決断の振り子
数日後、時計の針は九時過ぎを示していた。
クロウの部屋にノックが響き渡る。
ケイが侍女を離れて数日、代わりにリアが世話をしてくれていた。
「クロウ様、いらっしゃいますか? リアです」
クロウは扉に背を向けてベットに横になって返事を返した。
「リア・・・開いてるよ。入ってきていい・・・」
「失礼します」
扉がひらき、入ってくると朝食の乗ったサーバーをテーブルに置いた後、赤いマントと細い金属の鎖を椅子へとかけ、クロウに話しかけた。
「クロウ様、話はケイ様から伺いました、ケイ様から伝言をクロウ様へ承ってます。聞いて下さいますか?」
リアの言葉にクロウは驚いて振りかえり、起き上がるとベットに腰掛けてリアを見ると俯いて呟いた。
「リア、話を聞かせてくれ・・・」
リアは、クロウの目前に立ち跪くとケイの伝言を語りだす。
「クロウ様、ケイ様の言葉をそのままいいますね」
クロウは、うなずいて返事を返した。
「では!ゴホン!
クロウ様、突然の事で驚いたかと思います。軽率だと反省しています、ですが貴方を見てると気持ちが焦ってしまうのです。
いつも冷静沈着だと言われる私が、貴方を見るだけで動揺してしまう。やはり未熟なのだと私は思い知らされました。貴方が握っていたリボンが気になってしまい、貴方にはやはり想い人がいるのも解っていました。ですがその事が返って私を焦らせた。そして貴方に重荷を背負わせた事になってしまったのだと今は後悔しています。クロウ様がどう思われてるのか私には、想像がつきません。これからは、私の事を一介の円卓の騎士として接して頂ければと思います。最後に先日アーサー王から円卓の騎士の証であるマントをクロウ様へと授かりました。クロウ様に許可も得ず勝手に手を加えてありますが、クロウ様にはこれが一番だと思い繕いました。それが私の侍女としての最後の奉公です」
クロウは俯いて、呟く。
「リア、マントを持ってきてくれないか・・・」
リアは立ち上がり椅子にかけたマントを手にとるとクロウに手渡した。
クロウはマントを手にとると立ち上がり広げた。
マントを見てクロウは驚いた。
「これは・・・! ケイ・・・君はやっぱり天才だね・・・」
マントは、身に着ける袴と同じ長さであつらえてあり、丁度右足を覆うように出来ていた。
赤いマントだったソレは、中心に二重の太い円が描かれていて時計のように円に向かい十四本の剣が突き刺している刺繍が施されていて、縁を白い獣の毛で囲っていた。
それこそが、『円卓の騎士の証』だった。
「リア、金属の鎖を持ってきてくれ」
リアは、細い鎖を手にとるとクロウに手渡した。
クロウは、腰巻のようなマントに鎖を通すと腰に巻きつけて金具で固定した。
金属の鎖は先端部分を腰からたらしながら、振り子のように動いていた。
先端は小さな剣を模っていた。
クロウは、刀から小柄を引き抜くと両手で髪を束ねて削いでいく。
その姿をみてリアは声をあげた。
「クロウ様! いきなり何をするんですか!」
クロウは、優しくと笑うと刀の下緒の紐を切り取り、削いだ髪を束ねてリアに渡した。
「リア? これをケイに渡してくれ。君の気持ちは凄く嬉しかった、だけど君の気持ちに答えることはできないと。あとこれは君に送る感謝の証だと言っておいてくれ」
リアは両手で髪の束を受け取ると「わかりました」と言って料理のテーブルに向かい椅子を引くと「クロウ様、朝食にしましょう」と言った。
クロウは、リアに言う。
「リア、朝食は一人で食べれるよ、それよりソレを今すぐケイに渡してくれないか」
リアは、頷いて頭を下げたあと「失礼します」と言って扉から出て行った。
クロウは椅子につくと治りかけた右手でスプーンを手にとり朝食をとり始めた。
食事を一口食べて、独り言を呟いた。
「ケイ、君の想いには答えられないけど、もし俺がヴェルフィーユに出逢わなかったらきっと君を好きになってたと思う。俺はこれからヴェルフィーユと運命を共にする。
俺の国ではねそれは、遺言なんだ。覚悟を決めた者が大事な人に渡す遺髪なんだよ・・・君だけには渡しておこうと思ったんだ・・・ケイ」
朝食を済ませるとクロウは、刀を差し戴冠式の行われる。円卓の間に向かう。
扉に手をかけて振り返る。
(『一年後』俺はここにいるのか?)
