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What-if games?  作者: 岡田播磨
1章 PROLOGUE 失恋。ダメ、絶対!
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第三話


 袋井は気付いてしまった。

 目の前にいる想い人が、自らに何ら関心がないことを。


「おまたせ、袋井くん!」


 武田美月たけだみつきは袋井と同じ、学園に通う高校2年生である。

 彼女もまた、撃退士ブレイカー

 赤毛のポニテールを揺らし、快活な笑顔で男女隔たりなく接する、誰にでも愛される猪突猛進系の少女である。

 本人に自覚はないが、数多くの生徒が彼女を好いている。

 その証拠に多くの矢印が彼女へと向けられ、その殆どに半分だけのハートが浮かんでいる。

 袋井のそれもまた、同じであった。

 反して美月から放たれる矢印には、ハートは見られない。

 美月は裏表のない少女だ。

 好きなものは好きといい、嫌いなものは嫌いと言う。

 もし、美月が恋をしていたのなら、恐らく誰もが一目見てわかることだろう。

 それほどまでに、美月の表情はとても豊かで、素直だった。


「どうしたの? なんか浮かない顔してるね?」

「いえ! なんでもない、ですよ……」


 引きつった微笑みで、袋井は美月の問いに答えていた。

 美月から袋井へ繋がる線は、綺麗な矢印だけであった。

 気には掛けている。でも、関心はない。

 袋井が美月と再会するまでに見た矢印から導き出した答えが、それであった。


「ルナくんは、一緒じゃないの?」

「彼は、別の用があるらしくって……。ほら、彼って喫茶店のマスターしてるから」


 久遠ヶ原学園の生徒たちには、みな自主的な経営活動が許可されている。

 広大な敷地内に生徒運営の喫茶店や、小売店があり、学園内を通っている交通機関もまた学生が運営している。


「なんか失礼しちゃうな! 呼び出した本人がいないだなんて――っで、話ってなぁに?」


 ぷくっと膨れて、パッと微笑む。

 千差万別の彼女の表情に、袋井はタジタジである。


「え、え~と……。ほら、さっきの依頼。ごめん、間に合わなくって……」

「ええっ~そんなこと! いいよ、気にしなくて!」

「で、でも、ほら電話まで掛けてきてもらっちゃったし……」

「あれは、ルナくんも気にしてたから――何かあったのかもって。私は、たまたま掛けただけだよ」


 てらいのない言葉に、むしろ袋井は傷ついていた。

 屈託のない彼女は、素直な心で袋井を褒め称える。


「袋井くんって、律儀なんだねぇ~。そんなこと気にしてたんだ。大丈夫だよ、難しい依頼じゃなかったんだから。みんなだって、袋井くんがいなかったこと、全然気にしてなかったよ」


