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What-if games?  作者: 岡田播磨
1章 PROLOGUE 失恋。ダメ、絶対!
14/39

第十三話

13


 恋音の瞳が、袋井の右手を凝視している。

 右手にぐるぐる巻きにされた布をブレることなく、一点集中して見つめ続けていた。


「やっぱり、これ。月乃宮さんの?」


 袋井が右手を持ち上げると、月乃宮の頭も一緒に付いてきた。

 リビングを出た所で怠惰と鉢合わせた袋井は、恋音が探しものをしているのを教えられた。

 後から降りてくるのでは、という怠惰の予測通り、恋音は二階から降りてきた。

 さすがに女子階に上がるのははばかられる袋井にとっては、願ってもないことであった。

 声を掛けた恋音は非常に驚いた様子で、今も目を丸くしている。


「ごめん。これタオル代わりに顔に載せてもらっていたみたいなんだ。お返しするね」


 腕から取り外し差し出すが、恋音は硬直したまま、受け取ろうとしない。


「……そ、それを……顔に乗せていたんですか……」

「うん。すこし大きかったけど、気持ちよかったよ」

「……大きかったけど……気持ちよかったって……!! な、何がですか……」

「いや、だから、これを――?」


 袋井がさらに差し出すと、恋音は一歩引く。

 恋音の顔は、火が点いたように真っ赤に染まっていった。

 袋井が小首を傾げると、恋音は震える手を伸ばし、サラシを受け取ろうとした。

 抑えを失った胸元の枕が、廊下にストンと落ちた。


(あれ、枕が落ちちゃったよ。――おおっ! な、なにこれ!? えええっ!?)


 今度は、袋井の瞳が一点を凝視することになった。

 袋井の視点はブレることなく――むしろ揺れることを期待し――一点集中して見つめ続けている。

 瞬時に我に返った袋井が、目線を上げると恋音の視線と重なり合ってしまった。


「あぅ……えっと――月乃宮さんって、かなり着痩せするタイプだったんだね?」


 自分でも怪しいと思える歪んだ笑いをしながら、袋井は頭を掻いていた。

 恋音は――途端にポロポロと涙を流し始めた。


「あ、あれ……月乃宮さん? ど、どうしたの?」


 悲鳴とも嗚咽とも付かない小さな声を上げて、震えはじめた恋音。

 袋井は、わけも分からず肩口に手を伸ばすと、その手から引ったくるようにサラシを奪われた。

 初めて見る恋音の険しい目つきと出会って袋井がたじろくと、刹那に険しい表情は消失し、恋音は顔中で涙を流していた。


「……ごめんなさい……」


 袋井の脇を抜け、恋音は声を押し殺して二階に上がっていってしまった。



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※この作品は出版デビューをかけたコンテスト
『エリュシオンライトノベルコンテスト』の最終選考作品です。
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