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06:貴族の娘

筆が乗ったのでそのまま書きました。




「私の娘の相手をしてほしい」


「はい…はい?」


今まで直接かかわりが無かったケイトから突然言われた言葉にレーキは目が点になる。


あの日から、ケイト・グローブ大将は村に在中していた、数日も立てば村人たちも慣れケイトも村の中をふらふらと一人でブラついている姿をよく見るようになっていた。


そんな彼女からの突然なお願い、レーキは首を傾げた。


「いやだからな、私の娘の相手をしてほしい」


閣下の裾をつかむレーキよりも小さな女の子。


ケイトの身長が平均よりも高いせいもあるのだろう、少女はより小さく見えケイトの影に隠れている。


「閣下、私がご息女の相手と言われましても、いかようにお相手すればいいのか村育ちの私ではとても」


ケイトの言葉にレーキは出来るだけ丁寧に、「やりたくない」とは直接言わないように柔らかく断ろうとする。


「かったいなぁー、娘が今5歳だけどキミは?」


そんなレーキの姿にケイトは笑っている、人懐っこいというと小さな子供相手にする表現のようかもしれないが、ケイトはとにかく明るくレーキとしても嫌いになれない姿であった。


そんな、彼女の質問にレーキは少し考えてから自分の年齢を口にした、何分村に住んでいると年齢なんて聞かれることが無いためレーキは思い出すのに時間がかかってしまった。


「7歳になります」


「別に貴族の娘なんて考えなくてもいいって、娘には年頃の友達がいないからね、これからちょくちょく世話になる村に友達作っておいても損はないだろうって思ったわけ」


「私としても同じ年の子と遊んだことがないため難しいのですが…」


「ちょうどいいな、なら最初の友達ってことでよろしく頼む」


レーキが断りたいと思っていることを知ってか知らずかケイトは半ば強引にレーキへ娘を押し付ける。


うわぁ…とレーキは面倒で嫌だったが、娘に村の生活というのを肌で感じて欲しかったのであろう、小さな声でケイトが、貴族社会だけではなく下の現状を子供の時から知っておかないとな、というつぶやきを聞きレーキは嬉しくなった。


