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封印聖女×刀ヲ継しモノ  作者: 檜高 黎
ニ章 追憶の果て
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内包する闇

感想、指摘など、気軽にご意見頂ければありがたいです。

この物語はフィクションであり、作者自身、初めて書く作品ですので読んで下さる皆さんの意見をお聞かせ下さい。厳しい指摘も歓迎しております。

 惨劇の事件から10年と言う歳月が流れていた。幼い無力な男の子は、青年へと成長していた。

 青年は、あの痛ましい出来事を、一度として忘れてはいなかった。

 寧ろ、あの出来事を糧に生きてきたと言っても過言ではないだろう。事件の後、青年は母方の祖父に預けられて育った。

 当初、誰とも話さない少年を、祖父は厳しく育て上げた。ある時は真冬に外へ放り出し、井戸から汲んで来た冷水を浴びせたり、竹刀で叩いたりしてどうにか言う事を聞かせた。

 抜け殻の様な少年を、見かねた祖父は自分の流派である居合を少年に教え込む事にした。

 少年は、居合を習い始めてからと言うもの、一度として稽古を休む事は無かったのだ。自ら進んで稽古に明け暮れては、毎日深夜まで木刀を振り続けた。次日が休みならば、学校から帰宅すると、すぐに着替をすませ、明け方まで一心不乱に木刀を振り続けた。例え雨の日や、台風の日で遭ろうとも絶対に休むと言う事はしなかったのだ。

 常軌を逸した稽古の末、元来、青年が持っていた天賦の才を開花させる事になった。才能が開花すると青年は、祖父に実践での訓練を頼み込んだ。真剣での実践は危険だと判断した祖父は、条件を出す事にした。 

 居合大会に出る事を条件に、真剣での実践を許可したのだ。青年は二つ返事で承諾すると、居合大会へと進んで参加した。気が付けば、その道で青年を知らない人はいない位になっていた。

 青年に取って大会で優勝する事は意味のない物となっていた。居合大会への参加、それは、復讐を成し遂げる為の通るべき道でしかなかったからだ。

 一つの目的を達成するため、青年は己の全てを刀に捧げた。

 どんな時も、青年の心は、平穏を取り戻す事はなかった。青年の心には、常にあの晩の出来事が渦巻いていたからだった。


 「母さん・・・必ず、母さんを殺した奴をこの手で裁いて見せるから・・・」


 青年はそう呟くと、祖父の家を出て学校に向かい歩き出す。いつもの見慣れた通学路。

 周囲は、生徒の掛け声で賑やかに賑わっている、そんな事を気にも止めずに淡々と学校へ向かう。

 学校と言う場所に関して言えば、青年は全く興味が無かった。ただ祖父が行けと言うので仕方なく行っていただけだった。青年からすれば、寧ろ、学校に使う時間を実践練習に使いたかったのだ。

