こんな夢を観た「隅田川にカブトエビが現れる」
隅田川に、途方もなく大きなカブトエビが住みついた。非常に凶暴で、ここ数日の間に何十人もの犠牲者が出たのだ。
わたしは「カブトエビ学会」というものに出席していて、たまたまそこで「巨大水生生物研究所」の所長をしているという、女性に出会った。
「隅田川にたまたま流れ込んだ『E-156』という甘味料の1種が原因だ、とわたしは見ているわ。あれは、生物の細胞の中の抑止遺伝子を取り除いて、急速成長させてしまうことがあるの」
「では、どうしたらいいんですか?」わたしは尋ねた。
「そうね。他に巨大化した生き物がいないところを見ると、『E-156』は相当に希釈され、すでに促進作用は失われたと見るべきだわ。つまり、あのカブトエビ1匹だけ相手にすればいいのよ」
しかし、このカブトエビ、並の強さではない。警官が拳銃を発砲したが、固い甲羅にあっけなく撥ね返されてしまった。
ついに自衛隊が出動する事態となったが、RPGすら貫通しない。わずかについた傷さえ、彼らの持つキチンキトサンによって、たちまち再生されてしまうのだった。
隊員たちは口々に、「お手上げだ」「どうにもならん」などと絶望の色を隠せずにいた。
女性生物学者は、
「どうやら、わたし達の研究成果を見せるときが来たようね」と静かに言った。
わたしは彼女といっしょに研究所に行く。
プロジェクトに関わる者が数百人はいた。彼らは一様に、ああ、ついにこの日が来たのか、という表情を浮かべていた。
「例の物を」彼女が声をかけると、研究員の1人が足早に別室へと向かう。
ほどなく戻ってきて、小さなカプセルを手渡すのだった。
「これは最後の手段よ。さあ、これを持って、隅田川へ行きなさい。カブトエビは、間違いなく死滅することでしょう」
わたしは重大な任務と心得、大急ぎで隅田川へ取って返した。
カブトエビはますます凶暴になって、堤防のあちこちを破壊し、手の付けようがなかった。
手の中のカプセルを、えいっ! と川へ放り投げた。
ゴボゴボと泡が湧き、カブトエビよりも、ずっと大きなカブトガニが出現した。
女史の言葉が蘇る。
「カブトエビのライバルはカブトガニよ。しかも彼らは天然記念物だから、誰にも決して倒せないの」
カブトガニはカブトエビを無数の脚で包み込むように組み伏せ、あっという間に食い尽くしてしまった。
「やった……」わたしたちは勝利の杯を味わうことすら忘れ、ただ、呆然と立ち尽くすのだった。これで、隅田川周辺に、再び平和が訪れる。
次の瞬間、カブトガニはぐわっとこちらを振り返った。
カブトガニは天然記念物……その言葉が頭の中でわんわんと響くのだった。




