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5:農業

それから1週間経ったある日。


俺はおっちゃんの畑で雑草を毟っていた。


「今日もいい天気だな~。」


俺は草を毟る手を休めると、思いっきり伸びをする。

胸いっぱいに深呼吸すると草と土の香りが胸に広がる。


先週は色々あったが、この1週間ほどは何事もなく穏やかに過ごすことができた。

特に畑仕事は俺を癒してくれた。

都会っ子の俺は農作業なんてしたことがなかったのだが、やってみると案外これが性にあっていた。

最初は筋肉痛になったりして大変だったが今はそんなこともなくなってきた。

大分筋肉もついてきた気がする。メタボ腹も大分へっこんだ。

ゆったりとした空気と適度な運動で俺は肉体的にも精神的にもリフレッシュしていたのである。


おっちゃんの畑に珍しい来訪客が現れたのはそんなよく晴れた昼下がりのことだった。


「こんにちはー!」


「おう!久しぶりだな!」


「どもっす。」


まだあどけなさを残す若い青年が声を掛けてきた。

俺とおっちゃんは挨拶を返す。どうやらおっちゃんの知り合いのようだ。


「今日は急にどうしたんだ?」


「ランドさんお久しぶりです!・・・実は今日はそちらの方にお話があって来たんです。」


「え、俺?」


俺が驚いて聞き返すと、青年は俺の目をまっすぐ見つめ挨拶をした。


「はじめまして。僕の名前はリオールと申します。初めての方に不躾で申し訳ないのですが、実はあなたにお願いがあって参りました。

・・・地魔石を持っていたら僕に譲っていただけないでしょうか?」


その青年の言葉を聞いた瞬間俺の脳がフル回転し始める。俺の能力に関わることだけに俺の警戒心が一瞬で最高潮に達した。


(こいつ・・・何故おれが地魔石を持っていると知っている!?いや、こいつは確か「地魔石を持っていたら」と言った。

つまり、持っている可能性は高いが持っていることを確信できていないのか。ならば・・・とぼけて情報源を探ってみるか。)


「地魔石ですか?残念ながら持ってはおりませんが、いったいどうして僕が持っていると思ったんですか?」


「それは・・・・魔道具屋のおじいさんに教えてもらったんです。あなたなら地魔石を持っているかもしれないと。」


(あのじじいかよ!糞が!勝手に人の情報売りやがって!今度会ったらこのお礼はたっぷりしてやらないとな!

・・・しかしこの場面はどうするか。素直にあると言って高く売りつけるか?・・・いやそんなに金を持っているようには見えないし

・・・本当にどうするか・・・)


俺が自分の思考に潜り黙っているとおっちゃんが割り込んできた。


「まあ、落ち着けよ二人とも。焦りすぎだぜ?おい、リオール。お前ぇ何で地魔石が必要なんだ?そもそもお前アルイエット王国で働いてなかったっけか?

色々急すぎて坊主が警戒してるみてーだしな。ちょいとその辺を教えてくれよ。ちゃんと説明すれば坊主が地魔石を譲ってくれるかもしれねえぞ?」


その言葉に顔を輝かせるリオール。そして、まさかの暴露に仰天する俺。


(おいおい!おっちゃん!何で言っちゃうんだよ!こいつが何か企んでいたらどうするんだよ!?)


非難の目でおっちゃんを見ると、おっちゃんは親指を立ててウインクしてきやがった。チクショウ!伝わってねぇ!


仕方なくリオールの方に目を向けるとこちらは大分落ち着きを取り戻したようで深々とお辞儀をした後ゆっくりと喋りだした。


「失礼しました。どうも焦っていたようです。こちらの要件ばかり押し付けてしまって・・・。

なぜ僕が地魔石を求めるのか・・・長い話になってしまいますが聞いて貰えますか?」





話が長くなるということで一旦おっちゃんの家に戻ることとなった。

長話を炎天下の中、立ったまま聞くほど俺はドMじゃない。


「それでは改めまして。・・・僕はもともとこの辺りの農家の子として生まれました。父と母と僕と妹の4人で貧しいながらも慎ましやかに暮らしていました。

だけどある時飢饉が起きました。それまでも生活は厳しかったのにさらに食べる物が無くなりました。その時は虫でも何でも食べました。土さえ口に入れたことがあります。

それでもどうにもなりませんでした。父と母は相談して妹を奴隷商人に売りました。妹はまだ畑仕事が出来なかったし、女の方が高く売れるからです。妹は金貨2枚に変わりました。

