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封印聖女×刀ヲ継しモノ  作者: 檜高 黎
ニ章 追憶の果て
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幸福と喪失

感想、指摘など、気軽にご意見頂ければありがたいです。

この物語はフィクションであり、作者自身、初めて書く作品ですので読んで下さる皆さんの意見をお聞かせ下さい。厳しい指摘も歓迎しております。

 ヴェルフィーユは目をゆっくりと開ける。木の板を張った天井が視界に入る。

 見たことのない草が敷き詰められた部屋に寝ていた。


 「・・・此処は・・・何処?・・・」


 ゆっくりと体を起こすと、突然、男の子が飛びついてきた。


 「えっ!」


 男の子は、ヴェルフィーユの体に抱きつき嬉しそうに笑う。


 「よかった。おねーちゃん目が覚めたんだね!」


 そう言うと脱兎の如く階段を下りて行く。


 「おかーさん!おねーちゃんが目覚ましたよー!」


 「そう良かったわね」


 「おかーさんもおねーちゃんに会ってよ、凄く綺麗なおねーちゃんなんだよ」


 「わかったわ。おかーさんも行くから慌てないの」


 ヴェルフィーユは狼狽ろうばいした。


 「このままじゃ見つかっちゃう!」


 何処か隠れるところはないか部屋を見渡すと、紙で作られた扉を見つける。起き上がり扉を開けようとする。


 「なんで開かないの・・・どうして?」


 迷ってる時間はない、ヴェルフィ-ユは魔法で扉を通り抜ける。


 「もう! なんて狭いの! でも此処ならきっと、見つからないわ!」


  階段を上がって来る音が聞こえるに連れ、ヴェルフィーユの鼓動は早くなる。


 「おねーちゃん!・・・あれ?いない」


 「九郎の自慢のおねーちゃんは何処かな?」


 優しく九郎の肩を抱き、指には銀の指輪が光っている、そして優しく微笑む顔に見覚えがあった。 

 ヴェルフィーユは驚きを隠せなかった。


 「あの男の子がクロウなの? さっき見たクロウとは雰囲気が違う! それにクロウのお母さん!」


 クロウは、何かに気づき押し入れへと駆け出す。押入れの隙間からヴェルフィーユの髪が零れ落ちていた。

 「おねーちゃんみーつけた!」と同時にふすまが開く。

 ヴェルフィーユは心の中で呟く。


 「クロウの馬鹿ぁ~!」


 クロウの手によって押入れは開かれた。


 「ほらおかーさん。おねーちゃん居るよ!」


 ヴェルフィーユは涙を滲ませていた。


 「九郎。お母さんには、見えないわ」


 「どうして?」


 「そうね。九郎は心が綺麗だから妖精さんが見えるのかもね。大人になると善い事も、悪い事も知ってしまうから、お母さんには見えないのかも知れないわね」


 そう言うとクロウに優しく微笑み、頭を撫でる。

 クロウは不思議そうな顔で、聞いている。


 「九郎には、ちょっと難しすぎたみたいね。すぐ夕飯だからお風呂に入りなさい」


 「うん!」


 そう言うとクロウのお母さんは階段を降りていった。

 ヴェルフィーユは安堵した。そうよね普通見えるわけ無いもの。見えるクロウのほうがどうかしてるわ。

 ヴェルフィーユが押入れから這出ると、クロウが勢い良く抱きついてくる。


 「きゃ!」


 クロウが抱きついた衝撃で尻餅をつく。


 「おねーちゃんは妖精さんなの?」


 ヴェルフィーユの胸に顔を埋め、クロウは上目使いでこちらを見上げてくる。

 一瞬、凄く可愛いと思ったヴェルフィーユは抱きしめそうになる衝動を必死に堪える。


 「そうよ、おねーちゃんは妖精さんなの。でもクロウにはどうして私が見えるの?」


 「妖精のおねーちゃん。どうして僕だけ見えておかーさんには見えないの?」


 質問を、質問で返されたヴェルフィーユは決めた。逃げようと。


 「クロウ、おねーちゃんもそろそろ夕飯だから、妖精の国に帰らないといけないの。助けてくれてありがとう」


 「えー! 帰っちゃうの?」


 「ほら。クロウもお風呂に入らないと、ね?」


 「うん!」


 そう言うとヴェルフィーユは魔法を詠唱する。


 「HLDU;PUNK**DSEU‘WRKP*」

 (我の姿を、なんびとのまなこにも写し出す事を禁忌とする)


