6:旅立ち
エレノアのことを思い出し慌ててクレインの町まで来た俺だったが、
教会に行くとクソ女はいなかった。
どうも隣国アルイエット王国の首都アルウェンにある教会本部に定期報告に向かったらしい。
そして1週間前に出立したというクソ女は俺が来た時のために置手紙を残していた。
【はぁ~い、ジョージくぅん。きみがお布施を持ってくるのが遅いものだから、一度王都に戻ることになったわ~。ついでだから君のことも~、教会本部に話しっちゃおっかなぁ~?
だけど~、きみが~、お金持ってアルウェンまで来てくれたら~、私の口も固くなっちゃうかもなぁ~?
というわけで~、わかってるよね?よね?・・・・・・利息マシマシで金貨5枚な。
あなたのアイドルエレノアより愛をこめて】
手紙を読み終えると、瞬時にそれを握りつぶす俺。
だが、ここで行かないという選択肢は俺にはない。大陸中で信仰されている教会相手に戦えるほど
俺の準備は万端ではない。今は力を蓄える時だ。目立つのはまずい。
「せっかく、NSAISEIチート楽しんでたのによ。」
リオールの魔道具とノーフォーク農法を取り入れた俺たちの農業は非常に効率的に収穫ができるようになり、
かなりの利益が出ていた。さらに俺のスキルにより錬成した魔石の売却収入を合わせるとこの2か月間で金貨20枚ほどの金を得ることに成功していた。
しかも、魔石は全てを売却するわけではなく、高レベルの魔石については極力売らずに残しておくようにしている。
そういう事情もあり、金貨5枚についてはうざいと思いつつも、そこまでの負担には感じていなかった。
もちろん、いつかはこの借りを倍返ししてやるつもりだがな!
隣国とはいえ、アルウェンまでの道のりは長い。
徒歩で行けば2週間ほどかかる。馬車ならば5日間ほど、馬を走らせれば3日でつくとのこと。
ならばと俺は馬を選ぶ。実は昔田舎のじいちゃんちが牧場をやっていたので馬には乗れるのだ。
保存食料や毛布など旅に必要なものを揃え馬屋に向かう。
馬屋には大小様々な馬がいたが、そのなかで俺は比較的小さく大人しそうな馬を選んだ。
「どもっす。この馬はいくらっすか?」
「まいどっ!お兄さん目敏いね。そいつは体はちっちぇぇが、非常にかしこいやつでな。銀貨80枚でどうだい?」
「高すぎ。銀貨1枚だろ。」
「ふざけんな。帰れ!!」
この世界で最初の売値で買い物をするものはいない。値切るのが基本だからだ。
だからと俺も低めでいってみたのだが、さすがに常識の範囲内でということらしい。その後ある程度妥協すると銀貨50枚で買えた。
日本円で50万円。高いのか安いのか微妙なとこだな。
さらに俺は馬を預けて魔道具屋に寄ってみた。王都に行く前に頼んでいた魔道具を確認したかったのだ。
入ると最近見なかったしわくちゃじじいが出迎えた。
「ほっほっほ。おひさしぶりです。ご要望のレア魔道具を仕入れてきております。」
そういうとじじいは二つの杖を取り出した。
一つは神聖な雰囲気を漂わせる銀色の杖。もうひとつはコールタールのようにどす黒く妖しい雰囲気の漆黒の杖。
「こちらがヒールロッドです。聖魔石を消費します。効果は魔石の大きさによってですが、簡単な怪我なら一瞬で回復できます。
そしてこちらが、ダークロッドです。闇魔石を消費します。効果はこちらも魔石次第ですが、相手の心を支配することができます。
ああ、ちなみに私は対闇魔法の魔道具を持っているので効きませんがね。」
「ふむ。かなり有用だな。」
「料金は両方とも金貨3枚になります。ヒールロッドはアリア教の高位神官が使用しているものですので、なかなか手に入れるのは骨が折れましてね。
ダークロッドに至っては持っていることがばれたら即牢獄行きですからね。両方とも当然非売品です。
お値段は張りますが、必ずご満足いただけると思います。」
そう言ってにやりと笑うじじい。だが俺はすでに両方とも買うことを決めていた。
日本人はレアとか特別とか非売品とかとにかくそういう単語には弱いのだ。
金貨6枚を支払って店を出る俺。・・・・・いい買い物をしたな。
ちなみにウインドロッド含めて魔道具が3つとも杖な件について。かさ張るだろこれ!という主張をしてみたら、
かさ張らない魔道具は指輪型のもの等があるらしいが、そういうものは現代の魔法技術では作れず、
古代の遺跡等からしか発掘されないアーティファクトなのだとか。もちろん買おうとすれば天文学的な金額になるとのこと。
指輪型魔道具とかメッチャかっこいいと思ったが、まあないものねだりをしてもしょうがない。
お金が溜まったら絶対買ってやるんだから!!というしょうもない決意を胸に馬に乗って一路おっちゃん家に帰るおれだった。
おっちゃん家に帰り隣国アルイエット王国の首都アルウェンまで行く話をおっちゃんとリオールにした。
二人は驚きながらも、俺のことを心配してくれた。
「ジョージさんはアルウェンにいったことないんですよね?道案内は大丈夫ですか?僕もついて行きましょうか?」
「ふむ。今は盗賊が出ているという話も聞くし、俺が護衛についてってやろうか?」
だが、俺はその提案をやんわりと断った。
畑のこともあるし、付き合わせてしまうのも悪い。何より気ままな一人旅というのが俺の厨二心をくすぐる。
盗賊の件は馬も魔道具もあるしまあ大丈夫だろう。
「いや、今回は俺一人で行ってくるよ。幸い馬も買えたし2週間くらいで戻ってくるから畑の方はよろしくな!
地魔石は全部おいていくからさ。」
地魔石の在庫はまだまだたくさんあった。今の耕作面積なら1年くらいは軽く持つはずだ。
二人もそこまで心配しているというわけではなく、俺が強く一人旅を主張するとわりとすんなり納得してくれた。
お土産に酒と本を買っていくるという条件でだが。もちろんおっちゃんが酒でリオールが本な。逆はありえん。
というわけでその日は俺の旅の出発祝いということで夜遅くまで酒を飲み語らいあった。
畑の話に始まっておっちゃんの武勇伝や俺の世界の話、リオールの苦労話など話題に尽きることなく、夜遅くまで盛り上がるのだった。
・・・当時を振り返るとこの時のことが思い出される。
もしも、この時リオールが俺を引き留めていたら・・・・おっちゃんが俺についてきてくれたら・・・・・
歴史のIFをどれだけ思考しても起きてしまった現実は変えられない。
ここは確かに分岐点だった。だが、俺は一人で行く旅を選んだのだ。他でもない俺が選んだ。
ならばその結果どういう道を辿ろうともそれは全て俺自身の責任なのだ。・・・例えそれが選ばされたものだとしても・・・。