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生肉をどうしようかと話し合う母との睨めっこの結末は、横で成り行きを見ていたギャロの介入で決着がつけられました。
流石冒険者です。
ギャロ達も魔法が使えるらしく、クラウ少年の魔法の練習にもなるからとお肉を焼いてくれたのです。
お肉のいい匂いが漂ってきてお腹が刺激されたのかお腹が小さく音を立てます。
うう。恥ずかしいですので、この音が周りに聞こえていなければいいんですが……。
だけどどんなに恥ずかしくてもワタシの視線はお肉に釘付けです。
空中に誰の手も借りず浮いているという事実も、はじめて見る火の魔法にもあまり反応を返すことが出来ません。
惜しむらくはここに塩などの調味料がないのが悲しいです……。
なんだかんだと考えていたら、いい香りが漂いこんがりいい色に焼けたお肉がワタシの目の前に置かれました。
切り分けていないのでブロックのままのお肉なので、どこから噛り付けばいいのか少し悩んでしまうのが難点ですがお肉のいい匂いが食欲をとてつもなく刺激します。
あああ。食べれるかどうかはよく分からないけどもうこのお肉食べてみてもいいですか?
『ふふふ。サルビア熱いと思うから気をつけて食べなさい』
『はい! いただきます!!』
あまりにもお肉を見つめすぎたのか大人組みに微笑ましそうに笑われてしまいましたが、お許しが出たので気にせず頂こうと思います!
だけど初めて食べる固形物でもあるのであまり食べ過ぎないように気をつけなければ……。
『……っっ!』
気をつけなければいけないと思いつつも目の前にあるお肉を口に含んだら、そんなこと一瞬で飛んでいってしまいました。
口に含んだ瞬間今まで香っていたお肉の香りが口の中いっぱいに広がります。
早く早くと催促してくるお腹を宥めつつ、思う存分歯で齧りたてます。
歯を、歯を……。
……って思ったけどワタシまだ歯が生えてきてないですっっ!!
目の前に美味しそうな物があるのにワタシ、食べられないなんてどんな拷問なんですか?!
お肉の表面をガジガジと噛り付きながら思わずう~う~と恨めしそうに唸ってしまいました。
あああ、何でワタシまだ歯が生えていないんでしょう。
生理現象とはいえ物凄く口惜しいのです。
ううう、本当に口惜しいのです~。
歯が生えてさえいれば美味しそうなこのお肉を食べることが出来るのに……。
て、あれ? でも兄達はお肉を狩ったときに普通にお肉を噛み千切ってましたよね?
ということはもう歯が生えてるってことですよね?
ワタシまだ一本も生えてきてないのに……。
身長だけでなくここにも兄弟で格差がついてるんですか?!
気がついてしまった事実に少なくないダメージを受けてしまいました。
この差が埋まる日はちゃんと来るんでしょうか?
齧り付いたお肉を何とか噛み切れないものかとハムハムと口で銜えるけど、まったく噛み千切れる気がしません。
口の中で広がるお肉の味わいを感じながらも飲み込めないというジレンマ。
思い通りにいかない事態に、お肉を押さえつけている前足の爪を何度も出したりしまったりしながら足踏みを繰り返してしまいます。
ああ、お肉の肉汁が口の中に溶けてとても美味しいです……。




