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What-if games?  作者: 岡田播磨
2章 INTERMISSION 愛情、冷えてます?
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第三話


 デート当日、日曜日は、期待通りの晴れであった。

 高くなった昼の日差しを浴びて、二人のための予約席を開けた喫茶店が、いつもより早くオープンした。


「喫茶店キャスリングへ、ようこそ。――わたくし、オーナーのルナジョーカーと申します。どうぞ、御ゆるりとお寛ぎ下さいませ」


 大きな手振りでルナジョーカーは、深く頭を下げた。

 相変わらずの黒い服の着こなしだが、その立ち姿は一会の喫茶店オーナーとして様になっていた。

 喫茶店キャスリングは、白と黒のインテリアをそこかしこにあしらったモノトーンの世界である。壮麗な佇まいの店内は、チェスボードをモチーフとし、光と闇のくっきりとした空間で仕切られている。

 一般席に座る袋井は、仕切りとなる飾り棚の上から奥の席の様子を眺めていた。

 ルナに頭を下げられた凌雅は、反射的に頭を下げてしまい、その様子を見ている向かいの玲那は、ニコニコといい笑顔だ。

 凌雅に設えられた服は黒い燕尾服、玲那は予定通りのウエディングドレスにも似た純白のドレス。二人は、キャスリングの色彩に溶けこむように、白と黒の衣装を着て、席に収まっていた。

 気の早すぎる結婚式を模した二人は、世那の制作したデートプランに則り、喫茶店での待ち合わせを済ませていた。

「わざわざ待ち合わせなんてしなくても」と袋井が口を滑らせると、「相手がどんな服を着てきてくれるか、楽しみにする時間がなくなるでしょう!」と、世那に蹴られてしまった。

 どちらも君がセットしたんだから、期待も何も――という、言葉は言わずに飲み込んだ。

 他のメンバーは、言わずもがな、うまくいくか見守るという名目のもと、集団尾行をしている。

 たまに凌雅が、不安げな視線をこちらに向けてくるが、袋井は何も言えず見守るしかなかった。


「……世那さん……なんか、胸がチクチクしませんか……?」

「そぉ? むしろあたしは、ワクワクが止まらないんだけど!」


 袋井とはテーブルを挟む向かい席で、隣り合って座る二人が小声で話し合っている。


「えっ? もしかして、恋音ちゃんも、凌雅くんのことが――?」

「……いえ……なんか、そういうんじゃないんです……。好きとか、恋とか、そういう物じゃないような……だけど、大事なものが奪われちゃうんじゃないかっていう、不安のような……どうしても、言い表せません……」

「あ~、でも、あたしもなんか分かるかも……。すごく身近な感じなんだけどねぇ。どうも、繋がらない感覚はあるわね」


(きっと、それは親心だよ)


 聞き耳を立てている袋井には、漠然とした答えが見えているのだが、言えるはずもなかった。

 それよりも袋井が気になって仕方ないのは、奥席に一番近い場所を陣取り、怠惰の双眼鏡を使って二人を見詰めている、律花の様子だった。

 その髪の毛をいつも以上にキュッと高い位置でまとめ、着ていたパーカーも脱ぎ、臨戦態勢で事にあたっている。

 日頃あんなに落ち着かない律花が微動だにせず、二人を監視しているのだ。


「双眼鏡で覗くほど、距離は離れていないだろうに……」


 不服な表情で怠惰は、頬杖を付いている。

 怠惰は、いつも通りのモコモコとした服を着こみ、奥席よりも、やはり目の前の律花の方が気になる様子だった。


「律花ちゃん、いつもと違いますね」

「むぅ~、そうだな。いつもは、何かと私の世話を焼いてくれるのに、今日は全然身が入っていないようだ。だからほら見たまえ。今日の私は、昨日と全く同じなんだよ」

「あ、そうなんですか」


 袋井には、ぜんぜん違いがわからなかった。

 怠惰が、そんなに服装にこだわっている人物とは思えないし、羊をあしらった服でいつも全身を覆っている。そのため、細かな違いがあったとしても、隠れて気づくのは難しかった。


