第十三話
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恋音の瞳が、袋井の右手を凝視している。
右手にぐるぐる巻きにされた布をブレることなく、一点集中して見つめ続けていた。
「やっぱり、これ。月乃宮さんの?」
袋井が右手を持ち上げると、月乃宮の頭も一緒に付いてきた。
リビングを出た所で怠惰と鉢合わせた袋井は、恋音が探しものをしているのを教えられた。
後から降りてくるのでは、という怠惰の予測通り、恋音は二階から降りてきた。
さすがに女子階に上がるのははばかられる袋井にとっては、願ってもないことであった。
声を掛けた恋音は非常に驚いた様子で、今も目を丸くしている。
「ごめん。これタオル代わりに顔に載せてもらっていたみたいなんだ。お返しするね」
腕から取り外し差し出すが、恋音は硬直したまま、受け取ろうとしない。
「……そ、それを……顔に乗せていたんですか……」
「うん。すこし大きかったけど、気持ちよかったよ」
「……大きかったけど……気持ちよかったって……!! な、何がですか……」
「いや、だから、これを――?」
袋井がさらに差し出すと、恋音は一歩引く。
恋音の顔は、火が点いたように真っ赤に染まっていった。
袋井が小首を傾げると、恋音は震える手を伸ばし、サラシを受け取ろうとした。
抑えを失った胸元の枕が、廊下にストンと落ちた。
(あれ、枕が落ちちゃったよ。――おおっ! な、なにこれ!? えええっ!?)
今度は、袋井の瞳が一点を凝視することになった。
袋井の視点はブレることなく――むしろ揺れることを期待し――一点集中して見つめ続けている。
瞬時に我に返った袋井が、目線を上げると恋音の視線と重なり合ってしまった。
「あぅ……えっと――月乃宮さんって、かなり着痩せするタイプだったんだね?」
自分でも怪しいと思える歪んだ笑いをしながら、袋井は頭を掻いていた。
恋音は――途端にポロポロと涙を流し始めた。
「あ、あれ……月乃宮さん? ど、どうしたの?」
悲鳴とも嗚咽とも付かない小さな声を上げて、震えはじめた恋音。
袋井は、わけも分からず肩口に手を伸ばすと、その手から引ったくるようにサラシを奪われた。
初めて見る恋音の険しい目つきと出会って袋井がたじろくと、刹那に険しい表情は消失し、恋音は顔中で涙を流していた。
「……ごめんなさい……」
袋井の脇を抜け、恋音は声を押し殺して二階に上がっていってしまった。