 光の粒に姿を変え、空気に溶けていった。

 後に残されたクロウは、階段を下りて行った。


 「おかーさん、妖精のおねーちゃん帰っちゃった」


 「残念、お母さんも見たかったわ。九郎は今からどうするのかな?」


 「お風呂に入るー!」


 「偉いわね、早く入ってきなさい。ご飯出来るわよ」


 ヴェルフィーユは、下から聞こえてくる親子の会話を聞きながら、疑問に思っていた。


 「不可視の魔法をかけないと誤魔化せないなんて、クロウの目は一体どういう目をしているの・・・」


 「それに、無邪気なクロウを見てると、この後何が起こったのかも気になるわ。このまま様子を見るしかないわね」


 ヴェルフィーユは、背中を壁につけ座ると、暫しの休憩を取ることにした。

 

/

  

 外は霧が、立ち籠めていた。霧の中から黒いローブを纏った、男とも女とも判らない人物が現れる。

 工事現場の電柱に拠りかかり寝ている、会社員風の男性に近づくと額に人差し指を着け、聞き取れない言葉を発する。

 会社員風の男は一瞬、目を見開いた。

 ローブを纏った人物は、満足そうに微笑むと、再び霧の中へと隠れて姿はそれっきり見えなくなった。

 謎の人物が霧と共に去った後、会社員風の男は、静かに起き上がった。

 そして激しく咆哮する。

 男は、手元に転がっている鉄パイプを持つと、視点が定まらない空ろな瞳をして、覚束無い足取りで静かに歩き出した。


/


 ヴェルフィーユは、異様な雰囲気を察知して目を覚ます。


 「何? 今何か、酷く嫌な感じがしたわ。もしかして・・・クロウ達に何あったんじゃ・・・」


 目覚めたヴェルフィーユは、浮遊する様に急いで、階段を降りて行く。

 階段を降りて行くと玄関が見えた。

 玄関を背に細い廊下を浮遊する様に疾走する。


 「クロウ、何処にいるの!」


 焦る気持ちを抑え、クロウ達を探していると、右側の部屋から声が聞こえる。

 ヴェルフィーユは、扉を通り抜ける。


 「今晩から、明日にかけて雨が降る模様です。外出の際には傘を忘れないように気をつけて、お出かけ下さい。では、次のニュースです」 

 

  ヴェルフィーユは、四角い箱の中に居る小人を見て問いただす。


 「ねぇ、貴女、クロウ達を見なかった!」


 焦る表情で、四角い箱に収められた、小人に話かける。


 「質問に答えなさい!」


 プツン―――!