ミドリが来てからはなくなったが、たびたび村に税をたかりに来てた貴族がいた、彼等は見返りなどはなく金を出せと一点張りの腐った貴族どもだった。


そんな奴らに対しノブレス・オブリージュ地位には責任を、それを実践している貴族は初めて見たためレーキの感動はひとしおだった。


それならば、とレーキはケイトへ頭を下げた。


「私でよろしければご息女のお相手、ぜひさせていただきます」


「そうか、ではよろしく頼む、ほら自己紹介しなさい」


そういわれ少女はケイトの裾を離すとレーキの前へとやってくる。


「り、リネン・グローブです、よ、よ、よろしくお願いします」


緊張しているためか噛みまくっており、中々酷い有様であったが、レーキは気にすることは無かった。


「ご丁寧にありがとうございます、私はレーキです、家名はございませんのでレーキで結構です」


「は、はい、レーキさん」


「ではリネン様、村の案内をさせていただきます」


まずは緊張をどうするかか…、レーキはまずはどのように緊張を解くべきか考えながらリネンを案内することとした。


「行ったか…」


子供らしくない子供、それがケイトのレーキに対する第一印象であった。


年に似合わない受け答えに、どこか自分を計っているような目線、末恐ろしくもあるし、頼もしくもある。


兵士や貴族そのものに悪感情は抱いていないようだったため、このままリネンがレーキを引き抜いてくれると嬉しいのだが。


王国大将ケイト・グローブは思案を巡らせるとため息を一つついた。


「同じ王国貴族が一番信用できないってのは難しいものだな…」


グローブ家は落ちぶれた貴族だった、一時期は王の側近として活躍をしていたが徐々に力は落ちていき、彼女の母の代までは幽霊貴族と呼ばれていた。


だが彼女が立て直したたった一代、しかも剣一筋で過去の栄光を取り戻したのだ。


だがおかげで政治や他貴族との対応が全く分からず、彼女自身最初は酷い目にあったものだと思い返す。


最近ではリネンに取りいようと、腹黒い貴族が増えてきていることが彼女の目下の悩みだった。


「彼女のように平気な顔で腹にかかえられる人物が部下に一人は必要だな」


まさか、こんな平和な村で彼女のような金の卵を見つけられるとは運が良い、そうだ時間はある、彼女を我が家に引き込む計画でも立てるとしよう。


「面白いことになった…ふふふ」


遠くに見えるレーキの後ろ姿を見つめるケイト、その姿は先ほどのように人好きするような笑みではなく、まさに貴族と呼ばれるにふさわしい腹黒く魔王のような笑みだった。


「リネン様は…なにか見たものはありますか?」


「と、とくに思いつきません、ごめんなさい」


「いえいえ、謝ることはございませんよ、そうですね、遊ぶものなどは少ないですので…」


さて困った、俺はこの年まで誰かと遊んだことがない、だから何をすればいいのかわからない、レーキどうしようかと地味に途方に暮れていた。


だが、ふと、レーキはこの年ごろの子供が好きそうなものを一つ思い出した。


「リネン様、それでは村で作った食品を紹介させていただきます」


「食べ物ですか?」


リネンは興味を惹かれたようでレーキの言葉に首を傾げた。


「はい、フルーツのジャムなどですね」


「ジャム…」


途端に彼女の顔は訝しいものとなるが、レーキはそんな表情をされようともリネンへと笑顔を見せる。


「ええ、ジャムです」


レーキは彼女を自宅の調理場へと案内する、レーキの母親は畑に出ているようで家には誰もいなかった。


「うーんと、この辺に…昨日のジャムが」


ミドリさんに固定化という魔法で劣化を抑えてもらったジャムを片付けたはず…レーキは調理場を漁るとすぐに一つの保存ビンを見つける。


ビンは流れの商人であるヴァイシャという名の村との付き合いが長い商人から買ったものでコルクの栓がされている。


「ありました、これがイチゴジャムです」


そう言ってレーキはリネンの前へとビンを差し出す。


「イ、イチゴっていいますと、あの酸っぱい赤いものですよね」


「はい、こちらにパンがありますのでつけて食べてみてください」


実際はこの世界にすでにジャムは存在していた、だが美味しいものではなかった。


理由としては砂糖が高級品だからだ、そのため果物本来の糖分を熱して凝縮させてつくる物なのだが、それでも酸味が強く独特な味がする。


しかしレーキは足りない糖分をあるもので代用した、量は作れないためレーキは自分だけで楽しんでいるのだが。


こういう場合は仕方がないよね、と彼女の心を開こうと少々必死となっていた。


レーキから出されたジャムをパンに薄くつけ、恐る恐るリネンは口にする。


口に含んだ瞬間強張った表情は柔らかい物へと変化した。


「甘い…美味しいです」


「お気に召したようでなによりです」


「家のおやつよりも、美味しいです」


「そんな恐れ多い」


砂糖の代わりに彼が目をつけたのは樹液だった、メープルシロップ、甘葛(あまづら)とでもいうべきだろうか。


通常は寒い時期のツタに傷をつけ採取した樹液を煮込んで作るのだが、色々な果樹の樹液を採取しなめまくった結果今の時期でもそれなりの甘さがある木を見つけた。


勿論、直接舐めたのではなく、甘葛の製造過程をしたうえで出来たものを舐めたわけだが。


まぁそんなこんなで出来た甘葛を煮込んでいる最中のジャムに少しずつ入れ調整したものだ。


「あぁ…そうだ、固定化魔法をかけてあるのでお気に召したら持って帰ってもらって大丈夫ですよ」


「本当ですか!?」


緊張のせいか硬くなっていた表情はジャムを口にした時から緩み、リネンはやっとレーキへ笑顔を見せてくれた。


それにしても魔法というものは本当に便利だ、冷蔵庫もいらずに固定化魔法というものをかければ腐敗がかなり遅くなる。


勿論、遅くなるだけで腐敗は進む、それだけではなくカビが生えるという可能性もあり、固定化というものをかけようとそれぞれに合った保存方法をするのはは絶対である。


しかし、魔法も使い方によれば産業に貢献するのも容易いだろう、レーキはそう思いミドリへ相談したのだが。


ミドリは言いづらそうにレーキの言葉を否定した、ミドリいわく兵器としての開発がメインであり、魔法を産業化するのは魔法に対する侮辱だということで王国内ではそういった方面の魔法開発は遅れているらしい。


一種の宗教的な感覚なのだろう、堂々と金儲けに魔法が使われることが気に入らない、そういったところだろう。


レーキからすると人を傷つける方法へ喜んで進むという行為は愚かしく感じたが、それを口にすることは無い。


ちなみにジャムは彼女が喜んで持って帰った、リネンと話している最中に思いついたことだが、持って帰って貰いたかった理由が出来たためレーキはこの後に起こるであろうことを考える。


よろこんでいるリネンの姿を見ながら、ゆっくりとこの後の展開に対しての対策を練ることとした。




魔法と科学の住み分けを魔法は宗教ってことで強引に押しとおりました。


ですのでなんでもできそうな魔法ですが、そもそもそういった科学に応用できる魔法はこの国では開発が遅れているということで納得していただければと思います。

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