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今日も戦います!


私は昔人族の女だった。

こことは違う世界、こことは違う文明を築いていた人族のみが幅を利かせていた世界。

そこで私は何処にでもいるような人生を歩んでいた三十路間近の販売店員をしていた。それが私。

彼氏なんてものはもうかれこれ○○年程おらず、世に言うお一人様生活を満喫していた。高校を出てからずっと一人暮らしをしていたこともあり、ある程度の事は自分で対処できるくらいにはたくましく生きていたと自負している。

これといって執着するものもなく、休みの日もわざわざ外出するのもめんどくさくて、もっぱら家で本を読んだりネットをしたりするのを趣味としていた。

だけど人生何があるのか分からないもの。

いつもの日常、いつもと同じ行動。いつもと同じ代わり映えのしないと疑いもしていなかったのに、いつもとは全く違うことが起きて、それを認識するよりも先に、私の意識は事切れた。

『自然災害』

確かめる術はもうないけれど、今考えると私の人生最後に起こったのはきっとそのどれかだったと思う。

自然の力の前ではどんなに強がったところで人間一人の力などちっぽけなもの。

まぁ、人が集まればまた結果は違っていたんだろうが、一人のただの女でしかなかった私が抗いきれなかったのは、仕方ないことなんだろう。驚きだけで痛みを覚えていなかったことはきっと幸いだったんだろう。


さてそろそろ、というより最初から疑問に思っていたとは思うが、私の文字通り人生終了な過去を回想しているいま考え事をしている『ワタシ』は一体何なのだ。そう不思議に思うことだろう。

『私』も『ワタシ』として自我を持ったとき思ったものだ。まぁ、それもすぐに日常に流されて有耶無耶の内に消えていったけど……。


うん。人間だった記憶があるワタシには、いろいろ馴染まなければいけないことが山ほどあってそれどころじゃなかったとだけ言っておく。


と、また話が少しズレたから、これ以上ズレないうちに簡潔に言ってしまうと『私』は『ワタシ』に『転生』をした。


ライトノベルやネット小説などでよくある転生を自分で体験するなんて、夢想はしても実際に起こるなんて誰も思いもしないだろう。

死んだ後の事なんだからなおさら。『私』もそうだった。

もしも『転生』なんてものがあるならチートしたいとか、性別変わってハーレムしちゃったり♪とか、脇役言いながら巻き込まれて逆ハー築いたりとか、今度は人間じゃない生き物に生まれ変わってドラゴンになるのもいいよねとか、見たことないもふもふの生き物になるのもいいよねとか妄想はしてた。

いい年して痛い奴だったっていう自覚はある。


けど、それを誰かに話すことは絶対になかったから誰にも迷惑かけてないし、妄想くらい誰でもしてることだと開き直ってもいたから後悔もない。

そう『妄想の中でなら』と注釈はつくが。


なのに現実はままならないとはよく言ったもので、『私』は『ワタシ』に転生してしまった。


『ワタシ』が転生した先は『私』の時の言葉で一番近い言葉を探すなら、動物園でしか見ることがなかった『狼』これが一番シックリくる……と思う。大きささえ考えなければ、と注釈がつくが。


正確には種族名は違うのだが、言葉はわかるのに声にのせるのが難しいというよく分からない名前なのでそこは容赦して欲しい。

ワタシも言葉にのせようと何度も挑戦したが、ニュアンスだけは伝えられるが言葉にできないという摩訶不思議加減に途中で挫折した。

誰に確認してもそんなモノだからと気にしていなかったので、気にしているのがバカらしくなったというのもあるのだが。


姿形は狼で、だけどその大きさは驚くぐらい大きかった。とてつもなく。

生まれたばかりで狼の成体と同じだと言えば分かってもらえると思うが、成長はいつ止まるんだと思うくらいみんな大きいのだ。

ワタシが所属している群れの中で一番は、赤ん坊の十五倍くらいの大きさをしている。


そして括り的には野生動物のはずなのに、みんな毛艶がとてつもなく綺麗でもふもふしているのだ。特別なお手入れなど全くしていないはずなのに……。

例えるなら『私』時代、友人が飼っていた小型犬が美容院からかえってきたばかりの時くらい、毛がふわっふわしているのに艶々と光り輝いていると言えば伝わるだろうか?

まぁ、わからなかった人はニュアンスで理解するか、実際に犬を飼っている友人などがその子を美容室連れて行く時にでも確認して欲しい。百聞は一見に如かずと言うではないか、うん。

そして色は銀白色。

『私』時代に見た一番でかいと言われる杉と同じくらいでかい木々が樹林されている森を住処にしているというのに銀白色。

周りは茶色や緑のオンパレードだというのに、保護色なんて関係ないとばかりに目立ちまくりの銀白色なのだ。

大事なことだから何度も言ったが、『私』のいた世界では保護色は自分の身を守るために進化の過程で、遺伝子レベルで身につけていったある意味究極の鎧だと認識している。

もちろん『ワタシ』の生まれたこの世界でもその認識は間違っていない、はず?

まぁ、こんなに目立つ色をしていることから分かってもらえるように、ワタシの生まれた一族はとてつもなく強かった。

そして売られた喧嘩は利子を十倍では足りないくらいつけて買うくらい好戦的だった。

それは男も女も……。いや、もう雄と雌って言ったほうが正しいのかな?


