全てを捨て去る者と迷いの森
疾走する黒い馬―――。
長めの鬣を優雅に泳がせて鬱蒼とした森を駆けている。
その背に、肩まである漆黒の髪をなびかせ、真赤なマントの腰巻を身に着けた青年が乗っている。
馬が、走るたびマントを結び付けている、鎖が金属音を鳴らす。
鎖の先端には、剣をあしらったデザインが施されていた。
青年の瞳は、漆黒の真珠の様に輝いて、鬱蒼とした深緑をその瞳に移しこんでいた。
厳しい顔で、北西に向かい馬を走らせていた。
/
その頃、宰相ケイは騎士が守護する謁見の間に向かい疾走していた。
騎士が、ケイを止めに掛かる。
「ケイ様、アーサー王の許可を取って下さい!」
無言で止めに入った騎士を、剣の柄で叩き伏せる、それを見たもう一人の騎士はケイに向けて剣を抜く。
「お退きなさい! 貴方に用はありません! 邪魔立てするなら容赦しないわ!」
今まで感じた事のないケイの鋭い眼差しに、騎士は動けなかった。
騎士の横を通り抜け、謁見の間の扉を開くとアーサー王の前に立ち怒りをぶつける。
「アーサー王! クロウ様を何処に行かせたのですか!」
アーサー王は、動じずケイに言い放った。
「ケイ、お前には関係のない事だ。何故そこまでしてクロウの心配をする?」
アーサー王の言葉に平伏せず答える。
「クロウ様は、まだこの世界を知らないのですよ! それなのに・・・何を命じたのですか!?」
アーサー王は、ケイの様子を見て笑い出す。
「まさかとは思っていたが、ケイ。君がクロウを好きになるとはな」
十年来の友達のように、向かい話すその姿はケイになつかしさを感じさせた。
アーサー王の、小馬鹿にした態度が感に触ったケイは、反論する。
「何がおかしいの? アーサー!?」
アーサー王は、優しい顔で語りかける。
「何故かって? プライドの高いケイが、クロウを好きになる事が面白いだろう?」
ケイは、たちまち顔から蒸気を発してアーサー王に食ってかかる。
「アーサー! 私が人を好きになるのがそんなにおかしいですか! 私だって恋をします!」
ナルホドと言う顔をしてアーサー王は、ケイにクロウの居場所を教える変わりに条件を出した。
「いいだろうケイ。クロウの居場所を教えてやろう、その代償に円卓の騎士と宰相を剥奪するがそれでもいくか? 」
ケイは、アーサー王を見つめて言い放った。
「結構です、アーサー。私は今から一介の貴族の娘です、居場所を教えて下さい!」
アーサー王は、ケイにクロウの居場所を話した。
「クロウは、単身ヴェルドラッカーに乗り込んだ」
ケイは、その言葉を聞いて激怒した。
「何故、その様な無茶な事を命じたのです!」
「クロウが、自ら成し遂げると言ったからだ! ケイ―――いや、ケレモン。君が信じたように私もクロウを信じているのだよ」
アーサー王の言葉を聞いて、ケイは急いで謁見の間を出ると自室に戻って行った。
去ったケイを、我が子を見るように見つめて玉座を立ち、窓辺に立つと呟いた。
「カイ兄さん、ケイはやっと恋をしたようだよ。まぁ私としては複雑な心境だが。それはさておき、ケイがああなると容易くあしらう事は困難だぞ・・・クロウ」
/
ケイは自室に戻ると、準備に取り掛かる。
ベットの置くから茶色の革鞄を取り出すと素早く自室を出て城の外に向かった。
外に出るなり、兵士長を呼び寄せた。
「兵士長、私の愛馬を連れてきて頂戴!」
兵士長は、自ら厩に行きケイの愛馬を枷を外すと手綱を握って城の入り口まで連れて来た。
「ありがとう。兵士長、それから頑張るのよ」
と、優しく微笑んだ。
兵士長は、驚いて目を丸くしながらケイの言葉に答えた。
「ハッ! すぐに開門します!」
ケイは、愛馬に乗ると右手で手綱を握って語りかける。
「グゥイナム、お願い。急いでクロウ様を追いかけて!」
まるで主のお願いを聞き入れたようにに駆けだすと、開門し始めた門へ躊躇なく突っ込んでいく。
