蒼き騎士の剣戟
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この物語はフィクションであり、作者自身、初めて書く作品ですので読んで下さる皆さんの意見をお聞かせ下さい。厳しい指摘も歓迎しております。
気が付けば彼は、鬱蒼とした森の中にうつ伏せに倒れこんでいた。
起き上がり周りを見渡す、周囲には人の気配は全くなかった。
「ここは何処だ・・・?」
何が起きたのか分からなかった。
懸命に記憶を手繰り寄せる。居合大会からの帰り道、ホテル向かって歩いてたはず・・・
「そうだ。目抜き通りの交差点で、確か雨が降ってて・・・今まで感じたことのない衝撃が体に走ったのは憶えてる」
「雷にでも打たれたのだろうか? あの時、雷鳴が鳴ってたから・・・」
少し指先を曲げる、指は動く様だ、次は両の手のひらを何度かひらいては握りかえしてみた。
特に異常はない事に、彼は安堵の表情を浮かべて呟いた。
「指先や腕に異常がなかったのは良かった・・・」
深緑の隙間から木漏れ日が漏れている、鳥の泣き声が耳に届いてきた。
「都会の喧騒とは大分違うけど、こっちの方がいい・・・」
彼は、大きく空気を吸い込み瞼を閉じた。
耳から伝わる小鳥のさえずりを聞きながら、この雰囲気を噛み締めていた。
事態がわからない状況の中で、青年は口元を緩ませて落ち着いていた。
暫くすると、近くで馬の走る音が聞こえてきた。
馬の軍勢が勢いよく、青年に向かい走ってくる。
彼を取り囲むと、体躯のいい全身鎧姿の男が叫ぶ。
「全員、止まれ!」
次の瞬間、甲冑を着用した軍勢は馬から降りると彼を取り囲んだ。
体躯のいい銀の甲冑と蒼のマントをまとう姿の人物が話し掛けてきた。
「貴殿は何者か? 何処から来た? 見慣れない服装だが、身分を明かしてもらおうか。場合によっては捕縛する事になるが、正直に身分を明かしたほうが身のためだぞ」
何が起きてるのか理解できなかった。突然現れた銀の甲冑姿の男達、全員、手に武器を持っていて兜で顔を覆われている。その事がかえって、不気味さを感じさせた。
そんな状況に置かれても彼は、落ち着いていた。
彼は立ち上がると興味をなさそうに話しかけた。
「何か用ですか?」
一瞬にしてその場の雰囲気が張り詰める、どうやら怒りを買ってしまったみたいだ。
「貴殿は、我らを愚弄してるのか? 聞いているのはこちらだがな。それとも貴殿は、ここを何処か知らぬのか?」
体躯のいい男が、この隊の指揮官である事は把握できた。
さらに怒りを買う事を承知で、指揮官に問いただした。
「ここは・・・何処なんですか?」
その場にいた指揮官以外の騎士は酷く激高し、武器に手を掛けた。
彼は、武器に目を向ける、剣や槍を携えていた。
「本当に分からないないんです! 此処が何処か知ってるなら教えて下さい」
指揮官は呟く。
「此処はな、ブリテン国の王。アーサー王の領地だ」
「アーサー王?」
「そうだ。よもや知らんわけではあるまい? ブリテンに住んでる者ならば知らぬ者はおらんぞ」
「今、俺に分かるのは、ここが元いた俺の世界ではない事だけです」
指揮官は腕を組み少し思案してるようだった。
「ならば、貴殿はこことは違う世界の者か?」
「恐らくそうなると思います。落雷で打たれて、気が付いたらこの場所にいたんです」
「そうか。貴殿も武器らしき物を携えてるようだが、異界の者ならば、遠慮はいらぬな」
指揮官は、手を掲げて、二人の騎士に合図を出す。すると剣携えた騎士と槍を持つ騎士は、素早く臨戦態勢に入った。
彼は表情を強張らせた。
「まさか・・・」
「そのまさかだ、試させて貰うぞ。」
彼は焦る、刀は手元にあるが居合袋の中入ってるからだ。
刀を取り出してる時間はない。
何とかして刀を取り出す時間を稼がないと、と考えてると剣士が切り込んで来た。
片手で剣士の手元を押さえ込み素早く足元を払いのける、剣士は倒れこみ転がる、その間に袋から素早く刀を取り出す。
指揮官は、一瞬驚き、笑った様に見えた。
彼は、刀を構えて問いかけた。
「本当にやるんですか・・・?」
「無論だ、生死は貴殿次第だがな」
その言葉に、彼の中に熱い物が込み上げてきたのが分かった。
今まで真剣での稽古もしたが、唯の一度も高揚した事が無かったからだった。
彼は、興奮を抑え切れそうになかった。
次の瞬間、体勢を立て直した先程の剣士の一人が、上段から斬り突けて来る。
彼は瞬時に抜刀し、剣士の刃を右に避けると、刀の先端で押さえ込んだ。
背中にゾクッと悪寒が走る。
背後に回った槍士が、突きを繰り出していた。体が瞬時に反応する。
槍士の突きを、鞘で軌道を受け流す。
槍の矛先は彼を逸れ、大地に沈んだ。
彼の動きを見て他の騎士達は呆然とし、目前の出来事に驚いてる様だった。
冷静を装い彼は、指揮官に静かに呟く。
「今のは手加減しましたけど場合によっては・・・斬ります」
その言葉に指揮官の目の色が変わったように感じた。
