07:閣下と酒
なんかいい感じに筆が進みました
書置き?しらんな
あのジャムの後、リネンはレーキに対し親しい友人のように接してくれるようになった。
同年代の子供と触れ合ったことが無いレーキとしては逆にリネンから教わることも多く充実した日常を送っていた。
それにしても…とレーキは目の前で酒をあおるケイトを見つめる、すでに彼女は一週間以上もこの村に居座っていた。
「でなレーキ、村長は本当に良い女だよ」
ここはレーキの部屋、目の前には酔っぱらったケイト・グローブ大将、王国での軍属のトップに立つ女性であり、性格は極めて良好。
しかし、そんな彼女にも欠点というものは存在していた、それが先ほどからレーキへ話している内容である。
ケイトは村長のことを気に入った様で連れて帰りたいやら、寝たいやら、中々際どい発言を繰り返していた。
レーキの年に合わせているのか率直な表現はは濁しているが、まあ寝たいってのはそういうことだよなぁとレーキは呆れつつも話に相槌を打っている。
ケイトはレーキが大人の表現について気が付いていることにどうやら気が付いていないらしく、頬を赤らめながらもどこから持ってきたのか樽を座っている隣に置き柄杓で酒をすくいながら水のように飲んでいる。
「閣下は朝から酒飲んで大丈夫なんですか?」
そう、まだ朝であり、今頃村人は畑仕事に精を出しているだろう時間帯である。
そんなレーキの言葉にケイトは酔っ払い独特な変なテンションで笑う。
「大丈夫、仕事はほとんど終わらしてあるから余裕余裕」
そういってケイトはレーキの肩をバシバシと叩く。
痛くはないのだが面倒臭いなこの状況、とレーキはため息をつく。
「仕事が終わっているのならいいんですけど…しかし、なぜ私にここまで絡むのですかね」
村長が好きなら村長のとこに言ってくれないかなぁ、と言いたいがケイトにそんなことを言えるはずもなく、レーキは何となく伝えようとするが。
「いやぁ、リネンと仲良くなってくれたみたいだからレーキと私も仲良くなろうかなと」
それに…アンタが一番面白そうだし、とケイトは心の中で言葉を続けた。
レーキはケイトの言葉に、まぁわからんでもないと納得する、娘と仲良くしてるのだから自分がどのような人物なのか計りに来たのかなとレーキは酔っぱらっている彼女を見つめる。
「しかしながら、リネン様は私じゃなくても誰とでも仲良くなれたと思いますが…」
「いや、リネンは臆病だからなレーキの大人の対応が安心したんだと思うぜ」
王国の陰険な貴族共は見た目大人の中身はクソガキだからなぁ、とレーキが対応に困るとんでもない発言をする。
「…まぁ、聞かなかったことにして、私が大人ですか…そういうものでしょうか」
「そういうもんだ」
彼女は酒をあおると、レーキをジッと見つめてくる、酒を飲んでいる人とは思えない目つきでレーキは少し冷や汗をかく。
中身すら全て見られているような視線、村長と最初に会話していたケイトの姿を思い出しレーキは少し怯んでしまう。
「なぁ、レーキ、お前って本当は貴族の子供だったりしねぇか?」
少し声色が変わり彼女は試すようにレーキに投げかける。
「さぁ、母さんは村の人なのは間違いないですよ、でも父はこんな世の中なので誰かは知りません」
「だよなぁ、でもなーんか気になるんだよな、レーキの眼が…どっかで見たような…」
彼女は思い出そうと頭を捻り、うぬぬぬと言葉を漏らす彼女の姿からは先ほどのレーキを怯ませた女性と同一人物なのを忘れさせてしまうほどの豹変っぷりにレーキは笑ってしまう。
話しを戻すがレーキの返答、父がわからないというのは、この世界にとって当たり前、だが彼女の言う通り父親が貴族の場合、男の貴族なんて限られているため彼女が本気を出せばすぐわかるのではないのだろうか。
レーキとしても興味があることだが、母を捨てた可能性もあるため何とも言えない感情が父親にはあった。
「と言われましてもねぇ、私も父のことがわかるのなら知りたいような…知らないほうが良いような」
レーキが複雑な感情を持っていることに気が付いたのだろう、ケイトはレーキの頭を強めに撫でる。
「ははは、すまんな本人もわからないこと聞いたな、まあ飲め」
「…そうですね、では少しなら」
