ハル④
久々な感じですが、思いついたらしいので。
どうぞお楽しみに!
一度やってしまえば不思議と抵抗は消える。初めて入れ替わった日から、ハルとハルカはよく入れ替わるようになった。しかし、服を入れ替えるだけで、屋敷に侵入したり、外へ冒険に行ったりする事は決してなく、やる事はお話しする事。お互いの服を着るだけで気分が変わって、話の楽しさも変わってくる。自分の汚い服で自分の話をすると、世界の差を実感させられるが、ハルカの服で自分の話をすると何故か自慢話をしている感覚になった。ハルカの知らない世界を自分が教えてあげているような。
ハルとハルカの間では、二人は平等だった。身分なんて気にする事なく、気兼ねなく話していた。だからハルはだんだん忘れていった。ハルカは本来、手の届くような存在ではない事を。
ハルはハルカの元へ向かう途中、街が騒がしく感じた。根拠もなく、ただなんとなく騒がしい。だから思っただけで、街で何が起ころうとしていたかなんてまったく考えなかった。いつもの場所でいつものようにハルカと落ち合って、自然な流れで入れ替わった。
「そうそう。昨日ね、ここから帰る途中…」
いつも通りお話ししていた。
刹那。
今までに聞いたこともない大きな音が響き渡った。ハルはこの音を知っていた。爆発音と銃声。ハルの生きる世界では身近な存在。しかし、ハルカの屋敷の近くで聞こえるはずのないもの。
「何?ハル、怖いよっ…。」
未知の音に驚くハルカを守るように抱きしめて、必死に状況を理解しようとする。しかし、情報量が少なすぎる。考える前に体が動いた。
「ハルカはここで待ってて。様子を見てくる!」
ハルは音のした方、踏み入れた事のない屋敷の方へと走り出す。建物の中を無我夢中で進んでいると、突然腕を掴まれた。とっさに振り払おうとしたが、離れない。
「御嬢様。こちらにいらっしゃいましたか…。緊急事態です。さあ、早く逃げましょう。陛下は大丈夫です。早く。」
ハルの腕を掴んでいるのは白髪の御老体だった。しかし、一目見ただけで分かる。只者じゃない。戦って勝てる相手ではない。自分では掴まれた腕すら一生振りほどけない。
「私は御嬢様なんかじゃない。緊急事態なら早くハルカをっ」
「何を仰いますか、遥香御嬢様。さぁ、外へ。」
ここで初めて自分が今、ハルカの服を着ている事を思い出した。ただ服を変えただけで本当に屋敷の人間まで騙せてしまえるなんて。自分はハルカではない。だから、早く本物のハルカを助けに行ってもらわないと。偽物の自分を早く見捨ててもらわないと。しかし、反抗しても、抵抗しても無駄だった。白髪の御老体と、彼が引き連れてきた従者数人と共に、引きずられるように来た道とは違うを進んでいく。いくつか角を曲がり、外が見えた瞬間、ハル達は突風に襲われた。周りの人がハルを覆い隠すように守ったので何事もなかったが、間違いなく数十メートル飛ばされてしまうくらいの強風だった。突風の来た先を見ると、砂煙が上がっている。間違いない。屋敷の庭で爆発があった。もしかしたら庭園かもしれない。ハルの頭にハルカがよぎる。
「ハルカ様っ!」
ハルの叫びは周りの音にかき消された。
「大丈夫でございますか?遥香御嬢様。こちらは危ないようです。こちらへ。」
御老体は返事を待つ事なく、ハルをまた別の方向へと引きずって連れて行く。
「ハルカ様!ハルカ様ぁっ!」
ハルがいくら叫んでも誰も返事をしない。
爆発と騒音の中。ハルは気を失った。
二話連続投下です!
次もお楽しみに。