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What-if games?  作者: 岡田播磨
2章 INTERMISSION 愛情、冷えてます?
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第一話


 バサッと、チラシが宙を舞った。

『あなたの恋を応援します!』などと、随分とおせっかいな文面の踊るチラシは、ラブコメ推進部の宣伝広告である。

 4人。または7人で、活動を初めて、数日間。

 袋井の期待に反して、ラブコメ推進部はほとんど成果を上げていなかった。

 恋音の占い、怠惰の調査、世那のアドバイスは、相談に来る生徒に概ね好評であったが、袋井の出番になるとみな首を傾げた。

 袋井の体からにじみ出る非モテ臭を感じ取り、口に出さずとも「なんであんたが取り仕切っているの?」という疑問を頭に浮かべていた。

 結果、話はするが行動に結びつかず、成果という成果は結んでいなかった。

 業を煮やした世那の「もっと多くの人に活動を知って貰う必要があるわ!」という提案のもと、ラブコメ推進部は宣伝広告を打ち出した。

 何百枚と刷ったチラシをほうぼうで配り、脈のある人を少しでも見つけようというのである。

 それぞれチラシを配り始め、袋井は学園と多くの寮を結ぶ大通りで配っていた。

 ことごとく無視される中、受け取ったチラシを持った女生徒が引き返してきた。

 女性に気がついた袋井は、期待を込めて声をかけようとしたその時、持ったチラシすべてが、大空に舞い飛んだ。

 女生徒に、その手を弾かれたのだった。


「今すぐ部を解散しなさい……!」


 血のごとく真っ赤な瞳の女性は、ドスの利いた声で囁いた。

 襟首を強引に引き寄せられた袋井は、混乱した頭で相手を見詰めた。

 真っ黒な制服の黒髪の女性。肩まで伸びた黒髪は整えられておらず、振り乱した髪が狂気を帯びている。

 袖から見える肌には包帯が巻かれており、溢れ出る黒いオーラを包み隠すようだった。


(なんだ、この人?)


 尋常ではないその眼力に、吐き気に似ためまいが襲う。


「ど、どなたですか?」

「……大学部の霧原沙希きりはらさき。――誰のまね? 自分が、何をしているか分かっているの……?」

「ぼ、僕は、恋の力をみんなにわかってもらおうと……力添えをしようとしているだけで……」

「コ・イ・ノ・チ・カ・ラ!」


 霧原と名乗った女性は袋井の言葉を聞くと、更にも増して目をつり上げた。

 袋井の首に噛み付くのではないか。そう思えるほど、その立ち姿は異常だった。


「……誰の指し金!?」

「誰の指し金って――これは、僕が自主的にやっているだけで。同じ学園の生徒として、力に成れればって思うだけです……」

「あんたみたいなのが、人の恋に口出しするの……? なんで?」

「いや、それは……」


 逃げ道を探すように、袋井は目を彷徨わせた。

 周りの人々は関わりたくないと、距離を置いて通り過ぎていく。

 床に落ちたチラシが、無残にも踏み潰されていた。


「できもしないのに、人間関係に口出ししようなんて、考えないことね……」


 突き飛ばすようにして袋井を離すと、霧原は猫背の姿勢を更にかがめ、去っていく。

 袋井はジャージの襟首を指で伸ばし、締め付けられた重苦しさを取ろうとした。

 それでも胃をすくい上げられたような苦しさは拭えず、深くため息を吐いた。

 周りを見ると、靴跡の着いたチラシが散乱している。

 身をかがめ、無言で一枚一枚拾っていく袋井の横から、スッと別の手がチラシを拾い上げた。

 顔を上げた先には、人形のように整った顔立ちの――すらりと伸びた絹を思わせる黒髪と白磁器を思わせる白い肌、常に潤んだ瞳を持つ少女――月乃宮恋音だった。

「……袋井さん」と弱々しい声を発して、集められたチラシを差し出している。

 袋井がチラシを受け取ると、恋音は自分の身を守るように、身を固めた。

 あの一件依頼、距離の取り方にお互い迷っていた。

 袋井の見える恋愛線は元の形に戻っていたが、不自然さが拭えないでいる。

 お互い見つめ合うと気を使った笑みを、返していた。


「お知り合い……ですか……?」

「いや、始めて会った、はずだけど……」


 あれほど印象深い人間を、忘れるはずもない。

 記憶の淵を探しても、該当する人物は思い当たらなかった。


「……そうですか……よかった……」


 吐息を漏らすような小さな声で呟き、恋音は胸に手を添えていた。


「どうかしたの?」

「いえ! 気にしないでください! ――ちょっと、顔が近すぎたような気がしただけで……」


 蚊の鳴くような声は更に小さくなり、後半は聞き取ることすら、難しかった。


(おかしい……あの女には、恋愛線が見えない)


 袋井の頭に声が響く。

 死角からフクロウの形をしたシルエットが姿を表した。

 袋井に寄生している悪魔だ。

 大きさは15~20センチ程度。前より、少し大きくなっている気がする。

 鳥として翼も足も揃っていながら、背中に蝙蝠のような羽根が生えている。

 主翼を人間の手のように動かし、鳥の顔でありながら表情が豊かに表れる。

 たしかに、去っていった霧原の周りには、恋愛線がまとわり付いていなかった。

 袋井は気にも留めていなかったが、フクロウはその首を縦に180度近く反転させて首を傾げている。

 

(そんな珍しいことなのか? 小さい子にはないことのほうが多いじゃないか)

(確かにその通りだ。――だがな、ある程度の年齢を重ねた生物は、必ず異性を意識するようになる。あの年齢ならば、在って当然と思えるのだが……)

(お前たちの能力だって、万能じゃないんだろ)


 思い悩むフクロウに、袋井はほんの少し安心した。

 わけも分からず寄生され、無理矢理与えられた能力。

 それにも限界があることを知り、むしろ袋井はホッとしていた。


(……そんなものだろうか。まあ、いい。――それより袋井君。我々のことは、調べてくれているだろうね?)

(勝手に入り込んでおいて、無茶苦茶だな。過去に天魔に寄生された例なんて、聞いたことないんだ、無理なこと言うなよ……)

(それでは困る。我々は、可能な限り早く出て行きたい。――悠長な事を言っていると、君の体が、どうなるか分からないぞ?)

(僕だって、君たちとは早く縁を切りたいんだ!)

(アウルが、こんなにも厄介なものだとはな)


 天魔たちは、袋井の体から出て行くことが出来なかった。

 寄生するという荒業に成功した彼らであったが、アウルの壁に阻まれ、離れることが出来ずにいる。

 寄生された直後に下妻パンダに襲われた袋井は、瞬時に光塵を行った。

 そのため、天魔たちは袋井という肉体のベールに包まれ、出口のない内側へ埋没してしまったのだ。

 幻影を外へ生み出せるまで力を回復させた二体だったが、透過できない薄いベールに包まれ、袋井の内側を彷徨っていた。


(脱出できるまでは、仕方ない。今まで通り、力を貸そう。――君となら、面白い恋愛線を沢山経験できそうだしな)


 横に首を回転させ、フクロウはいやらしい目つきで笑っている。

 口をへの字に曲げ、フクロウの顔を恨めしく見詰める袋井。

 先程からあらぬ方向を見続ける袋井を、恋音は惚けたまま、ただじっと眺め続けていた。

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※この作品は出版デビューをかけたコンテスト
『エリュシオンライトノベルコンテスト』の最終選考作品です。
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