02:肥料職人レーキ
主人公は女装していますが、この世界が男性希少なら女装として着ている服は一般的な服装であり。
女装をしているがそもそも[女]装という言葉がない可能性が…
女装男子にも優しい世界
肥料職人の朝は早い、というわけはなく、いつもどおり日が昇りしっかりと朝ご飯を食べ終えるとレーキの作業は始まる。
レーキは肉の部分を焼いて少なくし、乾燥させた魚の骨をゴリゴリ砕いており、額からは汗が垂れてくる。
袖で汗をぬぐうが、休むことなく木の棒で砕き続ける、彼の作っている肥料は魚粉というものだ。
レーキは村人たちが食べ終わった残飯の再利用し作っており、ぶっちゃけた話し失敗しても仕方が無いという精神であったが、結果は見事うまく行き、最近のレーキは母の手伝いよりも肥料づくりをさせられている。
いや、させられているというのも別に強制ではなく、子供で出来る作業などたかが知れているため、それよりも肥料を作ってくれとお願いされたという方が正しいだろう。
レーキは母には迷惑なことをしてしまったと思ったが、母もレーキを応援してくれているためそれが嬉しく、悪い気はしていなかった。
まぁ、などとレーキは現在ミラや母親など手助けしてくれた人々からの期待という少し重めな責任感を背負ったが、
今のところレーキは楽しく作業を行っており、責任感からイヤになるという事は無かった。。
ところでだが、少し肥料について説明しよう、そもそも有機物というのは基本的には何でも肥料となる。
ただ熱処理などを加えなければ腐り、とてつもない臭いを発する、それだけではなく腐敗から虫がたかったりなどの実害も被ることとなる。
よってレーキは基本的には魚の残飯や動物の解体後の残った部分で肥料を作っており、熱処理や乾燥させるなどの処理はしっかりと行い粉々にしたものを肥料として使っている。
勿論ミキサーなどはないためレーキは手作業で粉々にしているわけだが、それが中々重労働であった、めん棒やすり鉢などは無いため、木の板の上で黙々と手に持った太めの木の棒で叩きつけるという修行のような光景を繰り広げていた。
唯一の救いは粉末までしなくて良いことだろう。
しかし、確かに疲れる作業だが人糞などの排泄物を使うと病気や寄生虫、土への栄養過多の可能性が大幅に上がり、他にも撒いた後や醗酵させたときの臭いの対策をしないといけない、そこを考えると手間にはなるが魚粉のほうが幾分マシだろう。
そんなことをレーキは考えつつも「でりゃぁぁぁ」とパリパリに乾いた骨を叩いて砕いていると。
「おーい、レーキちゃん追肥が終わったよー」
ミラが元気よくレーキに向かい手を振っている、レーキはミラに元気よく手を振り返すと手を口元に持っていく。
「栄養のやりすぎには気を付けてくださいねー」
彼はスカートの裾をたくし上げると足元に気をつけながら畑の中へと進んでいく、一応整理されているとはいえ転んで服が泥まみれになったら洗うのが大変なためゆっくりと歩く。
そして目的の木の下へとたどり着くと、大きく実った実を手に取りじっくりと観察し出来具合を確認する。
レーキの実験の成功、あれからすでに一年がたっている、畑はレーキの予想と反してかなりの豊作状態を迎えていた。
「にしても、この世界は不思議だ肥料のひとつでこんなにもとれる野菜の量がかわるとは」
彼の予想では気持ち程度採れる量が増えればいいかなと思っていたが、明らかに今年の収穫量は去年の倍を超えている。
形も良く、大きさもある、色つやも良い、どこに出しても恥ずかしくないとレーキは笑う。
そして、王都で出産をし村で子育てをするために帰ってきた女性も驚いていた、彼女の心配の種も村で仕事があるかどうかだったが、今では重要な戦力となっている。
子どもは村の年長者たちが喜んで面倒を見ており、母親は安心して仕事へ出ている。
「ほら、さっさと手を動かさないと今日中に終わらないよ、明日は王都に向けて出発して売りつけに行くんだから」
ミラは気合十分のようで他の女性に指示を飛ばしながら自分は他の人の倍以上の動きをしている。
頼もしい人だなぁ、とレーキはのんきに見つめながら状態のチェックを引き続き行うこととした。
「うーん、野菜の種類のよって与える栄養も変えたいけど…高望みだよなー」
日光が注ぎ、空には雲一つない天気、日向ぼっこするにはいい日だなっとレーキは思いつつも「ほら、さっさと動けーーー」という村人たちへのミラの言葉におされるように作業を進めるのであった。
そんな村人たちが燃え尽きた日から数日後の王都、街並みには人があふれ、所せましと人々は商売を行なっていた。
「いらっしゃい、いらっしゃい、今日もいい野菜が入ってるよ」
景気のいい声が色々な方向から飛び交い、市場には人の熱気がこもり、何とも言えない特有の雰囲気を醸し出していた。