「さすが異界の者。そんな戦い方は今まで見た事も聞いたこともない、我が精鋭をこうも簡単にあしらうとは見事な腕だ、お前達は下がってなさい。私が直接相手をする」
指揮官は、マントを先ほどの剣士に投げつけると、大地に沈んだ槍を抜く。
そして素早く臨戦態勢に入った後、冷めた声で言い放つ。
「その腕前、殺すには惜しいが、湖の騎士ランスロットが貰い受ける!」
彼の体に今まで感じた事の無い緊張感が疾走し、本能が危険を知らせてくる。今まで感じたことの無い高揚感が溢れてくる。
彼は、ランスロットに刀の切っ先を向けると冷静に話しかける。
「本気で殺しに来ないと・・・貴方が死にます」
一瞬で、場の空気が冷たく重く張り詰めた。互いに間合いを取って動かない。どれ程時間が経っただろうか、長くもなく、短くもない、近くで鳥が飛び立つ音がした。
その瞬間、ランスロットが喉元を目掛けて突いてきた、瞬時に刀で槍を左へと受け流す。
刀と槍から凄まじい金属音がこだまする、彼は心の中で呟く。
(なんて重い突きだ! 受け流すのが精一杯だった)
一方ランスロットは、素早く体勢を立て直し、彼に向けて驚きを口にする。
「本気で突いたんだがな・・・まさか防がれるとは。異界から来たと言うのは、虚言でない様だ」
彼の本能は、先程より強く、ランスロットは危険だと警告してくる。
本気で掛からないと死ぬのは自分だと認識を改めると、覚悟を決めた。
「今まで本気で抜いた事ないんですけど、本気で行きます」
彼は刀を鞘に納めた。
「どうした? 臆したか」
「違います。この技でないと貴方には敵いそうにない」
「それは、お褒めに預かり光栄だ。だが剣を鞘に収めた状態で繰り出す剣戟など、聞いたこともないが?」
「そうですね、貴方の言う異界の技ですから」
彼は爽やかに笑う、彼の目にはランスロットも笑っている様に映った。
互い距離を保って間合いを取る、不用意に間合いに入れば、双方どちらかが死ぬと互いに予感していた。
ゆっくりと円を描き螺旋状に間合いを縮める、互いの間合いが重なる瞬間。
ランスロットの渾身の一撃が、彼の心臓に向かって突き出された。
彼は、瞬時に抜刀すると体の位置を右斜めに入れ替え、右斜めに構えを取ると流水の如く体を捻り、ランスロットの突きを紙一重で避けると、ランスロットにめがけ疾走する。
「何だと!!」
ランスロットは驚いた。
一瞬にして己の間合いに入り込まれた事もそうだったが、真に驚くべきはその体捌き。
(こいつは・・・とんでもない拾い物だ)と心中で呟き瞬時に体を反る。
彼は、下段からランスロットの顔面を目掛け切り上げた、切先は兜を掠め空を切る。
互いにすぐさま体勢を立て直し、間合いを取り直す。
「見た事もない剣技を捌くなんて、貴方は化け物ですか?」
「その台詞はそのまま貴殿に還そう、兜をしてなければこちらが傷を負わされていた」
二人の間に静寂が流れる、傍観していた騎士達は信じられないと感嘆の言葉を口にする。
「ランスロット様と、互角に戦う者がいるとは・・・」
突然、深緑の森の中、声が響き渡る。
「気に入った!」
ランスロットはそう言うと先程までの殺気がまるで嘘のように無かった。
彼は表情を変えず、呟いた。
「気に入った・・・?」
ランスロットは持っていた槍を、槍兵に渡すと馬を連れて来るように命じた。
そして彼の目前に立ち、兜を脱いで素顔を曝け出した。
「我が主の城に着いたら、審議に問われるが、身の安全は必ず保障する」
兜を脱いだランスロットは、黒く長い髪、碧い瞳に端整な顔立ちをしていた。
彼は一瞬心を奪われた、だがその姿に違和感を感じた。
口から思わず言葉が漏れる。
「綺麗だ・・・」
ランスロットは笑った。
「貴殿は、男が好きなのか?生憎私にはその気はないぞ?」
「俺もないよ・・・本当にそう感じたから言葉に出てしまっただけだ」
まだ笑っているランスロットを横目に、彼は酷く後悔した。
「貴殿の名を伺いたいのだが? 久々に血肉が踊った相手だ、名を知らぬとあっては騎士の恥だからな」
「綾瀬 九郎・・・」
「アヤセクロウ・・・?」
ランスロットは難しい顔をしている、どうやら言いにくそうだった。
「クロウでいい、異界の言葉は発音しにくいだろうから」
「ではクロウ、我が主の城キャメロット城に誘おう」
騎士が目の前に馬を連れてきて声をかける。
「どうぞ、クロウ様」
「え? 様なんてつけなくていいですよ」
「ランスロット卿が認めた方に敬意を払うのが騎士の務めです。事実、私共は貴方様の技量を見て感嘆してしまいました」
クロウは困りながらも馬に乗り、兵士に向かって言葉かけた。
「ありがとう」
兵士は膝を着き、会釈する、ランスロットはその光景を見てクロウは大物になるかも知れぬと感じていた。
「では、クロウ用意は良いか?」
「馬に乗るのは久々だけど、何時でも出発できる」
「そうか、では皆よ、私に続け! 城に戻るぞ!」
出立の合図と共に馬は走り出した。
クロウはこの時、これから先、己がどうなるのか想像だにしてなかった。
こうして運命の輪は静かに回りだした。