 小人は漆黒の闇に消えて行った。


 「ちょっと、逃げるなんて卑怯よ!」


 ヴェルフィーユが憤慨していると、背後から声が聞こえた。


 「もう九郎ったら、テレビを消しなさいってあれ程言ったのに、困った子ね。で、テレビを消し忘れた犯人は何処にいるのかな~?」


 ヴェルフィーユは呆気に囚われている。


 「えっ・・・テレビ? 小人じゃないの?」


 ヴェルフィーユは恥ずかしさの余り、俯き加減で頬が桜色に染まる。


 「さっささ・・・最初から解かってたわ!」


 呟きながら、クロウの母親に目を向ける。


 クロウのは母親は、したり顔でこたつに近づくと、これでもか!と言う具合にこたつ布団をめくった。


 「ふふふっ! 犯人はここね!・・・あら?」


 テレビを消し忘れた犯人は、コタツの中で気持ちよく眠っていた。


 「もう! あれ程コタツの中で、寝ないように言ったのに。本当困った子ね」


 クロウの母親は、呆れた貌をしているが、顔の口角は上がっている。

 当たり前の様な親子の関係を見て、ヴェルフィーユは安堵の表情を浮かべ心を落ち着かせた。

 クロウ母親は、壁掛け時計に見上げる。


 「もう夜の11時なのね」


 こたつからクロウを抱き起こすと、クロウを抱き抱え、階段へ向かい二階に上ってゆく。ヴェルフィーユも後を追うように一緒についていく。

 階段を上がり、クロウを畳に寝かせると、押入れから布団を出し引き始める。クロウを見つめると独り呟いた。


 「あの人が、居なくなって7年も経つのね・・・本当に大きくなったわね。私の大切な可愛い宝物」


 クロウの母親は、愛おしそうに寝ているクロウ見つめている。 

 突然、下からガラスの割れる音が聞こえてくる。

 クロウの母親とヴェルフィーユは、慌てて階段を降り様子を見に行と、そこには、玄関を破壊し、片手に鉄パイプを携えた、空ろな目をした男が立っていた。


 「コロス、コロス、コロスコロスコロス!」


 呪文の様に唱えながら玄関から二階へ向かい歩きだす。

 クロウの母親は急いで、階段を駆け上がる。

 大きな物音に、目を覚ましたクロウは母親の元へと駆け寄る。


 「おかーさん・・・」


 クロウを抱き寄せ、覚悟を決めた顔で、静かに話し掛ける。


 「九郎はいい子だから、お母さんの言う事、何があっても守れるわよね?」


 「おかーさん。どうしたの? 何かあったの?」


 「九郎、いい子だから聞いて! 絶対に押入れから出たら駄目よ! いいわね!?」


 「うん・・・」


 クロウを抱え、押入れへ、急いでクロウを押し込むと男は階段を上がって来て、静かにその姿を現す。


 「何か家に御用かしら? こんな深夜にセールスなら間にあってるわ!」


 クロウの母親は気丈に立ち向かう。

 男は、奇声をあげ咆哮する。


 「どうやら、話の通じる相手じゃないみたいね・・・」


 ヴェルフィーユは、どうにか助けようと、魔法を詠唱する。


 「AKLH*SOUNG+*JZIBSO*+WIUNC*++ASPR***」

 (悪しき者より、彼女を護りたまえ。天上の業火で悪しき者を焼き払え!)


 男に向かい魔法を放つ。男を通り抜け魔法は消えていく。


 「クロウの過去に起きた事は、どうして変えられないの!? どうして! クロウには干渉できるのに!」


 ヴェルフィーユは困惑し、絶望した。唯、黙って見ているしか出来ない自分に。

 男は奇声をあげ、鉄パイプを大きく振り上げ、クロウの母親に襲い掛かる。


 「こんな事したくないけど、少し痛い目見てもらうわよ!」


 そう言い放つと、クロウの母親は男に向かい突っ込んでいく。

 男が鉄パイプを振り下ろす、僅かな隙を突いて、一瞬で間合いを詰めると、男の顎を掌低で真上に打ち抜く。

 異質な音と共に、男の顎は砕け、歯が飛び散る。

 男は仰け反り、ゆっくりと、クロウの母親へと向き直す。振り下ろした鉄パイプを持ち直すと、片手でクロウの母親の首を掴み取り、軽々持ち上げた。


 「うっ! なんて・・・怪力なの・・・もうこれは人間の力じゃないっ」


 クロウの母親を、壁向かい投げつける。壁に叩きつけられ崩れ落ちる。


 「どう言う事?! 普通なら起ってられないわよ・・・」


 その光景を襖の隙から見ていたクロウは、母親を助けようと出て行こうとする。それに気づいたクロウの母親は、悶え苦しみながら、クロウを凝視する。


 〟絶対に出てきては駄目っ!九郎!〝


 残酷なまでに瞳は告げていた。

 ヴェルフィーユは、母親の視線に気づくと、素早く襖を通り抜け、クロウを抱き寄せた。

 クロウの背後に周ると包み込む様に両目を覆い隠す。


 「クロウ、見ては駄目!!」


 男はゆっくりと母親に近づくと、力一杯、鉄パイプを叩き付けると無惨にも男の手から、幾度も鉄パイプが振り下ろされる。

 血が飛び散る音、骨が砕ける音を聞きながら、幼いクロウに分かることは、母親が、悲鳴一つ漏らす事なく死んだと言う事だった。

 それは母親の自分への精一杯の思いやりだったのも分かっていた。

 クロウの母親が息絶えたのと同時に、男も糸が切れた人形の様に、その場に倒れ込んだ。

 ヴェルフィーユは、クロウを襖から向き直し見ると、そこには以前のクロウは居なかった。


 「して・・やる・・ころ・・・して・・やる・・・いつか絶対に僕の手で・・・殺してやる・・・」


 空ろな瞳でヴェルフィーユを見上げる、瞳にはもう何も映ってなかった。

 溜らずヴェルフィーユは、クロウを抱きしめると頬から涙を伝わせる。


 「ごめん・・・なさい・・・何もしてあげられなくてごめんなさい・・・!」


 クロウを抱きしめるヴェルフィーユは、突然、記憶の狭間から現れた、緑の手により狭間へと連れ去られた。





 




 

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