「ご注文は、お決まりですか。お客様?」


 非常に目立つ尾行集団に、従業員が声を掛けてきた。

 だが、それは袋井の知るメイド長の斉凛いつきりんでも、もう一人のメイド睦月芽楼むつきめろうのものでもなかった。

 テーブル端に座っていた袋井は、すぐそばに来た従業員に顔を向けて、目を見開いた。


「……武田たけださん?」

「ありゃ? 袋井くん。――おひさだね」


 そこにいたのは、メイド服を着た武田美月たけだみづきの姿だった。

 赤い髪の快活な少女は、伝票とペンを持ち、彼女がここの従業員であることを伺わせている。

 ポニーテールにした髪を揺らし、いつも通り彼女は、明るい笑顔を振りまいていた。

 着ているメイド服も彼女用にあしらわれているのか、凛や芽楼が着ているようなロングスカートではなく、半分程度の動きやすさを重視のものである。


「ど、どうして、ここにいるの?」


 袋井が、今の状況に陥る前、彼には片思いしている相手がいた。

 その子とは告白することすら出来ずに終わったのだが、少なからず、袋井の胸にはモヤモヤしたものが、消えずに残っていた。

 未来の子供に、母親候補、さらには強制共同生活と、あまりに激しい波に飲まれていた袋井はそんなこと、完全に忘れていた。

 だが、突如として現れた失恋した相手――武田美月の姿は、忘れていた痛みを思いださせるのに十分であった。


「いやぁ~これは社会勉強みたいなものかな……」

「社会勉強? なんで、そんなことする必要があるの? ――それも、よりによってこんな所で……」


 オホン! と、わざとらしい咳払いが聞こえた。

 いつの間にやら美月の隣には、キャスリングの純白クイーン・斉凛の姿があった。

 袋井の失言に、じっとりとした目線で攻めてくる。

 どうやら、美月のお目付け役らしく、付かず離れずの位置に控えていたのだ。

 自然な手振りで美月を下がらせ、凛が代わりに話し始めた。


「武田さんのご希望で、アルバイトをして頂いているのです。――なんでも、小祭しょうさいで、メイド喫茶をやりたいとか……」

「小祭ですか? えっ? キャスリングも参加するんですか?」

「キャスリングは無理ですよ。小祭は――文化祭では大型店舗に客を取られてしまう――小さな部や店が集まって行うお祭りでしょう? キャスリングはこれでも、大型人気店のひとつですからね」


 自慢げに凛は、胸を張った。

 秋に行う文化祭とは別に、小祭は春の終わりに行われる。

 多すぎる部活動を抱える久遠ヶ原学園の文化祭は、大々的で一週間やそこいらですべてを回ることが出来ないほど、大掛かりなものとなる。

 しかし、そういった模様し物でも、やはり人気の高い大型店に客が流れてしまい、小さな店舗や新参の部などは、せっかく出し物を模様しても、誰も来ないで終わってしまうという場合があった。

 そこで、あえて新規の部活や小さな店舗のためのお祭りを行い、久遠ヶ原学園全体の活性化につなげようと生徒会が今年度より、新たに設けたのである。


「袋井様も、参加したらどうですか? 抽選制ですけど、せっかく新しい部活を立ち上げたのですから、参加される意味があるのではないですか?」

「あ~そうですねぇ……忘れてました……。ちょっと、考えてみます」

「エェー! 袋井くんも参加するの!? それじゃあ、競争率上がっちゃうじゃ~ん」


 後ろに控えていた美月が、身を乗り出して、袋井に迫ってきた。

 袋井はのけぞり、隣に座っていた怠惰を押しつぶすような姿勢になってしまう。


「武田さん、あなたは、まず部を作ってからそういうことを言いなさい」

「でも、凛ちゃん。メイドさんの部活って結構いっぱいあるんだよ。今更、新しく作っても、人が来てくれるかどうか……」

「わかっているなら、なんでメイド喫茶なんてやろうとしたんですか……」

「いや~なんかメイド服に憧れちゃって……」


 朗らかに笑う美月の隣で、凛は肩を落とす。

 勢いだけの美月に付き合わされている凛が、少し可哀想になってくる。


「袋井君……少し重いぞ……」


 袋井に押しつぶされていた怠惰が、座った目つきで抗議してくる。

 慌てて袋井は、姿勢を直し、愛想笑いを浮かべた。

 怠惰は、むくれて腕を組んでみせた。


「袋井くんは、何してるの?」

「僕は――デートの手助けというか、尾行というか……」

「尾行! なんか面白そうだね!」


 美月の興味がどうやら、こちらに移って来ているらしい。

 目をキラキラとさせて、袋井たちを見詰めている。

「武田さん」と、凛が背後から少し凄みのある声を発した。


「あっ! いや、だ、大丈夫だよ、凛ちゃん。ちゃんと仕事するって」

「行ってもいいですよ」

「へ?」


 思いがけない言葉に、美月は少し困惑した。


「これ以上、芽楼だけに、仕事させるのは可哀想ですから」

「あれ、私役に立ってない?」

「はい」

「バッサリだね」

「はい」


 目を閉じ、きっぱりと言い切る凛。

 情けない笑みを浮かべ、美月は頬をかいた。


「――だって、袋井くん。付いて行ってもいい?」

「うん。構わないけど……」


 袋井は、誰にも相談せずOKを出してしまった。

 背後の空気が、ほんの少し――いつもと違うことに、気付かなかった。

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