妹が連れて行かれた後僕は悔しくて泣きました。僕に力があれば妹は連れて行かれなかったんじゃないかって思ったんです。・・・そしてその時僕は決意したのです。

貧困を無くそうと。貧困を無くす力を得ようと。それから僕は勉強しました。貧困を無くすために農業を研究しようと思ったからです。

そのためには国の研究機関に所属するのが一番でした。そして、3年前僕はアルイエット王国の試験に合格し研究者としての道を歩むことになったのです。」


「第一章完。リオール先生の次回作に乞うご期待!」


話が長くなったので、俺は適当に相槌を入れる。


「まだ終わってませんよ!勝手に打ち切らないで下さい!・・・というか不思議な方ですね、あなたは。先ほどまではすごく怖い顔をしていたのに、

今はなんだか気が抜けたような顔をしています。どちらが本当のあなたなんですか?」


「さあね。」


俺は照れを隠すように短く返す。気が抜けたのは本当だ。こいつ・・・リオールは驚くほど邪気を感じない真っ直ぐな青年だった。

自分の身の上話を一生懸命話すリオール見ていたら何だか警戒していた自分がアホらしくなったのだ。

別にリオールの境遇に同情した訳ではない。決して同情した訳ではないのだ。大事な事だから2回言いました。


「ふふふっ。それでは続きといきましょうか。

研究者となった僕は地魔石に目を付けました。発見例が少ない地魔石ですが、その中でも肥沃で農作物の収穫の多い土地で見つかったという報告が多かったからです。

もしかして地魔石が土を肥沃にしているのではないか。そう考えた私は、幸運の結果何とか地魔石を手に入れ、実験を繰り返し、地魔石用の魔道具を作成することに成功しました。

そう、魔道具を作成することに成功したのです・・・ですがその成果は半分失敗でした。確かに魔道具を使った土地で作物を育てると驚く程のスピードで

実をつけるようになります。ですが、その後・・・同じ場所で同じように作物を育てると、今度はうまく行かないのです。途中で枯れてしまったり、

実がならなかったりするようになってしまします。だからぼくの研究はまだ完成していないんです。だけど・・・王国の情勢が怪しくなってきて・・・。

はっきり言いますと王国はセフィーリア公国との戦争の準備を進めているのです。まだ戦争の準備が整っていないので、すぐには始まるという訳ではありませんが、おそらく・・・1年以内には始まるでしょう。

公国との戦争が始まれば王国は大量の食糧を必要とするでしょう。そうなれば王国から食料を輸入しているヴァストール帝国では飢饉が起こる可能性が高いのです。

私はそれを何としても防ぎたくて王国の研究者を辞めて故郷に戻ってきたのです。未完成の魔道具を持って。確かに魔道具は未完成ですが、一定の効果はあります。

地魔石さえ大量にあればそれで何とかなるはずなんです。地魔石さえあれば!お願いです!どうか、あなたの持っている地魔石を譲って頂けないでしょうか?もちろん対価はお支払いいたします。

どうか、お願いします!」


リオールは椅子から立ち上がり、地面に頭を擦り付けて懇願する。いわゆる土下座スタイルである。

だが俺はそんなことよりどうしても気になっていることがあった。このままにしておくのも気持ち悪いのでとりあえず聞いてみた。


「連続して作物を育てられないってそれ、連作障害でしょ?輪作すればいいんじゃね?あと、ローテーションにはマメ科の作物を入れて、

有機肥料を投入すればさらに改善されるはずだけど、それじゃダメなの?」


「え?」


「え?」


リオールは地面に膝をつけたままポカーンとしてこちらを見ている。


(あれ?まさか知らなかった?というか異世界物の小説で読んだだけのナンチャッテ知識だからあってるかわからんしね!だから聞いたのに!

失敗だったか・・・?つかおっちゃんのやろうニヤニヤ笑ってこっち見やがって・・・クソッ!こうなったらここは恩を売っておくか・・・地魔石の魔道具というのにも興味はあるしな)


そんなことを考えていると呆然自失から立ち直ったリオールがすごい勢いで詰め寄ってくる。


「ちょ、ちょっと待ってください!どうしてあなたがそんなこと知って・・・・いえ、それより!私の研究について何か知っていれば教えて頂けないでしょうか?」


「情報料金貨50枚な!」


俺は適当にいじわる言ってみた。俺は基本的に教えて君とクレクレ君には厳しいのだ!リオールは「それは・・・」とか言って俯いている!ざまぁ!