 それだけ青年にとって、学校なんてどうでもよかったのだ。

 学校の門を潜り、下駄箱へ向かう。

 下駄箱を開けるとそこには、いつもの様に何通かの手紙が入っていた。


 「毎度の事とは言え、いい加減にして欲しいな・・・色恋沙汰には興味が無いんだ」


 青年はそう呟くと、手紙を持って教室へと向かう。

 教室に入ると、真っ先にする事は、ゴミ箱の前に向かう事だった。

 そんな青年を見てか、皆好い印象はなかった。青年は学校で孤立していた。

 誰とも話す事もなく、誰からも理解されない。青年にとってそれは当たり前の事だったのだ。

 いつしか生徒の間に噂が流れた。


 「面倒なことに巻き込まれたくないなら、綾瀬には近づくな」


 生徒達の間ではすでに暗黙の了解になっていた。

 午後の授業が終わり、青年は屋上に呼び出された。

 屋上に行くと毎度の様に、不良達が青年を囲みこむ。


 「おい!綾瀬、テメェ調子に乗ってんじゃねーよ! 俺の妹の手紙捨てたんだってなぁ!」


 「手紙? ああ。下駄箱に入ってた手紙か、読まずに捨てたけど何か問題でもあるの? いつもの事だろ?」


 「テメェ・・・俺の妹の気持ちを考えた事あんのか? 今日こそは勘弁しねぇ!」


 「妹の気持ち? 幹久の後ろにいる妹の事? 用があるなら直接言ってくればいいじゃないか?」


 幹久の妹の姿は不良達に紛れて確認できなかった。


 「それができないのが女ってもんだろうが! お前は人の気持ちがわからねぇのか? あ?」


 「興味ないね。もういい? 用がないなら帰るけど、あるなら早くしてくれないか?」


 不良達は、完全に頭に来ていた様子だった。


 「綾瀬、今回ばかりは頭に来たぜ! ぶっ殺してやる!」


 そう言うと幹久は、ポケットからナイフを取り出し青年に突きつける。


 「俺を殺すのか? 君が? 無理だよ。人を殺すのには覚悟がいる」


 「うるせぇー!」

 ナイフを持って襲い掛かる、幹久の腕を掴み、力一杯握り込む。


 「いっってぇえ! 放せ! コラ!」


 「だから言ったろう? 君じゃ俺を殺せないって、どうして解らないんだよ」


 「人の命を奪うって事がどれだけ、重いことか解ってる? 簡単に出来る事じゃないんだよ!」


 そういうと青年はきびすを返し、教室へ向かおうと方向を変える。

 幹久達は、背後から一斉に襲い掛かる。

 次の瞬間、彼等は地面に倒れていた。

 倒れこんだ幹久達は呻き声を上げて苦しんでいた。


 「挑発したのはいいけど、呆気なさ過ぎて訓練にもならないな・・・」


 そういうと青年は階段を降りて行こうとした。急に後ろから呼び止められる。


 「綾瀬先輩!あのっ・・・そのですね・・・実は前から先輩の事が好きだったんです! 私と付き合ってもらえませんか!」


 声の主は可愛らしい女の子だった。


 「ごめんね。君の気持ちには答える事ができないんだ、こんな俺の事好きになってくれてありがたいんだけど・・・」


 「先輩、どうしてですか? 他に好きな人がいるからですか? いるなら教えてください。私・・・先輩の事知りたいんです」


 青年はゆっくりと女の子に近づくと耳元で囁く。


 「俺の母親。十年前、殺人鬼に殺されたんだよ。俺は母親が殺される所を目の前で見ちゃったんだ。それからずっと母さんを殺した奴を探してる。だから・・・無理なんだよ。もう辞める事はできないから」


 話を聞いた女の子はショックで声が出ない様子だった。


 「酷い事言ってごめん。幹久が言った事は良く解ってる。本当、妹思いのお兄さんだね。こんな真直ぐな奴そういないよ。起きたら刃物は止めとけって伝えといてくれるかい? 俺の様になったら戻れなくなるからさ」


 そう女の子に託けると青年は階段を降りていった。残された女の子は、唯泣く事しか出来なかった。青年振られた事にではなく、冷たい態度ではあるけれど、他人を気遣う優しい心の持ち主。過剰なまで自分を責めて生きる青年を思うと涙が止まらなかったのだ。


/


 青年は学校の正門を出て足早に家路に着こうとしていた。何かを思い出したかのようにピタリと足を止める。ああ。そう言えば今日は新調してた武道着が出来上がってる日だったなぁと呟いて踵を返す。

 歩いてきた道を逆に辿りながら駅の方向へ向かう。

 駅へ向かう途中、屋上であった幹久の妹とすれ違った。彼女は青年を見るなり、今にも泣き出しそうな瞳をし顔を伏せて駆けていった。


 「随分と嫌われた物だなぁ。近寄らなくなっていいか・・・」


 そして、何も見なかった様な顔をして駅へと歩みを進める。

 駅に着くと学生やサラリーマン、OL等で混雑していた。青年は人込みを避けるように駅を通り抜け、ビルとビルの隙間の路地に足を踏み入れる。

 新幹線が、頭上を通過する高架下は街の不良達の溜まり場となっていた。

 知らずに足を踏み入れたのだろうか?

 若い女性は、不良達に追いかけられているようだった。

 女性は息を切らしながら、こちらに向かって駆け寄ってくる。


 「助けて・・・・お願いだから助けて!」 


 その顔からは、血の気が引き、蒼白く氷ついていた。

 不良達は、女性に追いつくとまるで壊れた玩具のように笑う―――。


 「残念でした! お姉さんは俺達と今から楽しいことする事が決定しちゃった!」


 女性は、不良達に捕まり、路地裏へとその姿を消してゆく。

 リーダー格の男が近づいてきて、青年を上から下まで舐める様に観察した後、獰猛に嗤う。


 「お前も、見たからには同罪だな。ふーん、結構な美少年君だな。あっちの人に人気が出そうだ」


 まるで子供が新しい玩具を、買ってもらったようにはしゃぐ、その姿は一般人ならば、戦慄を覚えただろうか。

 だが青年にはこいつらの、異常さはまがい物にしか見えなかった。

 青年が黙って見てるとリーダー格の男は、舌打ちをし数人仲間を呼びつけた。


 「普通、ビビッて土下座やら有り金出して、跪いて許しを乞うもんだけどなぁ。お前の眼はよ、俺と同類の眼してやがるのに、自分は特別みたいな眼しやがって、気にいらねぇんだよ!」


