1:異世界
気が付くと草原に立っていた。
見渡す限り360度草原が広がっている。
俺は上下のジャージを着ていた。少し肌寒い。
(ここはどこだよ・・・・)
俺はなぜ自分がここにいるのかを考える。
(たしか、仕事が休みだから深夜までネットサーフィンをしてたんだよな・・・
それで、小腹が空いたから弁当を買いにコンビニに行こうとして・・・
その先はよく思い出せない・・・でも強烈な光に包まれたような気がする・・・)
そこで俺はハッと気付く。
(これはもしかして・・・・異世界トリップか!)
実は俺こと、鈴木譲二は異世界トリップものの小説が大好きで、よくネットでその手の小説を読み漁っていた。
歴戦の異世界トリッパー(妄想の中で)である俺は、この状況をよく知っているのである(妄想の中で)。
そして、そんな妄想戦士の俺が異世界に来て一番最初にやることは決まっている。
俺は右手を前に向けて叫ぶ!
「ステータス!」
・・・・・・。
さらに続けて叫ぶ!
「メニュー!スキル!アイテムボックス!」
・・・・・・。
心が折れそうになりながらもさらに続ける。
「ファイア!アイス!サンダー!ヒール!ワープ!」
・・・・・・。
遠くの方で動物のクォーーーンという声が聞こえる。
(くっそ!まじかよ・・・異世界トリップものといえばチート能力もらえるのがテンプレだろが!
つーか、何かオオカミの雄叫びっぽいのも聞こえるし・・・何にも能力もらえなかったら、普通に死ぬだろこれ。どうすんだよ!?)
普段は運動なんてほとんどしない。仕事もパソコンの前からほとんど動かないので、最近はメタボな体型になってきている。
そんな状態でサバイバルなど出来るわけがない。
最後の望み・・・身体能力が向上されている可能性に賭けて・・・適当な方向に向けて走り始める。
そして20秒で息切れする。
はぁ・・はぁ・・・
(クソがっ!っざけんな!チート能力なし、身体能力おっさん、装備ジャージとサンダル、仲間なし、現在地不明。
難易度ベリーハードどころじゃないよ!もうこれ詰んでるだろ!
だいたい昼?なのに少し寒いし、夜になったら耐えられるのか?火とか起こせないし!
というか食料もないし!動物もいるっぽいし!野宿とか無理だろ。野宿が無理なら夜までに町でも村でも見つけなきゃいけない。
よしんば町が見つかっても、言葉が通じるか分からないし、お金もないし、そもそも見つかり次第殺されるなんて可能性もあるが・・・)
考えれば考えるほど現在の状況が非常に厳しいものであることを思い知らされる。
異世界トリップしてチート能力でハーレムtueeとかは所詮物語の話だ。現実はかくも厳しい。
今日明日生きることすらままならないのだから。
俺は祈った。地面に膝をついて祈った。
(頼むっ。こんな訳の分からない所で死にたくない!チート能力なんかいらない!・・・できれば欲しいけどっ!
今はとにかく死にたくないんだ!神様でも誰でもいい、助けてくれっ!!!)
そうして10分程して、そろそろ現実逃避していられないと思い始めたころ、ジャリっと土を踏みしめる音が後ろから聞こえた。
俺は驚いて振り返る。
そこには・・・
「おい、坊主。こんなところで何やってんだぁ?このあたりはオオカミどもの狩場だ。すぐにお家に帰った方がいいぜ?」
見上げる程の大男。筋骨隆々、髪は白髪で長髪を後ろでまとめている。熟練の冒険者のような佇まい。
俺はそいつを呆然と見上げながら思った。
・・・神はいた。
「じゃあ隣町に行けば自分のステータスを見れるんだな!っていうかこのお粥うめーな!」
「まあ隣町と言ってもここから歩いて半日はかかるがな・・・っていうか普通の粥がそんなにうまいか?」
あの後俺は今おっちゃんに連れられておっちゃんの家まで来た。
俺が異世界トリップしたこと、お金がないことを話すと、おっちゃんはそれなら自分の家に来いと言ってくれたのだ。
おっちゃんマジ天使。
そして歩き始めて1時間ほどで家に着き、
今はお粥みたいな食べ物を頂きながらこの世界の話を色々聞いていた。
どうやらここはアルカディア大陸北部のヴァストール帝国北西部にあたるらしい・・・なんのこっちゃ。
とりあえず大陸北で寒いというところまでは理解した。今の季節は夏とのことだから冬はよほど寒さが厳しいのだろう。
それより俺が一番興味を惹かれたのはこの世界は魔法やスキルといったものが普通に存在すること。
しかもある程度の規模の町にある教会ならば自分のステータスが見れる魔道具が置いてあるようだ。
その魔道具があれば自分のスキルや魔法も確認できるのか。
魔法とかスキル、ステータスといったファンタジーな単語に俺は胸の高鳴りを抑えられなかった。
「おっちゃん!明日町まで連れて行ってくれよ!」
「仕方ねーな。そんかし戻ったら坊主も畑仕事手伝えよ。」
「了解っす。うほ!明日が楽しみだぜ!」
テンションが高かった俺だが、飯を食った後は疲れが一気に出たのか急激に眠くなり、
その日はすぐに眠りに落ちてしまった。
翌日
俺のテンションは復活していた。
「おっちゃん、こっちは準備万端だぜっ!」
「・・・オメェは準備なんかねぇじゃねえか」
俺がやけに興奮気味なのには訳がある。
オッチャンがファンタジー系の作品で出てきそうな冒険者風の恰好をしていたからだ。
そして背中には長剣を装備している。
ファンタジー好きの俺にとってはたまらない。テンションも上がるってもんですよ!
