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ヤンデレ妹に死ぬほど愛されて眠れない川里隼生2017

作者: 川里隼生

『今、私の魂は眠りにつく』

 トントン。ガチャ。

「お兄ちゃん、まだ起きてる?」

『聞き慣れた音声』

 バタン。

「ごめんね、こんな時間に」

『四時を少し回っている』

「今日のこと謝っておこうと思って」

『嫌でも視界に入ってくる』


「どうしても外せない用事があったから、お兄ちゃんに美味しいご飯を作ってあげられなくて、本当にごめんね」

『格好良く書き出したが、要するに遅刻である』

「ううん、気にするよ。だってお兄ちゃん、いつも私の晩ごはん楽しみにしてくれてたんだもん」

『食事には人知を超えた力があるのかもしれない』

「作り置きも考えたんだけど、お兄ちゃんにはやっぱり、作りたてのお料理食べてもらいたかったから」

『俺は蕎麦を食べられないんだよなあ』

「でも大丈夫。明日からはちゃんと作るからね」

『無駄に関わんのやめてくんない?』


「別にお兄ちゃんのこと嫌いになったとか、そういうわけじゃないよ。本当だよ!」

『なんとなくわかる』

「どっちかっていうと……」

『雨がまた一段と強くなる』

「うふふ。ううん、何でもない。何も言ってないよ。本当に何でもないから」

『これでもう用無しか』


「あ、そうだ! お昼のお弁当どうだった?」

『非常に退屈なものだった』

「いつもと味付けを変えてみたんだけど」

『元に戻すことも検討している』

「そっか。よかった。口に合わなかったらどうしようと思ってたんだけど、これでひと安心ね」

『最初にそれを聞いたとき、生まれて初めて腰が抜けるという経験をした』


「もう。そんなの気にしなくていいよ。家族なんだから。ね? 」

『今日も楽しく生きています』

「料理とか洗濯とか、私の取り柄ってそれくらいしかないし」

『東京都代表として選出』

「それにお兄ちゃんは、いつも私のお料理を美味しそうに食べてくれるんだもの。私だってがんばっちゃうよ」

『特筆することのない人間である』


「ところでお兄ちゃん。さっき洗濯しようとして見つけたんだけど、このハンカチ……お兄ちゃんのじゃないよね。誰の?」

『てっきりお前のだと思って持ってたけど、まさか他人のものだったなんてな』

「あー分かった! 綾瀬さんのハンカチでしょ。匂いでわかるもん」

『どうしてだろう』


「それで、なんでお兄ちゃんが持ってるの?」

『死者22名、重軽傷者100名以上の地獄の中、人知れず警察と共に犯人逮捕と被害者救出に尽力した民間人がいた』

「ええっ! お兄ちゃん怪我したの?」

『消防隊がかけつける騒ぎになった』

「そのときに借りたって……怪我は大丈夫なの?」

『心配はいらない。私は永遠の命を手に入れたのだから』

「そっか。大したことなくてよかった」

『だが体が動かない』


(あのハンカチに付いてた血、お兄ちゃんのだったんだ。ちょっともったいないことしたな。 こんなことなら、血の付いた部分だけ切り取ってから捨てればよかった)

『どうして無言になったのかは分からない』

「あ、ううん。何でもないよ。ただの独り言だから」

『智花は笑ってごまかした』


「そういえば、最近お兄ちゃん帰りが遅いよね。図書室で勉強?」

『紹介しよう、彼は厄病神のリー』

「あー、あのおとなしそうなクラスメイトの人でしょ? 知ってる」

『議論を知らないもんだから喧嘩ばっかりで、中学でも随分荒れてた』

「でもあの人って、おとなしいっていうより暗いよね」

『不良っぽいかな』

「あんな人と話してたら、お兄ちゃんまで暗い性格になっちゃうよ?」

『何故か軽蔑の笑いに見える』


「お兄ちゃん……昔は私の話ちゃんと聞いてくれてたのに、最近はあまり聞いてくれないよね」

『その方が手軽で楽だ』

「それに、私とも遊んでくれなくなったし……」

『二人の紳士が猟をして、犬が死ぬんだ』

「学校に行くのも、綾瀬さんと一緒に行こうっていうし……」

『通学路を歩きながら空を見上げていた』

「あんな人! どうせお兄ちゃんのこと何もわかってないんだから!」

 ガシャーン !