そんな道をひとり歩く女性、いやひとり歩く女性自体はこの時代珍しいものではないのだが、彼女の雰囲気は中々に独特なものを放っていた。
「うーん、やっぱり品質は落ちていますよね」
屋台の手に取った野菜をじっくりと見る女性、モノクルをしておりそれが良いアクセントとなり知的な印象を見る人には与える。
こう言っては彼女には悪いかもしれないが、こういった市場には似つかわしくない姿であり、彼女を知らない人は不思議そうに彼女を見ていた。
そんな彼女だが、他人からの視線は一切気にせずに行く先々の店で試食を貰っていた、貴族の使いである人が試食をお願いすることは、この市場では珍しいことではないため店主たちは快く彼女に応じる。
だが大きさはあるが味が水っぽい、味は良いが大きさが小さい、と彼女にお気に召すものは中々見つからない。
「どうしたものですかね」
彼女は困ったように頭に手を当てた、さてなぜこんなにも彼女が野菜の味を吟味しているかというと、今日の朝まで時間は巻き戻る。
朝、彼女はいつも通り起き、仕事部屋にて農業士として昨日行った視察についての報告書を書いていた時のこと。
「よっす、ミドリちゃん」
そういってミドリの目の前に現れたのは国王だった。
そう紛れもなく国王、どこからどう見ても国王、何度か会ったことがあるミドリが見間違えるはずもない彼の姿がミドリの前にはあった。
「って国王陛下ぁぁぁぁ」
ミドリが驚愕し声を上げようとも、ニコニコとした表情は崩さない国王。
「うんうん、そうとも余が陛下だけどさ、頼みがあるんだよね」
大変無礼だが、なんとも可愛らしい人なのだろうか、私と同じくらいの身長にぱっちりとした瞳、誘惑するような口元のホクロ。
ミドリは突如のことに混乱しながらも彼の顔に目がいってしまう。
「ミドリちゃん、発情してなくていいから余の頼みをちょっと聞いてよ」
「は、はひぃ」
「知ってると思うけどさ、明後日隣国から来客があるんだけど、やっぱり持て成す料理って大事だと思うんだよね」
そこで、と国王は言葉をためポケットから羊皮紙で出来た書類を取り出す。
「ミドリちゃんには任務を与えます、なんか良い感じの野菜を市場で探してきてください、んじゃお願いします」
そういってミドリに任務…おつかいメモを渡して国王は去っていった。
「…へ、陛下ぁぁぁぁ」
いきなり大任を任される私の身を考えてほしい、ミドリは部屋で崩れ落ちながらおつかいメモにはしっかりと目を通している。
どのみち任務といって渡されたのだ、しかたがないとミドリは荷物を一瞬でまとめ外へと飛び出した。
そんなこんなで彼女は市場にいるのだが、やはりなかなか見つからない。
「陛下も無理難題をおっしゃりますよね、野菜の品質が落ちているのは陛下もご存知のはずなんですが」
しばらく見て回ったがやはり満足するものは見つからなかった、
通常の料理であれば十分な野菜はいくらでも見つけられたが、国王に指示され持っていくのだそれは最高級でなければならない。
実は国王としては、それなりに良い物であればいいやと、信用できる目を持っているミドリに任せたのだが、ミドリの生真面目さを国王は甘く見ていた。
市場を見終わった彼女が次に行ったのは高級料理店を回ることだ。
もしかしたらと、野菜を買い込んでいる可能性を考え回ってみるが、みごとに空振り。
シェフの人々は協力してくれたが、それでもミドリのお眼鏡にかなうものは無かった。
「つ、疲れました…」
ミドリは噴水の近くにあるベンチに腰を掛けうなだれる、明日には見つけ出さないと私の首が物理的に危ないとミドリは自分に気合を入れる。
何度も言うが、国王的にはミドリが「あ、良いですね」と言う程度の物でいいのだ、ミドリ本人は「素晴らしい」と言いたくなるものを探しているのだが…
気合を入れなおしたミドリが立ち上がり市場に戻ろうとしたとき、彼女は荷車を運んでいる集団の一番先頭の人とぶつかってしまった。
「あ、すみません、急いでいたもので」
「いえいえ、こちらも前をしっかり見ていなかったもので」
彼女はそう言って荷車をまた引き始めたが、そこに乗っている野菜がちらりとミドリの目に入った。
そしてミドリは自分でもびっくりするほどの大声を出してしまった。
「そ、その野菜全部ください」
数日後、レーキたちが住む村へと戻ってきた村人の台車の上は空っぽであり「いやー、すっげぇ金額で売れたわー、あれって貴族の人だったんかねぇ」と売りに行った女性たちは口々に言い、レーキはさらに村人に褒められることとなった。
魚粉については、実際問題虫などの問題や、使った動物の病気が…などの危険性が存在します。
しかし、歴史は古く現代まで生き残っていることを考えると優秀な肥料なのでしょう。
動物の飼料として使われたりと意外と身近で使われています、ちなみに加工された魚粉はめっちゃいい匂いします。