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出て来た男の人に促されてそのままお家の中に入れてもらいました。
依頼人らしきこの男性、一度だけワタシの事を見て後は前を向いたまま案内をして室内へと入っていきます。
あれ? まったくワタシに意識を向けないなんてこの人が依頼人じゃないんでしょうか?
目の前を歩く男の人のあまりの無関心さに、この人は無関係なのかと首を捻ります。
だけど玄関のところでギャロが『依頼完了しましたので確認を頼みたい』って言ってたのに無関係なんて事はないですよね……?
「どうぞおかけください」
「いや依頼確認をしたらすぐにでもギルドに戻るからこのままで失礼させていただく」
「そうですか? ではお疲れになったらいつでもお座りください」
「御気遣い感謝する」
廊下を通り扉を何個か通り過ぎ、感覚的にこの家の一番奥まった部屋へと通されました。
感じ的にはリビングに一番近く、四人から六人用だと思われる大きさの木で出来たテーブル。
外が木々で覆われてたから暗いのかと思ったら程よい日差しが差し込み、日向ぼっこするのにとても魅力的な絨毯が部屋いっぱいに敷かれている。
だけど部屋の印象は物がまったくないためなのか、まるでここで生活をしていないようなイメージを受けるほど寂しい印象を抱いてしまう。
何だかんだとワタシが部屋の中を観察しているうちに、場の準備は着々と整えられてきたみたいです。
テーブルを挟んだ向こう側、男の人は座りその手元のテーブルに紙が置かれています。
その紙が気になり少しだけ首を伸ばして机の上に乗せられた紙を覗き込んでみました。
生まれ変わってから視力も格段に上がったから少し離れていても、文字を読むのにはまったく支障はないのです。
我ながら自分の身体能力に惚れ惚れしてしまうのです。
だけど当たり前というか何というか……。
文字が書かれているのは分かるけれど何が書かれているのかまったく分かりませんでした。
うう。流石にそこまでご都合主義はないですよね。
また今度母に聞いて勉強しようと思います。
「まず依頼品を渡す前に、内容の確認をしたい」
「ええ、もちろんです。こちらがワタシが持っている依頼書です」
「見ても?」
「どうぞ」
どこか硬い表情をしているギャロ達のことなど気がついていないというように男の人はテーブルに出した依頼書をギャロ達が見やすいようにかワタシ達がいるほうに紙を移動させてくれています。
それをクラウ少年が手に取ると内容をサッと確認をしてギャロに渡し、ギャロが続いて依頼書を確認しています。
内容が間違ってないと確認し終えたのか、それをまたクラウ少年に渡しクラウ少年が男の人にそれを返しました。
……字が読めないから仕方ないとは思うんですが、一人だけ参加させてもらえないというのは何か釈然としませんね。
ええ、もちろんそれがただの我侭だって分かってます。
分かってますがいじけてしまうのは止められません。
一人イジイジいじけていると、突然背中を這いずる様な悪寒が襲ってきました。
その突然の悪寒で毛が思いっきりぶわっと逆立ち、耳まで警戒でピンと立ってしまう。
それに驚き思わず悪寒の原因を探すようにきょろきょろ周りを見回してしまいます。
あまりに突然の悪寒に今もまだ心臓がバクバク音を立て、落ち着きを取り戻すまで少し時間が掛かりそうです。
そしてきょろきょろ忙しなく周りを見回すワタシは目に映ったのは、ワタシを無表情で見つめる目の前の男の人でした。
その表情には何の感情も浮かんでいないのに、その目だけはぶれることなくワタシを見つめています。
……えっと、穴が開きそうなのでこちらを見ないでもらってもいいですかね?




