。』
「別にいいよん。んじゃ、バイト頑張ってや〜。」
『あんがと〜。あ。てっちゃんのタバコ、下駄箱ん中に入ってるから〜』
「さんきゅー。したっけな〜。」
タマもバイト始めんのか〜。アイツ、バイク欲しいって言ってたしな〜。
つーか、かっつん、どーやってタバコ隠してたんだろ?
俺は頭を捻りながら学校を出て、いつもの道をテクテク歩く。
「ありゃ?玲奈じゃん。なしたの?」
いつもの小道を抜け、駅に出ようとすると玲奈がキョドりながら周りを見ている。
「て、鉄人くん!?」
おーおー、ずいぶん驚いてくれるじゃないの。
んで、なにしてんだ?この娘は?
「物陰から駅の方見ちゃって君はストーカーか?」
「ち、違うよ!実は…」
玲奈はカバンから何やら手紙のようなものを取り出し俺に渡す。
こ、これは…
「恋文かっ!?俺にかっ!?」
「違ーう!!それに言い方が古い! 帰りに下駄箱に入ってて、今どきラブレターって何か怖くて…」
確かにこのIT化の進んだ時代にラブレターっつーのはな。
でも、メールで告られるよかマシだと思うけど…
つーか、サラッとヒドいこと言うね。君。
「っつても、ここでずっと時間潰す訳にもいかんべよ?付き合う気がねぇならハッキリ言ってやんねーと」
「そーなんだけど… なんか行きにくくて…それに毎日、帰りに誰かに後を付けられてる気がしてたから怖くて…」
「マジかよ!?ストーカーされてんの!?」
「声が大きいよ!それに気がするってだけだから、なんとも言えないし。」
なんとも言えないって、なんかされてからじゃ遅いだろ。
「んじゃ、俺が彼氏のフリしてやるよ。それなら、そのラブレター出した奴もあきらめんじゃね?」
「え?いいの?」
玲奈は少し顔を赤らめながら上目使いで俺に言う。
「良いから言ってんじゃねーか。ほれ。」
俺は手を差し出し玲奈の手を握る。
こいつ、手ぇあったけぇな。
「あ、ありがと。鉄人くん」
玲奈は顔をさらに赤くし、俺の手をギュッと握る。
なんか俺も照れちゃうなー。あはは…
登場人物が増えてきたので近いうちにキャラクター紹介をしようと思うんだが、どーだろう?