ケイの頭擦れ擦れで、通り抜けると風のように城下に向かい、出て行った。
城下を出たケイは、城門をくぐり街道沿いを走ってヴェルドラッカーを目指していた。
/
一方、クロウは道に迷っていた。
日が暮始めていた。
深緑の葉が、夕日で鮮やかなオレンジ色に変わっていた。
深い森を抜けると、一面広い湖に出た。
傍には一際大きな木が大地に根をしっかりと下ろしていた。
クロウは、そこに黒馬を止めて野宿する事にした。
黒馬は、大きな木の下で四肢をつくとブルルッと唸り地面に生えた草を食べだした。
クロウは、黒馬に背中をつけてもたれ掛かると膝を組んで湖を眺めて呟いた。
「まいったなぁ・・・完全に迷った。アーサー王にヴェルドラッカーまでの道のりを聞きそびれた・・・肝心な所を聞いてないとは俺は馬鹿なんだろうか?」
自問自答しながらも、今晩の夕飯についてクロウは考えていた。
「パスタ、トンカツ、ハンバーグ・・・食べ物ばっかだな。どれもこの世界で食べれるものじゃない」
「黒馬、お前はいいよな。食べ物が落ちてるんだから・・・。黒馬も変だな? 名前決めるか!」
クロウは、頭に浮かんだ名前を咄嗟に言ってみた。
「リオン・・・!」
すると黒馬は、クロウの顔を舐めだした。
「ヤメロッて! 顔がベタつくだろう・・・まぁ気に入ってくれたならそれでいいよ。リオン」
じゃれ合ってると草むらでガサッと音がした。
クロウは、音を殺して立ちがると、刀から小柄を引き抜いて投げつけ放った。
キュっと鳴き声が聞こえたあと、ドサッと倒れこんだ音が聞こえた。
茂みを掻きわけて覗きこんでみると、ウサギが足から血を流して足をバタつかせ倒れていた。
「ごめんな。お前の命は無駄にしないからな・・・」
そう言うと、小柄を拾い手にしてトドメを刺そうとした、が出来なかった。
クロウは、幸い軽症だったウサギを手当てしてリオンの傍に寝かせた。
どうやら、ウサギは食欲はあるようでリオンと一緒に草を食べているようだ。
クロウは、顔を引きつかせながら自らに呟いた。
「致命的だな・・・お前は生きていけない。仕方ない森で何か探してくるか、リオン! ウサギを守ってろ!」
リオンに告げた後、クロウは森に入って行った。
しばらく歩くと、クロウの頭に軽い衝撃を纏わせて何か落ちてきた。
「痛ッ・・・何が落ちてきたんだよ?」
ゴロリッと地面を転がった物。それは林檎だった。
上を見上げると林檎が沢山実っていた。
クロウは、木を登ると三個程、小柄で切り取って木から飛び降りた。
林檎が落ちてきた場所を見上げて、目を凝らすと木の枝に可愛らしい女の子の小人がいた。
「ありがとうな。返せる物がないが・・・そうだ! ちょっとまってろ!」
見られた事が不思議に思った小人は、木に隠れた。
クロウは小柄で林檎を半分に切ると、皮を剥いてウサギ型にした。
それをもって木の上に登り、枝に置いて下りて湖まで戻っていった。
小人は、不思議そうな顔で林檎を見つめるとおいしそうに食べ始めた。
湖まで戻ってきたクロウは、ウサギを見る、どうやら寝ているようだった。
林檎を置いて、周辺で枯れた小枝を集めて火を起こし始めた。
「大分、暗くなってきたな・・・急がないと何も見えなくなる」
小柄と枯れ木をすり合せて、どうにか火を起こすと小枝を投げ入れる。
しばらくすると、火が燃え上がった。
「まぁ、なんとか生きていける範囲だな・・・」
リオンに背中を預けて林檎をかじりながら寝ていると、深い闇が迫ってくる。
やがて、空に月が顔を出した。
クロウは、月をみてヴェルフィーユを思い出した。
「夜になると、いつも現れるヴェルフィーユ。早くこないだろうか」
と、呟いて疲れていたのかそのまま眠りについた。
深夜、夜が深まり、闇が広がった時間帯。
月明かりに照らされて目が覚めると、水面が輝き光っていた―――。