『いい音がして綺麗に割れた』


「お兄ちゃんのことを世界で一番わかってるのは私なの! 他の誰でもない! 私!」

『謝んなきゃいけないんじゃないかなあ?』

「ご、ごめん。どなっちゃって」

『1階まで突き抜けた大きな穴が開いていた』

「お兄ちゃんがそういうところで鈍いのは昔からだもんね。わかってるよ」

『膝から崩れ落ちた』


「それはそうと今日の晩ごはんどうしたの?」

『こっそり家を抜け出してアーケード行って、味なんかわかんなかったけど自販機でコーヒー買って、チャリ飛ばして隣町の中学に落書きして帰ってきた』

「そっか。外食したんだ。お金渡しとけばよかったね」

『やっぱり一食三千円は簡単に出せる金額ではない』


「それで、一人でご飯食べたの?」

『自演だと思ってもらっても構わない』

「ふうん。一人で食べに行ったんだ」

『最大16人まで登録できる』

「……やっぱりあの女の匂いがする」

『……なるほど』

「お兄ちゃんの嘘つき!」

『だが、思わしくない事態は続く』


「ねえ、どうしてそんな嘘つくの?」

『社会のせいらしい』

「お兄ちゃん、いままで私に嘘ついたこと一度も無かったのに!」

『通算七回目、今シーズン三回目だ』

「そっかぁ。やっぱり綾瀬さんのところに行ってたんだぁ」

『不可解だ』

「へぇー手料理を食べさせてもらったの? それはよかったね!」

『俺の顔には、ひかりを取り戻した目がついていた』


「お兄ちゃんは優しくて、かっこよくて」

『仕事に誇りを持っている』

「でもちょっと雰囲気に流れやすいところがあるのはわかってた」

『どうして私が悪いみたいになってんのよ!』

「でもお兄ちゃん、きっといつかは私の気持ちを絶対わかってくれるって思ってたから……ずっと我慢してたんだよ?」

『さあ、泣け!』

「それなのに私に隠れて浮気ってどういうこと? 信じらんない!」

『思い通りになるのが癪だったから邪魔した』


「やっぱりあの女がいけないのね」

『俺はそうは思わないけどなー』

「幼馴染みとかでお兄ちゃんにすり寄ってくるけど、結局は赤の他人じゃない!」

『健康な血のように赤い』

「あんな奴にお兄ちゃんを渡さない。渡すもんですか。……たとえ幽霊になって出てきてもまた始末すればいいんだもんね」

『言わば、お詐欺』


「どういう意味って、そのままの意味に決まってるじゃない」

『顔は、割と穏やかに見える』

「お兄ちゃんにすり寄ってくる意地汚い女どもは、みんなもうこの世にいないのよ?」

『出て行け、出て行け、出て行け、出て行け』

「ほら。私の手嗅いでみて。ちゃんと綺麗にしてきたから、あいつらの匂い全然しないでしょ?」

『右の前足全部に包帯が巻かれてる』


「うん、そうよ。今日お兄ちゃんの晩ごはんを作れなかったのは、邪魔な女を片づけてきたから」

『いや、計画的な犯行であることは確かだよな、って思っただけ』

「だってあんなのいらないもん。お兄ちゃんのそばにあんなのがいたら、お兄ちゃんが腐っちゃうわ」

『お前も人のこと言えないだろうに』


「お兄ちゃんを守れるのは私だけ。お兄ちゃんは私だけ見てればいいの。それが最高の幸せなんだから」

『冗談じゃない』

「どうして? どうしてそんなこと言うの? お兄ちゃんはそんなこと言わない! 私を傷つけること絶対に言わないもん! そんなのお兄ちゃんじゃない!」

 ガシャーン!

『脳内ではラテン調の戦闘曲が流れる』


「あーそっかー。あいつの料理食べたから毒されちゃってるんだー。だったらそれを早く取り除かないとー」

『どうせ生きる価値なんてない人生だ、死ぬなら復讐くらいはやってやる』

「あ、でも料理を食べたってことは、口の中もあいつに毒されてるんだよね」

『恐ろしい形相でこう言った』

「食道も、胃の中も。内臓がどんどんあいつに毒されていくんだ」

『開いた口が塞がらなかった。どういうことだ?』

「じゃあ……私が綺麗にしてあげなくちゃね」

『怒りのあまり、俺は社長室で首を吊った』

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