第十六話
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失神した恋音をおんぶし、袋井たちは陽報館に戻ってきた。
入り口では、世那が玄関に寄りかかって、待ち構えている。
「何してたの、あんた達?」
三人とも曖昧な笑みを返すだけで、言葉が出なかった。
「今日の夕食は、あたしと凌雅君で準備したわ。次回からは当番制にしてよね……」
「凌雅君が、戻ってきているのかい!?」
「はぁ? 彼は、ずっと家にいたわよ。玄関に靴があったでしょ?」
呆れ顔で世那が玄関を開けると、入り口に凌雅の姿があった。
いつも通りのアルカイックスマイルで、三人と背負われている恋音を出迎えた。
ホッと、三人とも同じ表情で、安堵の溜息を付いた。
(これで、なんとか落ち着くかな……)
(さぁ? それはどうかなぁ~?)
唐突に、袋井の頭に直接問いかける声があった。
(な、な、な、なんだ!?)
聞いたことのない声だ。
左右を見渡し、出処を探すが周りにいるのは見知った顔しかいない。
娘たちはキョロキョロする袋井に下から眺め、疑問符を浮かべている。
背中の恋音はいまだ、気絶したままだ。
(はっはっはっ、そっちじゃない。上だ、上)
袋井が空を見上げると、そこには半透明のシルエットが二体浮かんでいる。
ひとつは小さな天使の少女。
もうひとつは、フクロウの悪魔だった。
どちらも10センチ程度の大きさしかなく、袋井の頭の上をグルグルと回っている。
(な、なんだ、お前ら!)
(ほお、殊勝じゃないか。我々の姿は、他の人には見えないからな。もし、声を出していたら、変人扱いだったのになぁ)
(ざんねん。もっと、面白い子だと思ったのにぃ~)
二体は、喜び飛び回っている。
(お前らあの時の二体か!)
(そりゃあ、そうでしょう? 他に思い当たるフシがある?)
苦々しい表情を作り袋井は、ふたつのシルエットを睨みつける。
意に介さず二体は、楽しげに笑っていた。
(君は実に面白いね。こんなの初めてだよ)
(ほんとほんと! おもしろい恋愛線を、たくさん見せてくれそう!)
(なにが面白い!)
(面白いよ、君。我々すら、はじめての経験だ)
(だって見なさいよ、あれ。今のあなたなら、もう見えるでしょう?)
そう言って、天使が指差す方向には凌雅がいる。
凌雅に向けて、まっすぐ二本の矢印が引かれ、そこには片思いを示す半分のハートが浮いている。
矢印をたどって始点の位置に立っていたのは――袋井を見上げる天使と悪魔――二人の娘たちだった。
袋井雅人、17歳。
彼には――女難の相がある。