と、思いながら扉をあけて出て行った。扉の隙間から見えるクロウの髪は、肩の少し下でその毛先を左右にゆらしていた。
クロウが去って行った後、金髪の侍女がクロウを凝視していた。
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その頃、ケイの自室にてリアがクロウの髪を持ってケイをを訪れていた。
部屋の中は、扉に向かい大きな棚があり、棚には小さな小瓶が沢山あり様々な種類の花が詰められていた。
棚の左には窓がありそこから光が漏れている。
窓から漏れた光は細長いテーブルに光を照らしていた。
テーブルの上には、試験管や実験用のフラスコが置いてあった。
壁には剣が飾られていて、剣の向かいに鉄製のベットが重々しく鎮座している。
棚の右には少し離れた所に暖炉があり薪がくべられて何かがグツグツと音を奏でていた。
ケイはベットに座りクロウの髪の毛を見て、唖然としていた。
「リア、どうしてクロウ様はこれを私に?」
リアはクロウに言われたように説明した。
その言葉を聞いてケイも決断する。
「そう・・・わかったわ。私も気持ちを伝えれてスッキリしたわ・・・でも! あきらめたわけじゃないわ・・・例え気持ちが届かなかったとしても想うのは勝手でしょ!?」
そう言うとケイはリアに向けて柔らかく笑った。
ここ何日か、笑わなかったケイを見たリアは、嬉しそうに笑い返して言葉を伝えた。
「そうですよケイ様! まだ望みはあります! 一緒にこの想いを実らせましょう!」
ケイは、静かにうなずいてベットから立ち上がると、円卓の間に向かう準備をしだした。
壁に掛けてある剣を掴むと腰にぶら下げて、振り向くとリアに話しかけた。
「リア? 貴女も早く想い人の所に行って準備をしなさい。きっと待ってるわよ?」
リアは不思議そうにケイを見つめて、
「待ってるってどういう意味ですか?」
ケイは腕を組み深い溜息をついて、
(この子は本当、気づかないのね・・・パーシヴァルは貴女が好きなのに。まぁこのまま見てるのも面白いわね)
「いいから、早くおいきなさい!」
リアは渋々、扉をあけて出て行った。
クロウの髪を一束手に取ったケイは、テーブルに座るとフラスコの中に入れて火にかけた。
髪は収縮し、あっと言う間に灰になった。
ケイは厚い布を手にとって灰になった髪をフラスコから取り出すと、暖炉にかけてあった溶けた鉄と混ぜて、聖母マリアを模った薄い型枠へと流し込んだ。
冷えて固まるまでに型枠に小枝を埋め込む。
真赤に煮えたぎった鉄は瞬間的に固まる。
素早い作業で革で、磨きをかけて艶を出させると小枝を引き抜き、穴に鎖を通して首にかけ固定した。
出来上がったのペンダントからは、ほんのり温もりが感じられる。
ケイは残ったクロウの髪を、大切に抱えて大瓶に入れて棚に飾った。
棚に飾ってある大瓶を見上げてから、残念そうに微笑むと自室から出て円卓の間に向かった。
聖母マリアのペンダントは、ケイの胸元で振り子のように揺れていた。




