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『違います!! そこはもっと悪っぽくお願いします!!』
準備をしようとまずワタシを誘拐した元誘拐犯の二人への演技指導に取り組んでいます。
「む……、すまない」
眉間にしわをよせ、考え込むギャロもなかなか色っぽい。
けれど今はそんな色っぽさよりも相手を油断させるような小悪党の演技をしてほしいのです。
まず何で準備のために演技指導なんかしているかというと、ワタシが狼族だと分かるとたとえ悪いことしてても、というよりも悪い事をしていると認識してたら絶対二人が全部悪いと言い張って逃げようとすると思うのです。
だからその予防のため少し策を練っていこうと思い二人に演技指導しているんですが、これが思ったよりも難航してしまってるのです。
「なあ、なんでこんなことする必要があるんだよ」
クラウ少年がぶすくれながら聞いてきた。
『まず依頼をしたって言う人がたまたま間違えたのか確認したいって最初に教えたじゃないですか』
「いや、だってそこにいる花に自供させる薬貰ったんだろ? ならそれでいいと思うんだがそれじゃ駄目なのか?」
『もちろん自白剤も使いますが、花さんが言っていた油断を誘って効果をあげるためです。なので二人には一度ワタシを捕まえた事にしてその依頼主のもとに連れて行って欲しいんです』
「いや、だけどそれだとお前が危い目に遭う可能性があるだろ?」
『それは大丈夫です! 父が近くで対処してくれますし二人がワタシをその依頼人に渡す前に聞き出せればいいんですから。それに母に教えてもらった風を動かす魔法を使って少しの間くらいなら足止めできるから問題ないですよ!』
「ならいいけどよ……」
どこか納得できていないクラウ少年を気にせず、いまも練習しているギャロに視線を向ける。
何をするにもまず最初に軽いイメージトレーニングをするようにしているワタシはその延長で今回も二人には演技の練習をしてもらっています。
何事にも流れを把握しておくのとしていないのではその成功確率の割合が低くなると思うのでこれだけは譲れませんでした。
だけど誤算だったのは、この世界に演劇にあてはまる物がなかったこと、ですね。
というのも演技の練習ですといった時、なんだそれはと聞かれどういう風に説明すればいいのか分からず困ったのです。
なんでもこの世界の娯楽は吟遊詩人が歌うか、よくて旅の踊り子さんがいるだけらしいのです。
これにはとても驚きました。
この世界娯楽がとても少なそうです……。
そんなこんなで少しの衝撃を受けつつも、演劇とはこんなものだという事を教えたのですが最初はその意味を理解してもらえませんでした。
でもこの世界にも瞑想とか剣の型のようなものがあることを知り、それと似たようなものだと説明をしたら意外とすんなり理解してもらえました。
まあ多分まったく別物だとは思うけれど、相手を想定して動くところは一緒だから問題ないですよね。うん。
だけど思ったよりもぎこちなさが目立つので、今も四苦八苦しながら練習してもらっています。
二人に演技の指導をし、自主練習をしてもらっている間ワタシは母から初歩の初歩だという風の魔法を教えてもらうことができたので、今は二人の練習を見ながら軽い魔法の練習もしています。
何事も前準備は大事。
聞いた限り相手の情報が今一ピンと来なかったので回りくどいとは思ったけどここで妥協できない。
二人から聞いた依頼人のことを纏めるとこんな感じだった。
まずワタシをつれてくるように依頼を出したのは商人。
最近二人が拠点にしている国に来たばかりで、ギルドには所属していない。
人当たりが良く町の住人達にも溶け込んでいるし、ギルドに依頼を出す時も威張る事がなくギルドでも町でも評判がいい。
率先して人助けをして町にも貢献している正にいい人なのだという。
これだけ聞いただけだと勘違いということもあるかも知れない。
だけどギャロが気になった事を聞くと少し考えさせられるところもあった。
まずこの国に来る前にも商いをやっていたそうだけど、ギルドに所属していないので嘘か本当か確認がとれていない。
他にもギルドに加入していない商店は存在するけれど、大体国を跨ぐほどの商いをする人は国が変わろうと名声が自然に聞こえてくるものらしいのに誰も噂を聞いたことがないという。
それはいい噂も悪い噂も含めて。
これは国を跨いで商いをするという人にはまずありえないと言っても言いそうなのです。
だからギャロは依頼を見たとき受けるか迷い見送る予定だったとか……。
でも残念思考なクラウ少年がこれなら一人でもできると勝手に受けてしまい、一人で行かせるのは心配だからとギャロも一緒にうけたらしい。
……うん、もう少し考えて行動したほうがいいよ? 少年よ。
少しだけクラウ少年のこの先が心配になった瞬間でした。




