第二話
2
純白のドレス――いや、これはもうウエディングドレスと言い換えても、無理はない。
「レナ、似合うですか?」
これまで以上にフリフリのドレスを着た玲那は、袋井の前でくるりと一回転した。
自然なウェーブの掛かった金色の髪と同色の瞳が、常にキラキラと輝いている。
「う、うん……可愛いんじゃないかなぁ……」
「ありがとうございますです!」
11歳の花嫁は、袋井の胸に飛び込んで喜びを表現した。袋井は、つい反射的に避けてしまう。
「むぅ~、なぜ、避けるのですか?」
「いや、ごめん……ちょっと」
前に噛まれた腕を抑え、袋井は口だけで笑った。
「な、なんだい、これは?」
「デートの時来ていく服よ。よく似合ってるでしょ?」
玲那の隣に立つ世那が、鼻息荒く代弁した。
玲那の部屋には、興奮した世那と、その世那に無理やり引っ張りこまれた袋井、これ以上ないほど豪華な白ロリの玲那がいる。
金髪、金色の目を持つ世那は、容姿端麗で常にクールな印象を持つ。
サイドに結んだ髪の毛を颯爽と揺らし歩く姿は、世那を規律を持った強い女性として印象付ける。
だが、今の彼女は別人だった。
「デ、デートって?」
「凌雅くんとのデートよ。決まってるじゃない!」
「マジでやるの?」
「なに言ってるの、あったりまえでしょ!」
ギラギラした目付きの世那が、食って掛かる様に袋井に言い放つ。
やはり母親だからだろうか。
袋井が、恋愛線の結果を話すはずはないのに、世那は気づいてしまった。
ほんの数日間過ごす中で、玲那の凌雅に対しての微妙な行動や発言に、ピンッと来るものがあったようだ。
二人でこそこそやっているのを、見ないふりしていたが、ついに巻き込まれてしまった。
「止めたほうがいいんじゃない」
「恋愛を手助けするのが部の活動目標でしょ? 内輪の人間の手助けは出来ないなんて、言わないわよね?」
抵抗してみせたが笑顔で恐喝され、もう何も言えなくなってしまった。
(律花ちゃんは、どう思うだろう?)
袋井の見えている恋愛線では、凌雅、律花、玲那は三角関係に当たる。
お互いどこまで意識しているかわからないが、心穏やかではないだろう。
同じ母親でも怠惰の方は、いつもグダグダと過ごしている。
律花は怠惰の世話に終われ、凌雅と話すことは殆どない。
律花自身は世話を楽しげにやっているので、一見問題がないように思える。
だが、常に意識するかのように凌雅の前を通りすぎては表れる、律花の恋愛線が、どうしても気になってしまう。
「凌雅くんには、聞いたの? 彼って、何気に体育会系だし、そういうの好きじゃないと思うんだけど」
凌雅は、体を動かすことが趣味と言っているだけに、よく筋トレをしている。
宣告通りランニングに付き合わされている袋井は、この所、ヘロヘロになって朝を迎えていた。
見た目は女の子のように可愛らしいのに、中身は思った以上に脳筋である。
「彼には、連絡済みよ。デートをするって事も伝えてあるし、了解も得てる。後で凌雅くんの服もセットしてあげなきゃ! ふふっ、楽しみね」
口裂け女のように大きな笑みを浮かべた世那は、口元に手を当て笑っている。
(どうせ、凌雅も押し切られたんだろうなぁ……)
袋井は、目の前が暗くなる思いだった。
「パパは、レナがお付き合いするの、嫌ですか?」
「いや、そうじゃないんだけどね……」
目を潤ませている玲那に見詰められ、袋井はしどろもどろに答える。
(付き合うのが悪いっていうか……。その組み合わせはどうなんだろうってことで――。玲那ちゃんも、自分たちがここにいる理由、わかってるはずだよねぇ……)
片手で腹を抑え、半笑いになっている袋井。
隣で世那の目がキラキラと、おかしな光を放っているのに気付けなかった。
「袋井を、パパだなんて――白いドレスを着て玲那ちゃんも、その気ね!」
「はぅ! 今のは、今のは違うのです! 袋井さんは、パパで――パパではなくて! パパなのですけど……パパじゃないのです……!」
パニック状態となった玲那がぴょんぴょんと飛び跳ね、グルグルと目を回している。
腹を両手で抑え、袋井は本格的に痛みを感じた。