レーキが柄杓の中身を見ると、透明感があり柄杓の底が良く見える、レーキは酒を口元へと運ぶ、口にする前に鼻に香る匂いで酒の正体はわかった、蜂蜜酒だ。
蜂蜜自体が高級品のためあまり口にする機会は少ないのだが、レーキはあまり好きな匂いではなかった。
「蜂蜜酒ですか…今ならワインとかが流行ってるんじゃないですか?」
村に来る商人が最近の流行りはワインだと言っていたことを思い出し、ケイトへ言うが、彼女は懐かしむような表情を蜂蜜酒へと送る。
「ワインも悪くない…っていうか好きなんだけどな…昔から飲んでるこっちのほうが私はお気に入りなんだよなぁ」
ケイトにもケイトの物語があるのだろう、蜂蜜酒に何か思い出があるようでレーキはそんな彼女の姿が貴族など身分を抜きにしても尊く見えた。
「そうだ、酒か…なら、これはいかがですか」
レーキは部屋の隅に置いておいた樽へ近づくと気の蓋を持ち上げ、中に入った液体を木の器にすくうとケイトの前に差し出した。
ケイトはそれを受け取ると興味深そうに中身を覗き込んでいる。
「これは?」
「まあまあ、とりあえず一滴どうぞ」
「おう」
ケイトは器を傾けると一気に飲む、彼女はレーキが毒を盛るとか心配はしないのだろうか、とレーキはケイトの不用心すぎる行動に驚きつつも
まあ彼女なりの礼儀なのだろうとレーキは解釈することにした。
「蜂蜜酒に似てる感じがあるな…だがよりスッキリとした味わいだ」
彼女は空になった器を見ながら味の正体を見抜こうとしているのだろう、器の残り香を香ったり後味を確認するために口元を動かしている。
「正体はわかりますか?」
「果物だと思う…食べたことは間違いなくある…思い出せん」
「そうですね、普通に口にしたことあると思いますよ」
レーキは悩んでいるケイトの姿にヒントを少しづつ出すが、ケイトは両手を上げると仰向けに倒れる。
「わからん、降参だ思いつかん」
「では答えは、これです」
レーキは樽の底に沈んでいる果実を一つ木の棒で突き刺すと樽から取り出す。
ケイトはレーキのその行動を見て倒れた姿勢から体制を起こし、あぐらをかいた。
ケイトは木の棒の先にある果物を見ると手を叩いた。
「リンゴか!そうだリンゴの匂いだ…リンゴ酒、なるほど面白いな」
シードルと呼ばれる酒だが蜂蜜酒と同じく歴史は古く、その昔現在のように水道設備が整っていない時代、生水は危険であり水の代用品として飲まれていたことでエールととも有名だ。
リンゴの外皮には自然の酵母が含まれており、大きな装置がなくとも手軽に作れるのも歴史が古い理由の一つだろう。
「レーキは…どこでこんな知識を…まあいいか」
ケイトも自分の知識に無い物を差し出すレーキの姿に彼を怪しみ始めたが、レーキは気にしていない。
これからレーキが色々作るにあたって誰もが彼に問いかける疑問だろう、どこで手に入れた知識だとか、どのように作ったなど。
だからこそレーキはケイトに取り入ろうとしていた、別に問いかけられたからどうだというやましい気持ちは無いがこの先邪推する人は多く出るだろう。
そのためレーキは誰も自分に疑問を投げかけられないような後ろ盾としてグローブ家へ取り入る。
すこし心が痛い気もするが、これが社交というものだ、いかに利用し利用される、自分が最低限の被害で済むように人間関係を構築する。
ケイトはそれにうってつけだろう、大将閣下という地位に身分を気にしない性格、なによりレーキの異常性を利用しようとしている節がある。
現に先ほども「まあいいか」の一言で済まし、それ以上の追求は無い、つまりはケイトもレーキを取り込もうとしている証とも言える、レーキはそのことに気が付いていたためケイトへあからさまに秘密がありますという行動を見せつける。
「お気に召したようでなによりです、私は蜂蜜酒よりこちらのほうが好きなもので」
「本当に面白い…」
そういってケイトは器越しにレーキの眼を見つめ、レーキはそんな彼女に笑いかける。
主人公の思惑を書きました。
閣下の年齢は25歳ぐらいを考えています。
ちなみに酒を作ることは法律で禁止されていますので絶対にしてはいけません。
まあアルコール度数の制限なんかがあるんですけど興味がある方は調べてみると面白いです。
以下の話しはフィクションです
蜂蜜酒をドライイーストから作ったらパンの匂いがしました