その後も妙にテンションが高いまま町に村って歩く。
道中聞いた話によると、おっちゃんは昔冒険者をしていたらしい。
冒険者と聞いてさらにテンションの上がる俺だったが、
どうやらこの世界では冒険者という職業はほぼいないらしい。
というのもこの世界には魔物がいない。(ドラゴンはいるらしい)魔物がいないため、魔物を倒して素材を持ち帰り換金するなんてこともできないわけで。
当然冒険者ギルドもない。つまりこの世界の冒険者とはただ世界を巡る旅人か、
一部の貴族や王族から依頼を受けて秘境に貴重な素材を求める者しかいない。
この場合必然的に後者は超一流の人材のみとなり、後者であるおっちゃんはつまりその道において超一流であるということだ。
おっちゃんつえぇ・・・。まあ、最初から只者ではない雰囲気だったけどね。
そんなこんなで話をしながら3時間ほど歩いていたとき、(俺が途中でバテたので休憩を挟みながらだったが)
おっちゃんが急に立ち止まった。
「囲まれている。・・・ふむ、20匹ほどか」
「げ・・・ほんとだ・・・全然気づかなかったぜ・・」
気づくと20mくらい離れて狼の群れに囲まれていた。
「ま、ちゃちゃっと片付けますか。坊主、動くんじゃねーぞ。」
「ちょっと、まっ・・」
おっちゃんは走り出した・・・のだと思う。
正直目で追えなかった。ブンッという音とともにおっちゃんが突進した先では既に狼が2匹血まみれで宙を舞っている。
俺はその様子を呆然と眺めることしかできない。あまりの速さに思考がついていかないのだ。
そうしている内に何匹目かわからない狼が吹っ飛ばされると残りの狼はおっちゃんに恐れをなして逃げ出し始めていた。
「ふん。これ以上は殺しても持っていけねーな」
そんな事を言いながら死んだ狼の皮を剥いでいくおっちゃん。
その様子を黙って眺める俺。狼の死体は内臓が腹から飛び出したりしていて正直グロい。
正直グロいのだが、その前の光景が衝撃的過ぎてあまり精神ダメージはない。
そもそも俺は学生の頃カエルの解剖を進んでやっていた記憶があるから意外とグロ耐性はあるのかもしれない。
そして30分ほどで剥ぎ取りは終わった。狼の毛皮と肉は背中の袋に入れておっちゃんが担いでいる。
「んじゃーそろそろ行くか」
「あ、ああ、わかった。・・・しかしおっちゃん強いんだな。正直おっちゃんみたいなのがごろごろいたらこの世界で生きていく自信ないんですが」
「ぐっははっはっは。安心しろ、坊主、俺より強ぇやつには俺も会ったことがないぜ。まあ、同レベルくらいならいないこともないがな」
「ぐはっ。言ってみたいセリフベスト20に入る言葉キタコレ!その10分の1でいいからその力を分けて欲しいぜ!」
「まっ、そのうち俺が鍛えてやってもいいぜぇ?まずはその弛んだ腹からどうにかしないとな」
「・・・お手柔らかにお願いします。」
この世界で一番最初に会ったのがおっちゃんだったのは幸運だったかもしれない。というか間違いなく幸運だろこれ。
異世界最強クラス使い手?のくせに強面の顔に似合わず世話焼きで気さくなおっちゃん。
まじイケメン。最悪おっちゃんになら抱かれてもいいなとかそんな下らないことを考えながら歩く俺。
その視線の先に、町を囲むように作られた塀が見えてきた。
異世界で能力チートしようと思ったらおっちゃんがチートだった。何を言っているのかわからねーと思(ry
はい、という訳で第1話終了です。
この作品は練習を兼ねた初投稿作品になりますので、
暖かい目で見守って頂ければ幸いです。
ご意見・感想・誤字脱字のご指摘等もお待ちしております。