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王都アド=アステラ 【ペルフィキオ商会】

 当面の買い出しを終えたミアの次の目的はペルフィキオ商会だ。

 外国の企業では一番の勢力を誇り、文化の全く異なる環境からの輸入品を扱う業者である。


「ルビアいる?」

「ミアさん、おかえりなさい!」


 商会に入ると出迎えてくれたのは、ミアと同じ年頃の少女だ。

 肩口で綺麗に切り揃えられた黒髪を揺らして、廊下を駆けてくる。


「いつ帰ってきたんですか?」

「日の出前に着いて、それから片付けと買い出しよ」

「随分かかりましたねぇ」

「本っっっ当疲れた。

 行きに使った高速挺が、帰りは待ってないとかね…ないわ」

「えー?!逃げ帰ったって事ですか?!」


 初めてこの少女達が対面した時から、ルビアはミアに対しての敬語が抜けていない。

 1~2歳程の差であれば口調などミアは気にもしないのだが、そこは性格の差という事だろう。


「巻き込まれたくないのはわかるわよ!わかるけどさ!」

「相当頭にきてるんですね…」


 だんだん語尾が強くなってくるミアに、ルビアは苦笑いで返す。


「自警団が馬車を貸してくれなきゃ、着くのは夜だったでしょうね」

「まぁ、ミアさんはいいとしても…」

「ちょっとちょっと」

「“淑女レディ”をぞんざいに扱うのは如何なもなかと」


 親の仕事に着いて幼い頃からこの国を出入りしていたルビアにとって、いつでも強く美しい“淑女レディ”は憧れの的だ。

 心酔している人間が雑に扱われたとなれば、心中穏やかではない。


「まぁ、その“淑女レディ”自身が気にしてないんだから」

「あの方でしたらそうでしょうね…」


 商家の娘としての報復方法はいくらでもある。

 そんな危険な考えを見過ごしたのか、ミアは本来の目的である報告を始めた。


「でね。

 要塞都市の回りにもやっぱり抜け道なんてなかったわ」

「じゃあ、やっぱりどうにかして霧を抜けなきゃならないんですね」

「陸路だとそれしか方法はなさそうよ」


 実はこのルビア。

 この国にたまたま滞在している時に今回の謀叛に巻き込まれ、国に帰れないでいる。

 霧の発生予想範囲にペルフィキオ商会の倉庫や中継地点が存在している為、ルビアに頼まれて行く先々で確認をして回っていた。


「厄介な騒動に巻き込んでごめんね」

「ミアさんが気にする事なんて何もないですよ?」


 それに…と、ルビアが続ける。


「神話とかお伽噺であるじゃないですか、こういう閉ざされた王国って!」

「え?」

「何百年も閉ざされた世界から始まる物語り…その目撃者になれてるんですよ?!」


 そもそも目撃者じゃなくて当事者だし何百年も閉ざされちゃったら国に帰れないよ人間の寿命を考えようか、とミアの脳裏に浮かぶがルビアは全く気にしていない。


「大体はその閉ざされた王国が甦ってから物語りが始まるので、当事者のリアルな行動や思想なんかは想像力で補完するしかないんです」

「そ…そうなんだ」

「もし史実として残らなくても人々の口伝で生き残り、それが神話やお伽噺として伝わるんですよ!」


 以前、ルビアは物書きになりたいというのを聞いた事がある。

 世界中に展開している商家の娘の立場を利用して様々な国に向かい、仕事の傍らその土地に伝わる物語を集めているらしい。

 同じ物語でも地方によってニュアンスが違ったり、結末が違ったりするので面白いとルビアは言う。


「今度オススメの本貸しましょうか?」

「それよりもルビアの国の話を聞いてる方が楽しいのよ、私」

「そうなんですか?」

「そうなの」


 そもそも人種も文化も全く異なる国の人間同士だ。

 アド=アステラには様々な人種が集まるが、ルビアの出身国は単一民族だという。

 多少こちらの文化に合わせているが、ルビアの身に付けるものはとても珍しい。

 左の身頃が上前で着る色鮮やかな服が多く、ゆったりしたパンツだったりタイトなスカートだったりする。

 仕事の時こそ魔女らしく黒基調の服を身に纏うが、普段のミアはシャツとショートパンツにブーツなど、ごく一般的な服装が多い。

 いつも鮮やかな色合いの服装をしているルビアの国への興味は尽きない。


「だからあの女王も贔屓にしてるんじゃない?」

「確かに政権が変わってからこの国の商売は軌道に乗った気がしますね」


 アド=アステラでは建物や服は細やかな細工が施される為、落ち着いた色彩が好まれている。

 鮮やかな色だけで構築されるそれらは、保守派の前政権では受け入れがたい物だったのだろう。

 現女王の即位後、ペルフィキオ商会はこの国での地位を着実に上げてきていた。


「でもまぁ、こんな状況ですからねー。

 女王のご贔屓がなきゃそろそろ…ーーーーー」



ーードーン…



 話に花を咲かせている二人を遮ったのは、遠くから聞こえる爆発音だった

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