第二次王都襲撃
ミアとルビアが爆音のした方角―――すなわち東門に到着すると、そこには女王直轄の兵士一団と国の軍隊が既に到着していた。
“淑女”は女王直轄団に属している為、二人はその姿を探す。
「ここは我々に任せて貰おう」
「何を仰いますか。ここは我々が」
「学者風情に出張られても何の役に立つのだか」
「言葉がすぎますぞ」
そう。
この二つの軍は非常に仲が悪い。
王国軍は昔から国を守護する存在として、貴族や武術を生業とする家系の人間が多く集まっている。
対して女王が即位と共に学者や傭兵を直々にスカウトし、私設されたのがこの女王軍だ。
戦場は様々な思惑とのプライドがぶつかる場所でもある。
「相変わらず嫌な空気ですね」
「仲良くしろとは言わないけれど、いがみ合うのはやめてほしいわ」
「同感です」
この中でも更に余所者扱いされる二人は、回りに聞こえているのも気にせず人混みを掻き分ける。
行けども行けども甲冑とローブの山。
“淑女”の姿は見えてこない。
「ミア!」
そんな中で響く男性の声が、二人の歩みを止める。
「げっ」
「人の顔を見て相変わらず失礼な奴だな」
ルビアが顔をしかめた先には、ローブを纏った青年が更に顔をしかめて待っていた。
クラウディオ・デ=ロッシ。
この国でも珍しい銀髪を持つ、優秀な科学者だ。
「少しは自重して、後衛に回ったらどうだ?」
「私が協力しに来たのは“淑女”の為ですから。
貴方にとやかく言われる筋合いはありません」
「協力ねぇ…ごま擦りの間違いじゃないのか」
いがみ合いの場が1つ増えそうになったところで、待ったをかけたのはミアだった。
「ちょっとー。
いがみ合いは止めて欲しいって話をしたばっかりでしょう」
そもそも呼び止めたのは何の為よ?と、ミアはクラウディオに強めに聞く。
まだ姿は完全に見えないが、侵略者はそこまで来ているのだ。
「“淑女”が呼んでたぞ、あっちで」
「そういう事は早く言いなさいよ!」
クラウディオは女王軍で、且つ“淑女”に近いポジションにいる。
たまにこうして伝言を頼まれるのだが…
「本っっっ当、あんた達って…」
「仕方ないじゃないですかぁ」
顔を合わせる度に始まる恒例を強制終了させたミアは、必死で追い縋るルビアに悪態をつく。
「毎度毎度、よく飽きないわね!」
「クラウディオさんに言ってくださいよ!」
「あの頭でっかちに喧嘩なんて売りたくないわ」
“淑女”の居場所まで全力で駆け抜け、二人は先程より街へ近づいた場所へ出る。
「随分と賑やかね。ミア、ルビア」
「お待たせしました“淑女”」
「ご機嫌麗しゅう“淑女”」
急いで息を整えた二人は、揃って正式なお辞儀をした。
緊急時であっても、彼女の前では皆一様に慌てず正しく美しくを貫く。
「早速だけれど、ミアには上空から状況の報告をしてほしいの」
「わかりました」
慌ててはいたが、箒を持ってきてよかった…と返事の裏側で思いながら、ミアは上昇を開始する。
「今回は人造も投入してきてるみたいなのよね」
“淑女”がそう言って深い溜め息をつく。
流石、天才錬金術師と言われた人間だ。
動力源が謎の機械仕掛けだけではなく、新しい戦力も投入してきている。
「気になる事は他にもあるのだけれど…」
誰にも聞こえないぐらいの声量で、“淑女”は呟くが、そこを思案するのは後でいい。
「一先ずあちら様にはご退場頂きましょうか」