name - 新しい命 -
「いずみ、こころ、ひかる、つかさ、さくらこ……うーん」
会社の屋上、寒空の下でその男・翔一(しょういち)は、ぶつぶつと呟きながら手にしたメモ帳を眺めていた。手すりに寄りかかってひたすら悩み続ける状態が、昼休みが始まってからずっと続いている。
その後ろのベンチで、煙草を吸っていた同僚・司(つかさ)がため息をついた。
「つかさはやめろよ、俺と同じ名前だ」
「ああ、そうだった。お前と一緒じゃ赤ちゃんがかわいそうだもんなー」
翔一はそう呟きながらメモ帳に書かれた「つかさ」の文字の上に二本のラインを引いた。司はやれやれと思いながら立ちあがり、吸い終わった煙草を吸い殻入れに捨てた。
そして翔一の横に並び、彼の持つメモ帳を覗き込む。そこにはこれから生まれてくる子に付けるために考えた名前がびっしりと書き込まれていた。
「生まれてくるのって、女の子なのか?」
「え? まだ分かってないけど」
「……女の名前ばっかじゃん。男だったらどうするんだよ」
「うーん、何か女の子な気がするんだよなー。何でだろ」
そう言って翔一はケラケラと笑い、司は呆れたように首を振った。特に気にした様子もなく翔一はメモ帳を指差しながら言う。
「漢字一文字で読みは三つっての良いと思わない? 『心』とか気に入ってるんだけど」
「心、なぁ。音も大事だとは思うが、意味もちゃんと考えてやれよな」
「わーかってるって。親としての初めての仕事だし、ちゃんと考えてるよ」
「それならいい。お前が俗に言うキラキラネームとやらを考えてなくて安心したわ」
司は新しい煙草に火をつけ、吸い込んでは煙を吐き出した。その隣で翔一はメモ帳をペラペラと捲りだす。
「実はそういうのも考えたりしたんだよね。どっかに書いてたんだけど」
「いや、考えるなよ」
予想外のことに司は吹き出し、翔一も短く笑った。そしてメモしていたページを見つけ、翔一はそれを読み上げた。
「えっと、えんじぇる。天使のような女の子になってほしくて」
「まんまだな」
「あとは、ここあ」
「甘党になりそうだな」
「うらら」
「……リンダかよ」
司がいちいち的確なツッコミを入れてくるものだから、翔一はこらえきれずに笑いだした。腹を抱えて笑う翔一を横目に、司は煙を吐きながら尋ねた。
「予定日は?」
「ん? 四月だよ」
翔一は浮かんだ涙を拭いながら答え、深呼吸をして息を整えた。雲の浮かぶ晴れた空に目を向け、司は言う。
「じゃあ春っぽい名前とかもありなんじゃないか?」
「おお、例えば?」
目を光らせ翔一は司に詰め寄った。司はうーんと唸り、少し考えてから口を開いた。正直大して浮かばなかった。
「花の名前」
「桜とか梅とか?」
「梅は二月ぐらいじゃなかったか。さっき桜子って言ってただろ、そういうのだよ。あとは、若葉とか」
「おお、若葉かー! かわいいから候補に入れとく」
そう言って、翔一は慌ただしくメモ帳にペンを走らせる。それを見ながら司はふっと笑った。
「まだ三ヶ月はあるんだから、しっかり考えてやれよ。おとーさん」
「おうよ」
「子ども養うために仕事もちゃんとしろよ。戻るぞ」
「えっ、昼休みもう終わり? 飯食ってねえ」
ベンチに置かれたままの弁当箱を持ち上げ、翔一はオロオロする。愛妻弁当を残して帰ると、奥さんに怒られてしまう。
そう呟いた彼を鼻で笑い、司は屋上の出入り口に向かった。
「仕事しながら食えば」
「そうするー」
軽い調子で頷き、翔一も彼に続いてビルの中に入っていった。
ふっと浮かんだ話を突発的に書いたので文章おかしいかもしれないです。それにちょっと皮肉っぽくなってしまった気もします…。
私も物語を考える上で名付けが一番悩む作業で、子どもの名付けに悩むことに共感できる部分もあったりなかったり笑
読んで下さりありがとうございました^^