と、そんなことはどうでもいい。分かってほしいのは、普段は穏やかで優しいというのにとてつもなく好戦的なのだということ。

夢想していたある意味チートと、もふもふだけど想像と何かが違う。

普段おっとり笑顔が可愛いくて、思わず守ってあげたくなるような某チワワのようにウルウルお目々が素敵なお姉さんが、牙を向いたら人相(狼相?)がまったく変わってないか? と疑いたくなるくらい嬉々として応戦していた姿。あれを初めて見たときは本気で驚いた。その光景を見て、顎が外れるんじゃないかと口を開けて驚いたのは、今では子供の頃のいい思い出です。


強さこそが正義。まさにそれを地で行く一族なのだワタシが生まれた群れは……。

何かを欲しいと思えば自分の力で勝ち取れ。

それが例えどんなモノでも。奪われたくなければ強くなれ。

誰に言われることなく、そう育てられた。

野生で生きていく上でなくてはならない本能だとは思うけど、群れのみんなを見ていると確実に楽しんでいる事がわかるから、本能とは別で性格の問題なのだろう。

『私』時代に聞いた『脳筋』。彼らはきっとその類。


だから『私』は『ワタシ』として成人して一年もしないうちにこう誓った。

『絶対生涯独身を貫いてやるっ!!』と。


え? 話が飛びすぎてよく分からない?


……そう、確かに何も知らなければそう疑問に思うのも仕方がないと思う。

まず『ワタシ』と言っているように『私』は狼の女の子……雌として生を受けたことを前提に想像してほしい。

力が全てだというその意味を。そこには何事にも例外などないということを。


想像して欲しい。


生まれて初めて外に出たときに、初めて見る世界に馴染むよりも先に未だに終わっていない発情期の光景を見てしまった心境を。

それが自分の体を綺麗に見せるとか、大きく見せるとかならば『私』の常識が前面に出ていた幼い『ワタシ』も受け入れることができただろう。だけどそこは力が全てな脳筋族。

人間で言う恋愛もしていると聞いていたのに、外で見たのは恋愛にも例外なく力がものをいうという事実。

それを想像してほしい。

何で好きな相手に告白するのが狩り宛らな光景なの? と。

何でその返事が『私に勝てたらね』なの? と。


いやいやいや何かおかしくないですか~?

何で愛の告白に血が流れるんですか~?

思わず棒読みで言っちゃうくらいには衝撃で固まってしまいましたけど?

ああ、もう言ってやりたい。何故誰も不思議に思わない、と。


お姉さん昨日までその人(狼?)のことめちゃくちゃコケおろしてましたよね?

何で勝負に負けたからって『強くて素敵なの~』ってメロメロになれるんですか!

本当におかしいですよね?!

何でワタシの兄妹たちはそれで納得できるの?!


それは『私』には理解できない感覚で、その思考が残ってしまっていた『ワタシ』もそれを受け入れることができなかった。

だって恋愛=流血なんてどこのバイオレンス?! 負けたら即・子作りだなんて嫌すぎる!

子供を産んでみたい気持ちはやっぱりあるけど、相手を知らないまま正に食うか食われるかのバトルで決めるなんて絶対嫌だっ!


強いものは性別関係なくハーレムを築ける?

いやいやいや、そんな特典いりません。というより一人でも流血が嫌だってのにそれを複数ってどんな拷問?


強いものと血を残したい?

なら他の強いお姉様方でお願いします。




「……って、言ってるそばから攻撃してくるんじゃないわよ、この脳筋族どもが~~っっ!!」


軽い現実逃避をだと分かってはいても、見たくない現実に自分の過去を思い返していたというのに目の前に来ていた私よりも大きい銀の毛玉たちの、アツイ、暑っ苦しい告白劇に思わずイラっときてしまって思わず視界に入れてしまった。

視線を向けた瞬間、相手をする気は全くなかったというのに何かを喚きながら向かってこられたので、その相手の首筋に思いっきり噛み付くと力の限り首を横に振ってぶん投げてやる。

手加減? そんなことしてる余裕なんかあったら今すぐこの毛玉たちの壁を突き抜けてますが?

今の状況? ワタシにアプローチしていた群れの雄に囲まれてますが?


子供の時からそれとなく粉をかけられていたのには気づいていた。あからさまなプロポーズなどに加え、『ワタシ』には『私』の記憶があるのだから他のコ達より心の動きには敏感だったのは必然だろう。まぁ、そのかわり野性的な第六感は他の子よりも慣れることが苦手だったけど……。

だけどワタシが小さな頃に誓った誓いは未だ自分の中では健在で、プロポーズなどはすべてキッパリスッパリお断りしてきた。それはもう相手に誤解なんて少しも与える隙など与えずに。

だというのに何故か日々増えていく求婚者の数。なんてしぶとい。

突進してくるバカたちをちぎっては投げ、ちぎっては投げを文字通り行動で示してたというのに、どこから湧いてきたんだお前等は! と思うくらいどんどん増えていくタチの悪さに恐れおののいたものだ。


今までは子供だからと逃げれていたが、この度めでたく(?)大人になってしまったことで事態が急変してしまうし、ワタシにとっては本気で踏んだり蹴ったりだ……。


まだ発情期に入っていないはずなのにどうしてこうなったのかしら。


何故か沢山の雄に囲まれてしまったことで逃げ場は失ってしまったけど何回思い返してもその理由が分からない。

何故こうなったのかしら……? 気づかれないうちに群れから抜け出して旅に出るはずだったというのに。


だからワタシは今日も戦っている、独身を貫くために。










「だから攻撃してくるなって言ってるでしょうがっっ!!」


ああ、早く発情期終わらないかしら。はぁ~~……。




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