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おばあさんのたからもの

作者: 葵くるみ
掲載日:2012/11/24

 ある月のきれいな夜のことでした。

「おや……爪切りはどこにおいたかねぇ」

 おばあさんはいつも爪切りをしまっているはずの戸棚をがさごそと探しながらそんなことをつぶやきました。

 昔、もう亡くなっただんなさんと旅行に行ったときに買った、七宝の飾りがついた爪切りが見当たらないのです。小さなものですが、おばあさんにとっては宝物でした。

 もう夜も遅いので、今日は仕方ないから寝ることにしました。翌日探そうと、言い聞かせて横になったのでした。


***


 ぱちん。

 電気が消えるスイッチの音がして、

 『ぼく』はぱちぱちっとまばたきしました。

 ぼくはこの家のテレビの上に飾られている、くまのぬいぐるみです。昔おばあさんがまだむすめさんだったころ、ぼくを作ってくれたのです。ちりめんの布地とパンヤで出来たぼくのからだはすっかりすすけているし、きらきら光るガラスの目玉も気をつけないと落としそうになっているけれど、おばあさんのことを大事に思っているのはぼくも同じです。

 おばあさんがだんなさんを亡くしたとき、ぼくは神さまにお願いしました。


『少しでもいい、おばあさんのお手伝いがしたいのです』


 その願いを聞き入れてくれたのは月の神さまでした。

 そのときから、月のきれいな夜にだけ、ぼくは身体を動かすことが出来るようになりました。そんな夜、ぼくはちょこちょこおばあさんのお手伝いをします。

 それはおばあさん一人では手が届かない場所にあるものを手に取りやすい場所に移動させたり、おばあさんがそうじしやすいように新聞を少し整えたり、そんなことです。あと、おばあさんのこどもたちの誕生日などに、カレンダーに印をつけたり。

 まだまだ元気とはいえ年をとったおばあさんのちょっとしたお手伝いが出来るのが、ぼくは嬉しくてたまりませんでした。

 でも今度の爪切りはどこに行ったのでしょう?

 ぼくはその爪切りがこの家にきた日のことを覚えています。おばあさんがだんなさんと結婚して間もないころ、新婚旅行で行った京都で買ったそうです。七宝の飾りがきらきらしていて、ぼくも少しうらやましく思っていました。

 ――あれだけは、ちゃんと見つけなくっちゃ。

 ぼくを作ってくれた、大事なおばあさんの、大事な思い出の品です。本当になくなってしまったとしたら、おばあさんはひどく悲しむでしょう。

 夜に動けるぼくの体が、こんなに喜びにあふれていたのは初めてかもしれません。ぼくはそっと動き出すと、おばあさんの手が届きにくい高いところやたんす奥などを探すことにしました。

「おおい、たんす、たんす」

「なんだい」

「おばあさんの宝物の爪切りを知らないかい」

「わしはしらないなぁ」

「おおい、つくえ、つくえ」

「なんだい」

「おばあさんの宝物の爪切りを知らないかい」

「わしもしらないなあ」

 つくえやいすやたんすは知らないと言います。ぼくも少しあせりました。

 ……そういえば、この前、家にねずみが出たっけ。

 ぼくはそれを思い出して、窓をそっと開けました。外の世界はぼくのようなぬいぐるみにとって恐ろしいものがいっぱいですけれど、それでもおばあさんのためならと思ったのです。ねずみがとっていったかもしれないでしょう?

 ねずみのねぐらはすぐにわかりました。わずかにかび臭いにおいのする、下水の入り口そばです。

「おおい、ねずみ、ねずみ」

「おや珍しいものがやってきた。ぬいぐるみさん、何の用だい」

 ねずみはちゅうと鳴きながらこちらへ近寄ってきます。

「七宝の飾りがついた爪切りを知らないかい」

 そう尋ねると、ねずみはにやっと笑いました。

「あれなら、きれいだったからもらってきたよ。返してほしいのかい?」

「あれはおばあさんの宝物なんだ」

「ふむ、そういうことなら返してもいいけど、条件があるよ」

「なんだい」

「お前さんの取れかかった左の目玉、それを替わりにくれないかい」

「ぼくの目玉でいいのなら」

 するとねずみはぼくの目玉の糸を器用にかみ切って、それを前足で転がしました。

「これで交換成立だ」

 ぼくはそういうと、爪切りを返してもらいました。少しすすけているけれど、七宝の飾りはきらきらしています。ぼくの目はもう片方しかないから、少しだけさびしかったですけれど。

「それよりお前さん。もうすぐ朝だよ、おばあさんが起きるんじゃないかい」

 ねずみに言われてぼくはあわてて部屋に戻りました。きちんと窓を閉めて、鍵をかけて、そしていつもの場所に辿り着いたその次の瞬間――一番どりが鳴きました。


***


 朝、おばあさんは目を覚ますとてきぱきと動き始めました。

 そして朝ごはんを食べながらニュースを見ようとして、ぬいぐるみのそばにある爪切りに気がついたのです。

「おや、昨日あんなに探したのに」

 ぬいぐるみがいつもよりもすすけていること、片方の目がなくなっていることにも気づきました。そして、くすっと笑いました。

「お前が見つけてきてくれたのかい? ありがとう、ぬいぐるみさん」

 おばあさんはそっとなでて、微笑みます。

 ぼくはそれを片方の目で見て、幸せな気分になったのでした。

書くことに慣れるために書いた三題噺。

それでも懐かしい雰囲気に。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作者は「書くことに慣れるために」と書いておられるが、適当な感じは全くない。とてもていねいに書かれている。小学校の頃、国語の教科書で読んだ物語のようななつかしさ。こういうのも、いい。
2012/11/26 20:18 退会済み
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