ユキとエレ
町全体を囲む高い城壁をを護る一人の兵士は、ぼやく。
「こう毎日、毎日。同じ景色眺めてるのもつまらないな」
まるで大きな剣で城壁を切ったように、四角く細長い出入り口が口をあけている。
兵士の真横に、ほぼ水平の高さに位置する支柱があり先端は格子状のお椀形をしている。
くべられた薪から、灯りがうっすらと兵士の姿を闇夜に照らし出していた。
出入り口を挟んで向かい側に、槍を携えて佇む兵士はつまらなそうに答えた。
「まぁな、なんでもうちの領主様は、女を囲んでるらしい。 城に行ったきり帰ってこないんだとよ」
「へぇ。まぁそれはいいとしても、俺らにも分けて欲しいもんだなよな。そうすりゃ少しは仕事にも熱が入るってもんだろ?」
「まぁ、そうだな・・・おい! 何か音がしないか?」
コツン! コツン! と地面を叩く音が聞こえてくる。
兵士達は、息を呑み武器を手に持ち身構える。
暗がりの中に、うっすらと赤い人型が見えてくると冷や汗を垂らしながらお互いに聞きあった。
「おい! お前眼がいいよな? 俺には赤い何かが見えるんだけどお前何か見えるか!?」
「俺も、お前と同じものが見えるが、どうやら人みたいだ・・・」
「幽霊じゃないのか・・・お前目がいいな」
「ああ、足は見えてる。ただ身長的に男じゃないみたいだ・・・」
城門に近づいてくる人物は、松明の明かりで少しづつ姿を現して木の杖を兵士の具足にコツン! と当てて止まった。
兵士達は、互いに目をみやると声を揃えて言う。
「おい! 女だ! 今夜はツイてるな!!」
兵士達は、白くやわらかそうな肌をみて歓喜している。
だが、その姿に警戒する。
見たことのない服に、大きなリボンを巻いて腰には武器らしき物を携えていた。
肩まで伸びた漆黒の髪に、真紅の口紅を引いた少女に。
その瞳は、閉じていた。
兵士は、疑問に思い声を荒げる。
「おい! 女。ここに何の様だ!」
女は答える。
「船が難破して、道を歩いてきたらここに行き着いたのです・・・来る途中に親切な方がこの先にヴェルドラッカーと言う町があると教えてくれました・・・どうにか助けて頂きたくてここまで二日掛けて歩いてきました」
兵士の一人がは、女の顎をクイっと持ち上げて好奇に満ちた目で上から下まで観察する。
(髪は黒か、まぁ珍しくはないか、奇妙な服を着てるがまぁ外国の人間だな。どうせここも似たような者の集まりだ・・・一風変わって見えるがこれほど美しい女はそういないだろう、しかし目が気になる・・・見えないのか?)
少女の顎から手を離すと声を掛ける。
「おい! 女。目が見えないのか?」
聞かれた少女は、静かに話しかけた。
「生まれたときは、目が見えていました。幼少期に目が見えなくなって、それっきり光を失いました・・・」
兵士の男は、口角をあげて笑うと少女に飛びかかろうとした、一瞬。
少女は、後方に飛び左手で刀を引き抜くと兵士に向かい首元に切先を向けた。
そして、静かに語りかけた。
「目が見えない代償に、聴覚はするどいのです・・・こういう事は私にとって日常的に起こることですから・・・」
それを見ていたもう一人の兵士は、槍を少女に向けて言い放つ。
「盲目で、そのような戯言信じられるか! お前は何者だ・・・」
少女は、落ち着き払って述べた。
「先程、説明したとおりです・・・」
城門が騒がしいと感じ、近くにいる指揮官が馬に乗って駆け寄ってきた。
「どうしたの? 貴方達? 何を騒がしくしてるの?」
全身甲冑姿の指揮官は、馬を下りると兜を脱ぐ。
兵士は、膝をついて頭を下げて事情を説明した。
腰まで届く黒い髪をなびかせ、茶色の瞳で少女を見つめる。
「ふーん。事情は大体わかった! 貴方達邪魔だから下がりなさい」
指揮官の命令に、兵士は城門前で起立すると微動だにしなくなった。
少女に向けて、指揮官は剣を抜くと突いて見せた。
風を切った剣は、少女の顔手前で切先を止めた。
眉一つ動かさない少女の様子をみて、納得すると剣を収めて話しかけた。
「どうやら、本当に嘘じゃないみたいね・・・相当の修羅場を潜り抜けているみたいだし、丁度人手も足りなかったから、私の侍女になってもらいましょうか、使えるものは使わないと勿体無いわ。私はエレ。ここの指揮官よ。ついてらっしゃい!」
エレは少女の手を取り門をくぐり抜けると、思い出したように気がついて、振り返り少女に話しかけた。
「貴女、名前は?」
エレの後ろに佇む少女は、静かに答えた。
「ユキと申します。エレ様・・・」
少女は優しく笑いかけると、エレの馬に乗せられて町に入っていった。