 素直過ぎる心は、時に恐ろしい刃と化す。

 もう何も言い出せない袋井は固まって、微妙な笑みを返すだけだった。


「それだけ?」

「……はい」

「そっかぁ~。じゃあ、もし他の人達に会ったら、袋井くんが謝ってたって事、伝えておくね。――気にしちゃダメだよ! 元気だしてね! んじゃ!」


 敬礼にも似たポーズで別れを告げると、美月は去っていった。

 途方に暮れて、小さくなっていく美月を見送る袋井。

 その背後にスッと人影が現れ、袋井の首を両腕がホールドした。


「こりゃあ、どういうことだ!? 告白するって言ってたじゃねぇか、おい!」


 袋井の背後には、先程まで物陰に隠れていた黒尽くめの男が立っていた。

 二人の共通の友人であり、袋井のフラグ立てに協力し、最後のお膳立てまでしたこの男こそ――ルナくんこと――ルナジョーカーである。

「ギブギブ!」とルナの腕を叩くと、袋井は地面に勢い良く落とされた。

 涙目になった袋井は地面に這いつくばったまま、渾身の思いでルナを睨みつけた。


「死んじまうよ!」

「んなもん、死亡フラグおっ立ててんだから、容認しろ」

「できるか!」


 やれやれと肩をすくめるルナジョーカー。

 ルナの方が年下のはずなのだが、いつも主導権はルナが握っている。

 黒い瞳に黒い髪、焼けた黒い肌に黒い服を好むルナは、常に黒い印象をまとわり付かせる。

 帰還早々ルナに見つかった袋井は、最後の仕上げとばかりに美月の前に立たされた。

 当然、告白できるはずもなく。ましてや袋井には、恋愛感情を決める『それ』が見えている。

 美月が姿を見せた時点で、袋井の失恋は確定していた。


「度胸ねぇなあ、袋井。砕けて、散れよ」

「散っちゃだめだろ! って、当たってもいないじゃないか!」


 だが実際に、当たる前に散っている。

 袋井に見えた『それ』には、確実に脈はなかった。


「仕方ねぇ……。とりあえず、死亡フラグだけは成立させておけ。そうじゃなきゃあ、フラグ職人の方々に示しがつかねぇ」

「フラグ職人って誰だよ! っていうか、成立させていいフラグじゃないよ!」


 ポキポキと指を鳴らし、黒いほほ笑みで袋井に近づくルナジョーカー。

 腰が引け、這いずるように後退る袋井。

 ニヤァっと笑い、袋井に殴りかかろうとした瞬間――今度はルナの体が宙にぶら下がった。


「申し訳ありません、袋井様。うちの黒猫が、ご迷惑を掛けているようでして……」


 ルナの背後には、まるでアンティークドールを思わせる可憐な少女が立っていた。

 両手を揃えて、軽く会釈をし、少女は柔らかな微笑みを浮かべる。

 弱くウェーブのかかった銀色の髪と、軽やかな出で立ちが、まるでたんぽぽの綿毛ような儚さを漂わせている。


いつきさん……」


 袋井も何とか笑みを返し、震える足に力を入れ立ち上がった。


「おい、りん。――誰が黒猫だって?」

「あら、ルナさんじゃないですか? 躾の悪い黒猫と勘違いしてしまいました。――芽楼メロウ、離してさし上げて」

「了解なのです、メイド長」


 飛びながらルナを持ち上げていたメイド服の悪魔が、手を離した。

 ドスンと音を立ててルナは、地面に落下した。

 フワリとメイド服の悪魔が、斉凛いつきりんの隣に降りる。

 どちらもメイド服を来ているのだが、とても対照的に見えた。

 儚げな凛に対して、芽楼メロウと呼ばれた悪魔はカッチリとした外見をし、巨大な剣を背負っている。

 見た目は日本人とさほど変わらないのだが、白い髪、白い肌が特徴的で、その背中から蝙蝠を思わせる羽が生えている。

 二人とも、ルナジョーカーが経営する喫茶店の従業員である。


「痛てぇなぁ! 何すんだよ!」

「そろそろ開店の時間です! マスターがどこで油売っているんですか!」

「当店では、油単品は扱っておりません」

「いいじゃねぇか、少しぐらい。袋井の力になってやりたかったんだよ」

「どう見ても襲い掛かろうとしていたじゃありませんか! 何を考えているんですか貴方は!」

「店内での、暴力行為はお止め下さい」

「成り行きだよ、成り行き。袋井の根性を叩きなおしてやろうと思ったの! 男はな、いざという時、惚れた女を守る力が必要なんだ。わかるか、凛?」

「いいから、貴方はお店に来なさい! 一分でも遅れた場合、今日のお掃除はひとりでやって頂きます!?」

「それでは、これから競争を始めます。一番遅れた人が今日の掃除当番ということで――よーい、どん! 袋井様、お先に失礼いたします」


 芽楼は丁寧にお辞儀をすると、颯爽と空へ飛んでいった。


「ちょっ! 芽楼! テメエ、卑怯だぞ! 待ちやがれ!」

「どうしてわたくしまで掃除当番にならなくてはいけないの! 待ちなさい、芽楼!」


 空を駆ける芽楼を追いかけ、ルナと凛は走り去っていく。

 ポツンと取り残された袋井は「……相変わらず、嵐のような人達だな」と、呟きながら見送るほかなかった。



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