2:町
「まずは肉屋からだな。新鮮なうちに売っちまいてぇ。」
俺はおっちゃんに続いて町の門を通り抜ける。
一応見張りの人がいたが、こっちを一瞥しただけで何も言わなかった。
「というかこりゃ町というか村って感じだなぁ。人少ないし。」
「いやいや、これでもここら辺りじゃ一番の町だぜ?ここは。」
門を抜けると大通り沿いに木造の家屋が立ち並びそれぞれ何かしらの商売を行っていた。
ここクレインの町には2千人くらいの人が暮らしているそうで、活気のある町なんだそうだ。
・・・もともと東京に住んでいた俺からすると非常にさびれた感じがするんだけどな・・・。
すぐに目的の店にたどり着く。
「よお。また肉売りに来てやったぜ。」
「おお、ランドの旦那!らっしゃい!今日も大量かい?・・・っとこれは狼の肉かい?」
「ああ、さっき8匹ほど狩ったんだ。新鮮なんだから、ちったぁ高く買ってくれよ?」
「もちろんでさぁ。・・・これだけの量だと・・・銀貨15枚、いや16枚でどうだい?」
「ああ、それでいい。」
手慣れた様子で商談を終えるおっちゃん。・・・っていうかおっちゃんの名前初めて聞いたわ。
それにしてもお金の価値がわからん。銀貨16枚ってどのくらいなんだ?
疑問に思ったのでおっちゃんに聞いてみた。
どうやらこの世界には金貨、銀貨、銅貨、青銅貨などがあるらしい。
貨幣の価値は
金貨1枚=銀貨100枚
銀貨1枚=銅貨100枚
銅貨1枚=青銅貨10枚
で、だいたい銅貨1枚でパンが1つ買えるらしい。
ということは日本円に換算するとパンが1つ100円としても
金貨1枚=100万円
銀貨1枚=1万円
銅貨1枚=100円
青銅貨=10円
だいたいこんな感じだろう。
そうするとあの肉は16万円で売れたわけか。なかなか高く売れるんだな。
さらにおっちゃんは毛皮を違うお店に売りにいって銀貨7枚を得ていた。
合計で23万円か・・・普通に俺の1月分の給料くらいじゃねえか。
それをたった半日で稼いだおっちゃんに軽く嫉妬。
その後おっちゃんは俺に服を買ってくれた。
中古の服だったが3着で3万円。微妙に高い気もするが。そんなもんか。
その他下着とか必要なものを一揃い買ってもらった後教会に向かった。
当然すべての料金はおっちゃんもち。・・・もうおっちゃんに足向けて寝れねぇな。
教会は町の中心部にあった。教会の建物は周囲の建物と比べてもかなり立派な造りになっていた。
「おいおい、教会が金持ってるってーと悪いことしてるって想像しかできんな。」
「おっと、町じゃ教会批判はやめておいた方が無難だぜぇ?あいつらの狂信者っぷりは半端ねぇからな。
もし、ケーネクスの首都でそんなこと言ったら、坊主おめえ確実に死刑だぞ?」
「どんだけだよ!怖ぇよ!」
この大陸唯一の宗教であるアリア教は大陸のほぼ全域で布教活動を行っているらしい。
さらには大陸南西部にある聖ケーネクス皇国はアリア教の総本山であり、
そんなバックが付いているアリア教を敵に回してしまうと国一つを敵に回すことになってしまうのだとか。
「ま、それはそれで面白そうだけどなー?」
「勘弁してくれよ!俺はおっちゃんと違ってただの一般人なんだっての!・・・とりあえず教会では大人しくしてるんでよろしく・・・」
教会の中に入っていくと受付がありそこには若いお姉さんが1人座っていた。
「いらっしゃいませ。今日はどういったご用件でしょうか?」
「おう。こいつのステータスが見たくてな。」
「はい。それでは銀貨5枚になります。・・・確かに頂きました。ではこちらの腕輪をはめて下さい。」
銀色の腕輪を俺に差し出すお姉さん。・・・しかし金とんのかよ。銀貨5枚とはぼったくりじゃねぇか。
と思いつつも教会の怖い話を聞いていた俺はそれを口には出さず、素直にその腕輪をはめる。
「それでは行きます・・・・ステータス・ディスプレイ!」
お姉さんが呪文を唱えると白い光がお姉さんの体から放出された。
俺は眩しくて目をつぶったがすぐに光は治まった。
するとお姉さんの手元の紙に何やら文字が浮かび上がっっていた。
(というかこの国の文字って全部日本語なんだよな・・・まあ読めるのは有難いけど・・・なぜ日本語なんだ・・・)
「こちらがステータスカードになります。どうぞご覧ください。」
俺はお姉さんの手元の紙を覗き込んだ。
■ステータス■
力:E
体力:F
素早さ:F
魔力:計測不能
知力:A
運:E
■スキル■
・魔石錬成(Lv1)
魔石を作成することができる。魔石の種類はランダム。
スキルLvが上がれば魔石ランク・作成個数ともに増加していく。
(おお!スキルゲット!魔石錬成とかいかにも厨二っぽくて大好物だぜ!