リオールをいじめてご満悦の俺だったが、おっちゃんが超怖い顔で俺を睨んでくる。・・・・やめて、そんな目で俺をみないでくれ!おっちゃん。ビクンビクンしちゃぅ!


「・・・ごほん。冗談はともかく、話は分かった。ここはギブアンドテイクで行こうじゃないか。俺は地魔石を持っている。数もある程度の量は融通することが出来る。

さらにおそらく俺しか知らない農業の知識も提供しよう。お前は俺に地魔石の魔道具とお前の知識をくれればいい。あとまずはおっちゃんの畑で実験するからその手伝いもしてくれ。」


「はい!それでいいです!ありがとうございます!」


リオールは瞳を輝かせて喜んでいる。その姿に俺はリオールが尻尾をブンブン振っている姿を幻想した。もちろん、尻尾なんかないが・・・。

ちなみに、おっちゃんは実験の許可をくれ、さらに手伝ってくれることとなった。おっちゃんは俺の3倍くらい働くからな・・・頼もしい限りだぜ!


そうこうしているうちに日が暮れ始めていたので、リオールはおっちゃん家に泊まることとなった。

その日はお互いの情報を共有して翌日から実験にとりかかるという事で話がまとまった。


リオールは研究者というだけはあって農業に関する造詣が深かったが、時折俺が常識として知っていることを知らなかったりした。

まあ俺の知識が偏っているだけなのだろうが。

知らないことを質問してくる時のリオールは子犬みたいでちょっとかわいいなと不覚にも考えてしまい、自分で自分に絶望した。アッ―!


説明の都合上俺のスキルの事も簡単に説明したが、まあコイツなら大丈夫だろう。

どう見ても人畜無害そうなやつだし、さんざん脅してやったからな。





翌日俺たちは地魔石の魔道具(リオールは豊穣の魔道具と呼んでいるらしい)を畑に設置した。

10m×10mごとに1つ置く必要があるとのことで、10個ほどの地魔石を畑に等間隔に設置した。


おっちゃんの畑に植えられているのは小麦だ。

今の時期は初夏を少し過ぎたころで、秋の収穫はまだだいぶ先だ。

いくら豊穣の魔道具が成長を促進させる効果があるといってもまだまだ時間はかかる・・・・そう思っていた時期が俺にもありました。


結論から言うと小麦は1週間で青々とした実をならせ、さらにもう1週間経過すると小麦畑は黄金の草原に姿を変えていた。

種を蒔く時から豊穣の魔道具を使えばだいたい1月で収穫できるまで成長しますとリオールにドヤ顔で説明された。ムカつく。


さらにその後同じ畑で大豆を植えたところこちらは2週間ほどで収穫まで成長した。

これで俺の連作障害対策は一定の効果があることが証明されたわけだ。

リオールは当然大喜びし、それ以降俺を見る目がなんかキラキラしていた。

・・・これってただ尊敬されているとかそういうことだよね?・・・うん、そういうことにしておこう。


農業についてはこれから大麦→カブ→小麦→大豆で回していく予定だ。

なぜ、これかというとネット小説で有名なノーフォーク農法を俺が知っていたためだ。大豆はクローバーの種が町で見つからなかったため代役とした。

あくまで知識として知っているだけだったため、自信はあまりなかったが、大豆ではうまくいっているため今後も予定通り進めていくつもりだ。

ちなみに豊穣の魔道具を設置すると作物の成長も著しいが、雑草も良く伸びるので雑草毟りが大変だった。


ちなみに収穫物は3等分してくれることになったので、遠慮なくもらった。その内まとめて売りに行ってもいいな。


売れない地魔石を農業に転用することができたのは俺にとっては大きいことだ。

魔石を売り続けていればやがて値崩れしてしまうかもしれない。それだけは避けたかった俺にとって魔石以外の収入源があるというのは嬉しい。


今後は奴隷でも買って規模を広げていくのもありかもしれない。・・・その場合はおっちゃんの許可も必要だが。

その収入を想像するだけで笑いが止まらない俺だった。



そんなこんなで、農業を始めた俺は非常に順調と言えたが、順調なだけに失念していることがあった。

そう、エレノアのことである。前回の訪問時から既に2月が経とうとしていたが、

リオールと一緒に農業に夢中になっている俺はすっかり頭から抜け落ちていたのである。


その事が今後どんな影響を与えるのか・・・。

それはまだ誰にもわからない・・・。

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