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What-if games?  作者: 岡田播磨
1章 PROLOGUE 失恋。ダメ、絶対!
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第二話


「いや~すまない! あんな所で、お仲間に会うとは思わなくてね!」


 風を切って走るベスパの後部座席に座る袋井は、運転するパンダの腹にしがみつき、振り落とされまいと乱暴な運転を必死に耐えていた。 

 傍から見れば中国雑技団のような様相で疾走するベスパは、ゴーストタウンであることを良い事に恐ろしいスピードで走っていた。


「勘弁して下さい! もう少しで、攻撃するところだったんですよ!」

「悪い、悪い! 袋井君が、あまりに元気がなそうだったものだったから、ぱっぱを掛けるつもりだったんだが!」


 突き抜ける風が強く二人の会話も、大声になる。


「どうして下妻さんは、あんな所に居たんですか!?」

「私か!? 私は、あの近くに面白いパワースポットが出来たという情報を得てね! ぶん屋としては、現場取材をするつもりだったんだが、ガセだったらしい!」

「何もなかったんですか!?」

「ああ!! ハズレだった! 恋愛相関図が見れるという触れ込みだったんだが、そんな物は皆無だったよ!」


 人の姿がチラホラと街道に見られるようになり、スピードを緩めたベスパは住宅に囲まれた十字路に停車した。


「悪いな、袋井君。送って上げられるのは、ここまでだ。別の取材があってね。――この先なら、学園のある人工島までバスが出ているはずだ。それを使って戻るといい」

「ありがとうございます、下妻さん。――あの、ひとつ聞いてもいいですか?」

「なんだい、袋井君? 同い年なんだ、そんな硬っ苦しくする必要はないぞ」


 ベスパから降り制服を着込んだパンダは、腕を組んで袋井を見ていた。


「いや、まあ、そうなんでしょうけど……。どうして、下妻さんは、パンダの着ぐるみをいつも着てるんです?」

「なかなか興味深い質問だ。――袋井君は、学園にどれくらいの人間がいると思う?」

「えーっと、4万人ぐらいですかね?」

「部外者を含めると約6万から8万人いると言われている。それだけの数の人間がいるんだ、個性的なパンダがひとりぐらい生まれても、不自然ではないだろう?」


(十分、不自然だと思います……)


「個性は大事だよ、袋井君。いつまでも無個性に甘んじていてはいけない。自分の使命を見出し、活躍する場を見つけなくてはいけない」

「そんなもんですかね……」

「もちろんだよ、袋井君。君には伝えるべきことがたくさんありそうだが、今は時間がなさそうだ。またの機会にしよう――」


 パンダは言葉を切ると、厳かに組んでいた腕を解き、まっすぐ指を前方に向けた。

 顔に疑問符を浮かべた袋井がそちらを向くと、曲がり角からバスが顔を出し、今にも走りだす所であった。


◇◆◇


 袋井は全力疾走し、すでに走り出していたバスを何とか止めると、白い視線を浴びながら、乗車に成功した。

 吊革に掴まりため息を吐くと袋井は、揺られながらバス内を見回した。

 偶然にも仲間と合流する――などという淡い期待は当然裏切られ、異様なモノが辺りに溢れかえっているのに気がついた。


(なんだ、あれ? 矢印……だよな。その上に、ハート?)


 目に映るのは、袋井を含めたすべての人間に、矢印が絡みつき、その上にハートと思われるシンボルマークが浮かんでいる不思議な光景であった。

 ハートには種類があり、割れたもの、半分だけのもの、ピンクに色づき鼓動を打つものなど様々である。


(こんなもん、流行ってたかな?)


 疑問を浮かべていると、バスの前方からパンッと弾けるような音がした。


「ふざけないでよ! 変態! もうあんたとは別れる。バイバイ!」


 学園の生徒と思しき少女が、目の前の男子生徒に平手打ちをし、次に停まったバス停で飛び降りていった。


「ま、待ってよ~。杏ちゃ~ん……」


 情けない声を出して、平手打ちされた男子生徒が追いかけていく。

 袋井には、二人の間にあったハートが急激に萎み、ガラスのように割れるのが見えた。


(なんだ、ありゃ……?)


 バスは何事もなかったかのように走り出し、路上で揉めている二人を追い越していった。


「可哀想な奴ら。もう終わりだな、あの二人」

「……そうね」


 座って本を読む女性に、前方の席の男性が熱心に声をかけている。

 男性が話し続けているのに女性の方はどこ吹く風と、ほとんど無視して本を読みふけっている。

 男性から出る矢印には半分のハートが乗っているが、女性から出る矢印には、なんらシンボルは浮いていない。


「あの~ちょっと、いいですか?」


 事態の理解できない袋井は、意を決して二人に話しかけた。

 男性の声には無反応だった女性が、袋井の声に対しては顔を上げた。


「なにかしら?」

「この矢印なんでしょう?」

「矢印? どれのこと?」


 袋井は二人の間にある矢印を指さしているのだが、女性はキョロキョロと辺りを見渡す。

 袋井はもう一度指を差すが、女性は顔を曇らせるばかりだった。


「何のことを言ってるか、さっぱり分からないんだけど?」

「お前! なぎさん、困らせんなよ!?」

忠吉ただよしくんは、黙っててくれる?」


 笑顔で女性に制され男性は、それ以降なにも言わなくなってしまった。

 相変わらず二人の間には変化のない矢印が存在しているのだが、袋井は「すみません、見間違えでした」と引き下がることにした。

 女性は納得のいかないという表情を見せたが、メガネの位置を直すと、また黙って本を読み始めた。

 黙れと言われた男性は、本を読み始めた女性をチラチラと見るばかりで、やはり喋らなかった。


(さっぱり分からないのは、こっちの方なんですが……)


 袋井はまた見渡し、何のための矢印か、自分で考えることにした。


(ハート型ってことは、心って意味だよな。矢印は、女性から男性、男性から女性に向けられて伸びているみたいだし……)


 バスの外では、男性から男性、女性から女性に伸びている線もたまに存在したが、少数派であったため、袋井の目には入っていなかった。


(さっきの騒がしいカップルは、男の子が女の子にフラれたってことだよな。だから、ハートがしぼんで割れた。――目の前の二人は、男性の方は女性に興味があるのに、女性の方は全く男性に興味を持っていない。だから、男性の方にだけ半分のハートが浮かんでいるってことか。なるほど! これは読めてきたぞ! つまり、僕が今見えているものは――)


「恋愛相関図ってヤツじゃないのか!?」


 バスの中で、大声をあげていた。

 気づいた頃には、周りからまた白い視線が向けられ、矢印がなくとも周囲が引いているように思えた。

 バツの悪い笑みを浮かべ、袋井は誰にでもなく頭を下げると、目線がかち合わないようまっすぐと正面を見据えた。

 バスは橋を超え、人工島へと入って行く所であった。



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