しかし、ステータスは酷いな(笑)魔力と知力以外EとFじゃねえか。
ま、スキルがあったし良しとするか。)
そんなことを考えていると、お姉さんがニコニコしながら話しかけてきた。
「レアスキルですね。おめでとうございます。魔石を作れるスキルなんて聞いたことがありません。
魔力も計測不能ということは少なくともSランク以上でしょう。
本国で働いていただければ多額のお給料が貰えると思いますよ?」
本国と聞いて瞬時にビビる俺。
(やばい!やばい!教会なんかに目を付けられたらにいいように使われちまう。ここで何とかお姉さんの口を封じないと!)
「いや~、あっしみたいな者に高貴で偉大なる教会にお声をかけて頂けるなんて身に余る光栄のあまり死んでしまいそうになっておりますが、
何分あっしは下賤でありやすので、残念ですが、非常に残念ですが辞退させて頂きたいと思います。
ついでにあっしの能力のことは黙っていてくれるとうれしいなぁ~なんて思っておりやす!」
もはやテンパりすぎてへりくだり過ぎる俺。自分でも何を言っているのかよくわからない。
「それは困りましたねぇ~。私も本当は黙っていてあげたいのですが、一応私も教会に属している身ですので~、
報告を上げる義務があるんですよねぇ~。
でもぉ~、私~、たくさんのお金を見ると~、うれしくてぇ~、記憶が飛んじゃうことがあるんですよねぇ~。」
チラッ、チラッとこっちを見ながら話すお姉さん。もといクソ女。
(このぉ、クソ女!あからさまに強請ってきやがる!足元見やがってぇぇ・・・)
俺が怒りに震えていると、おっちゃんが一歩前へ出て銀貨の入った袋を女に投げ渡した。
「それで足りるか?」
すると即行で中身を確認する下痢便女。
「いい心がけですねぇ。・・・ひのふの・・・ふむふむ・・・そうですねぇ~、このくらいの金額ですと1月は私バカになっちゃうかもしれないですねぇ~。」
再びこちらをチラッ、チラッとみて口で糞を垂れる下痢便。もはやこいつは女でもない。ただの下痢便だ。
「じゃあ、また1月後にでもこいつを来させるぜ。」
「はい、楽しみにしてますねぇ~。」
「坊主もそれでいいか?」
「・・・・・ああ。わかった。」
俺はおっちゃんの言葉にうなずく事しかできなかった。
「じゃあそろそろ帰るか。」
「・・・ああ。」
「またのお越しをお待ちしております。私の名前はエレノア・シンクレアと申します。以後お見知りおきくださいませ。
それでは来月もよろしくお願いします。レアスキル持ちのジョージ・スズキ様。そして剣聖ランド・J・グレイシア様。」
振り返って殴りつけたくなる気持ちを抑え俺はドアに向かって歩き出す。
(・・・俺を敵に回したこと、絶対に後悔させてやるぜ・・・)
エレノア・シンクレア。俺はその名前を絶対殺すリスト(デス・ノート)に刻み込み付けるのだった。