第二次王都襲撃3
「何を寝惚けた事を!」
“淑女”の伝言を聞いたクラウディオは、あまりの内容に戦う事も忘れて立ち尽くす。
既に大半の人造が焼き尽くされ灰と化し切り捨てられているこの状態で…
「そもそも何故俺に?!」
「自分は只の伝令係ですので“淑女”のお考えまでは…」
「何をボサッとしてるんですか?!」
怒声に振り返ったクラウディオは、背後に迫った敵が崩れ落ちる音を銃声と共に聴く事になった。
「前線で剣を納めるのなら後方に回ってください」
「なんだお前か」
「ルビアです」
「礼は言わんぞ」
「……今は非常事態なので銃口が向かない事を感謝してください」
「いや…ちょっと来い」
「わっ!ちょっと、何ですか!」
手早く弾の詰め込みを終わらせたルビアを、クラウディオは引き寄せる。
「お前、急所以外は狙えるか?」
「それは、まぁ…できますけど」
今までこの男が協力を求めてきた事などあっただろうか?
何も裏がなければいいと思いながら、それは杞憂だとすぐに思い知らされる。
「“淑女”の頼みだ。
こいつらをせめて一体生け捕りにする」
「成る程」
女王軍の主な武器は機関銃や大砲など個人の戦闘センスが問われない、つまりは生け捕りに向かない武器ばかりだ。
学者としては珍しくクラウディオは剣を武器とするが、援護する人間がいるとやり易い事この上ない。
「貴方の利益ではなく“淑女”の為でしたら協力しますよ」
「本当いい性格してるよな、お前」
ただ状況把握が早いのは助かる。
クラウディオとルビアはまだ損傷のない人造を探して走り始めた。
「珍しい組み合わせね」
上空から降りてきたミアは、その様子を不思議そうに見つめる。
「ミアも協力しろ」
「えー?クラウディオがお願いなんて珍しい」
「ですよね!明日は槍が降りますよ」
「槍ならまだいい方だと思うわ」
「…お前ら」
所詮女に口では勝てない。
身をもって知っているクラウディオは一言に留めた。
じゃれあっている場合ではないのだ。
「武器は?」
「手榴弾が二個」
「……使えん」
「元々こんなド前線に来る予定はなかったのよ!」
ミアの主な仕事は“淑女”のサポートだ。
今回も緊急時の脱出分しか武器は持ってきていない。
「魔女の癖に使えん」
「こんな時だけ魔女扱いか!」
「もう、お前は縄でも持ってこい」
このクラウディオという男。
“淑女”に次ぐ頭脳明晰さを持ってはいるのだが柔軟性が足りない。
ミア曰く『頭でっかち』だそう。
ルビアといがみ合っているのも信仰上の問題で意見をぶつけ合っているからだ。
ミアの魔女としての能力が彼の理解の範疇を越えてはいるものの、彼女がその力を行使する事がほぼないのが二人の関係をより良いもの…かどうかは別にして、友人関係を築けているのはそこにあった。
「その箒で行けばすぐだろう」
「わかったわよ!」
魔女のシンボルでもある箒ですら、ミアは“淑女”の改良を重ねた物を使用している。
自由に空を飛び、自然の力を使役する事が彼女には難しい。
魔女としては落ちこぼれなのだ。
「早く帰ってきてくださいねミアさん」
「お前はこっちだ」
「ミアさぁぁぁん」
ミアを見送りながらルビアは悲痛な叫び声をあげる。
望まぬ共闘だが、この男に貸しを作っておくのもいいかもしれない。
借りと感じるかは本人次第ではあるが、それはまた別の話になりそうだ。