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淑女と魔女

「きたぞ!」

『ギュァァァァァ』


 響き渡る悲鳴。

 耳障りな機械音と響き渡る咆哮。

 そして、辺り一帯を包み込む蒸気。

 四方を山と海で囲まれた要塞都市と名高いこの街も、意思を持っての侵入者には隙を許してしまう。

 そもそも、こんな存在自体が異質ではあるのだが。


「“淑女レディ”はまだか?!」


 自警団が各々割り当てられた武器を掲げ応戦するも、侵入者に軽くいなされてしまう。

 継ぎ接ぎの翼も、剥き出しの歯車も、歯痒い程届かない。

 金属の嘴を鳴らして威嚇する度士気が下がる。

 前回の襲撃では大いに役立ってくれた武器なのだが、厄介な事に“製作者”があの手この手で改良を加えてくる。

 この侵入者に対抗しうる学者はこの国ではまだほんの一握りだ。


「ここにおりましてよ」


 諦めてに似た空気が漂う中聞こえてきたその声に人々は顔をあげた。

 埃と蒸気が舞い上がる戦場には似つかわしくない美しい女性。

 屋根の上に颯爽と立つのは、彼らが待っていた“淑女レディ”その人だ。


「お待たせして申し訳ごさいません」


 美しく結い上げられた金髪に、鮮やかに彩られた帽子。

 首元から踝までは繊細なレースのドレスで守られ、細い腰にはコルセットがよく似合う。

 “淑女レディ”の名に相応しい美しく隙のない女性ではあるが、物騒なのは彼女の手に握られた機関銃だ。


「よくもまぁ、飽きずにまたこんな物を作ってらっしゃるのね」

「今回はなんというか…雑ですね」

「そうねミア、相変わらず良い眼だこと」


 “淑女レディ”の傍らに控える、箒に跨がった少女が侵入者への素直な評価を告げる。

 彼女は魔女のミア。

 “淑女レディ”自身が認める、唯一の弟子だ。


「一度皆様は下がって頂けるかしら」


 美しい微笑みを浮かべて“淑女レディ”は武器を構える。

 豪華な細工が施された機関銃だが、銃身とフレームの間には青白い電気が閉じ込められたガラス瓶が納められている。


「“淑女レディ”!こっちは準備万端です!」

「では参りましょう」


 侵入者の回りを高速で移動しているミアは、蒸気を物ともせず素早く細長い針を打ち込んでいく。

 様々なパーツを組み合わせた隙間だらけの“機械仕掛け《オートマタ》”の侵入者には、余りにも大きな隙間がありすぎた。

 剥き出しの歯車の、その先。

 先程ミアが指摘した部分だ。


「ほーら、こっちよ!」

『ギュァォォァァォァ』


 空を飛ぶ魔女を捕獲しようと、侵入者は金属音を鳴らしながら後を追う。


「王都襲撃の残骸を寄せ集めたというところかしら」


 “淑女レディ”はそう呟くと、機関銃を胸元に構える。


「でも残念ですわね」


 青白い稲光が打ち出され、迷わず“機械仕掛け《オートマタ》”の怪鳥に向かっていった。


「わたくしを相手にするのでしたら、手緩すぎましてよ」


 己に打ち込まれた針が雷の弾を呼び寄せる事に気が付きもせず、怪鳥は必死にミアを追う。

 その背は“淑女レディ”に向けたままだ。


「今度はこっちよ!」

『ギュァ』


 巻き込まれては堪らないと、ミアは突然スピードを上げて怪鳥の脇をすり抜ける。

 尚も迫ろうと怪鳥が振り向いた先には、無数の雷の弾。


『ギュァァァァァァ』


 体内に電流を流され、活動を阻害された怪鳥はそのまま地へと墜ちていく。

 勿論仕留める場所は考えており、今回も街中に墜落する心配はなさそうだ。

 “淑女レディ”は一つ息をつくと、寄ってきたミアに機関銃を手渡した。


「こちらを自警団の方にお渡しして」


 今後もお役に立てるはずですわ、と言付けも忘れない。


「それにしても。

 いつまでこんな事を続けるおつもりなのかしら」


 事の始まりは数ヶ月前。

 稀代の天才が起こした謀叛から始まった。

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