 あっと言う間に青年は、四人に囲まれていた。


 「少し、お仕置きが必要だな! なぁそう思うだろ、お前等もさぁ?」


 リーダー格の男の問いかけに、仲間も嬉しそうにケタケタと嗤う。

 一瞬、寒気がした。仲間の一人が、青年の背後からナイフで斬りつけてきた。

 青年は軽く受け流すと相手の腕を掴み、力一杯捻り投げる。

 投げられた仲間は手首を押さえ、転がり泣き叫ぶ。


 「腕がぁぁぁあああ! 俺の手首折れてるぅ!!」


 もがき苦しむ仲間を見てか、数人の顔が硬直する。


 「覚悟も無く刃物を持つ奴は、簡単にメッキが剥がれるな。そういう物を持つって事は、自分の命も天秤に賭けるって事だと理解してんのか」


 「こいつ・・・イカレテやがる・・・」


 リーダー格の男を除いて、囲んでいた不良達は、畏怖の眼で青年を見つめ逃げ出した。

 「チッ! 腰貫け共が! お前の言う通り、半端な奴に人殺しは無理だろうな。でも俺を連中と一緒にしてもらうと困るなぁ。生憎、俺はもう経験済みだ!!」


 リーダー格の男は、自慢そうに嗤うと臨戦態勢に入った。

 そのスタイルを見て青年は言い切る。


 「ボクサー崩れか・・・」


 「ご明察!それから俺は、気が付けば、此処にいたってわけ!」


 「事故で誤って人を殺したお前と一緒にするな。お前は逃げ出しただけだろう」


 「知った風な口をほざくな!お前、もういいから死ね!」


 リーダー格の男は、間合いを計る。

 次の瞬間、男の左手からジャブが繰りだされる。

 青年は手の甲でジャブを捌くと、男は、薄い笑みを浮かべ、即座に青年の顔面へ目掛け、親指を突き出した右ストレートを放った。が、男の放った右ストレートは空を切る。


 「!!」


 男が右ストレートを放った瞬間、体ごと男の間合いに入り込み、体を沈めると下から軽く体重を乗せ掌低で顎を打ち抜いた。

 男が気が付いた時にはもう遅かった。体は宙に浮き、糸が切れた様にその場に沈み込む。男が沈み込んだ場所には鮮血で、小さな水溜りが出来上がっていく。


 「ご丁寧にサミング付きか。気が付いたら前後の記憶は無いだろうけど、暫く寝てろ」


 女性が消えた、路地裏へ急いで走り出す。細いT字型の路地裏を右に曲がると、やがて、突き当たりにぶつかった。

 そこは死角になっていて人目につかない場所だった。

 その隅に、数人の男達に囲まれ女性は居た。

 見れば、服を破かれ何箇所か、肌が露出していた。男達は女性に馬乗りになり四肢を押さえつけていた。

 すでに女性はに空ろな瞳で、空を見上げている。

 その光景を眼の辺りににした青年は、今まで必死に押さえつけていた自分の中に潜む、黒い殺意に飲み込まれた。

 理性と言う枷をを忘れた殺意は、青年を闇へと引きずり込んだ。

 馬乗りになった男へと、疾走すると背後から頭部に向けて中段蹴りを食らわす。

 蹴られた男は吹き飛ばされ、ベシャッ―――と音を立て壁へ張り付くように崩れ落ちる。

 最早、青年には相手の生死など関係なかった。

 異変に気づいた男達は、次々とナイフや金属バットを持ち出し、青年に襲い掛かる。

 男の一人が青年の胸部に向かってナイフを突き刺す。青年は素早く腰を少し下ろすと、左手で腕を掴み、捻ね上げると、右手で男の顎を真横に打ち抜く。

 ナイフの男は吹き飛ばされるように転がり込むと微動だにしなくなった。

 背後にいた男は、即座に金属バットを青年の頭へ打ち下ろす。

 青年は一瞬で、右足を軸に左足を下げると、体を位置を素早く反転させる。金属バットは硬いアスファルトに叩きつけられた。

 金属音が空気を伝い耳の奥まで響き渡る。

 青年は瞬時に跳びあがると、相手の側頭部を目掛け、右足を振り下ろすと異質な鈍い音がした。

 男はそのまま、眼から鮮血を流し崩れ落ちた。

 青年を中心とした境界線の外側は、血の海と化していた・・・

 やがて女性の瞳に、光が戻る。

 周囲を見渡すと、先程まで自分を押さえつけていた男達が、鮮血に染まり倒れていた。

 青年は、静かに女性に歩み寄ろうとした。カチカチと歯を震わせて女性は青年を拒絶すると、


 「来ないで・・・!!!」


 鮮血の水溜りの中、青年は足を止める。


 ピシャリッ!―――


 青年は初めて気が付いた。自分の足元が血の湖になっている事に。

 女性が、恐怖するのもおかしくはなかった。

 そこに居たのは先程までの青年ではなく、どこか殺人鬼の雰囲気を漂よわせる・・・・・何かがいた。

 女性の表情を視て。

 正気を取り戻した青年は、静かに女性に近づくと上着を脱ぎ、露出した肌に学生服を纏わせた。

 女性は、恐怖で凍り付いていた・・・


 「同類か・・・」


 一言呟くと、青年はその場を後にした。


 

 

 

  

 

 

 


 

  

 

 

 

  

 

  

 

 

 

 

 

 

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