九頭の蛇
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この物語はフィクションであり、作者自身、初めて書く作品ですので読んで下さる皆さんの意見をお聞かせ下さい。厳しい指摘も歓迎しております。
白い外套が風に漂い、舞台に舞い落ちる。
姿を現した人物は、腰まである金髪に濃い碧眼、兜などはなく、腰までの銀の甲冑を身に着けていた。
長い金髪が風になびく、凛々しい青年だった。
隻腕と言う以外は―――
舞台を取り巻く民衆から歓喜の声が響き渡る。
「ベディヴィエール様!」
「銀槍のベディヴィエール!」
「ベディヴィエール様! 頑張って!」
口々に民衆は、ベディヴィエールを讃える。
クロウの耳には民衆の声は聞こえてなかった。
目の前にいる人物、それが隻腕の騎士だと言う事実に驚き、同時に不気味で仕方なかった。
こんな大舞台に隻腕、しかも円卓に名を連ねる人物だ。
余程の技量でなければ片腕で槍を自由に扱えるはずがない。
こういう場合、大抵は片腕でふざけるなと憤慨する事もあるだろう。
だが、クロウは違った。
抜刀すると素早く身構えた。
ベディヴィエールは槍を左手で円を描き振り回すと、態勢を取りクロウに声を掛ける。
「なるほど、実力を見抜く力は持ち合わせているみたいですね。憤慨するかと思ったのですが」
「生憎、俺の目は節穴じゃない。貴方が只者じゃない事は肌で実感してる」
クロウは、額から冷や汗を流していた。
「自己紹介はまぁ、後で構わないでしょう? 此処で死ぬようなら必要ない事だからね」
そう呟き、爽やかに笑うとベディヴィエールは槍をクロウに向け胸を突いてきた。
瞬時に後ろに飛び避けると、距離を保つ。
「好い反応だ。しっかり槍を目で捕らえてる」
ベディヴィエールの言葉にクロウは答えない、なぜなら槍使い相手には三倍の技量がないとまともに戦えないからだった。
クロウはどう攻めるか、悩んでいた。
これ程の手錬に対して自分の剣技が通用するのか?自信がなかったからだった。
(まずいな・・・強敵だ! 簡単には倒されてくれないだろうな。どう攻める・・・)
クロウが思案しているとベディヴィエールは疾走し槍でクロウを薙ぎ払う。
刀で槍を弾くと、八相に構えベディヴィエールへ向かい突進していく。
間合いに入り込んだクロウは、八相から切り上げようとした瞬間、嫌な予感がして後方に飛び後退する。
目前を銀の蛇の様な影が降ってきた。
先程までクロウがいた場所に目をやると銀の槍が深々と突き刺さっていた。
「今のは何だ・・・!?」
ベディヴィエールは槍を引き抜くと口角をあげニヤリと笑う。
「簡単な事さ。弾かれた槍を遠心力に任せて背中に隠し剣を振る要領で左手が頭上に到達した時点で、石突を逆さに持ち替え君に目掛けて突いただけさ」
クロウは、ベディヴィエールの左腕に目をやると、体に似つかわしくない腕をしていた。
「なるほど。理に敵ってる訳だ、しかし簡単に言ってくれる」
今のは腕力だけでは到達できない領域だ。
しなやかで体の軸がしっかり出来てないと繰り出せない。
しかも、隻腕でやってのけるなんてどう言う大幹をしてるんだ!
民衆は目の前の攻防に皆呆然としていた。
顔から笑みを失くすと、ベディヴィエールはクロウに言い放った。
「君が、今のを避けるとは予想してなかったよ! これからは本気で君を仕留めに掛からせてもらう!」
クロウの表情は歪む。
今まで本気じゃなかったのか! 爺さんに言われたとおり槍での実践も想定して置けばよかった・・・
ベディヴィエールは突進すると槍を連続で突いてくる、余りの速さに一突きに見えた。
クロウは必死で刀で捌く、七突きまでは捌ききったが、残りの二突きは捌ききれなかった。
八突き目は頬に掠り、頬から血が伝い流れ落ちる。
九突き目はリボンを掠め、リボンは切り裂かれひらひらと石床に落ちる。
リボンで束ねていた、髪が風に舞い扇子のように広がる。
クロウは、頬から伝う血を左手拭うと、瞳に怒りが込み上げる。
ヴェルフィーユから貰ったリボンを切り裂きやがって!
「運よくかわしたね? 次で仕舞いにしよう」
「ああ、いい加減アンタの顔にも見飽きたこれで最後にする・・・」
クロウの言葉にベディヴィエールは冷徹な顔で答える。
「君は円卓に名を連ねるべき人材じゃないよ」
「何とでも言え。その蛇みたいな槍捌きも次で終わりだ・・・」
クロウは下げ緒を素早く解くと鞘を左手で握りしめる。
ベディヴィエールは、素早く突進すると先程の業を繰り出した。
七突き目まで刀と鞘で駆使して打ち払い、八突き目を大きく弾いた。
ベディヴィエールは一瞬笑い、弾かれた槍を頭上からクロウに向け振り下ろした。
金属音が鳴り響く。
「ベディヴィエール。貴方が先程と違うやり方で仕留めに掛かるのは、解っていた。だから、俺も代償を払った」
クロウの右手から血が滴り落ち、石床に小さな血の水溜りができていた。
槍の矛先は刀の柄頭で押さえつけられていた。
クロウは八突き目を鞘で払った瞬間、右手の刀を反転させ鎺を握りしめて受け止めていた。
ベディヴィエールは言う。
「私の真似をしたばかりか、私を誘導したか! だがまだ終わってない!」
ケイが割ってはいる。
「そこまでです。この勝負もう終わってます、ベディヴィエール卿」
ベディヴィエールは興奮しケイを睨みつけると問いただす。
「何処が終わってる!? 相打ちじゃないか!」
ケイは呆れた顔をし、それに気づかないんですか? と目線をベディヴィエールの左側面に向ける。
ベディヴィエールはゆっくりと右を向くとそこには鉄製の鞘が顔に当たる手前で止められていた。
鞘を見たベディヴィエールは静かに笑い、クックックと声を漏らした。
槍を石床に突き刺すと、左手で頭をかかえた。
「参った、降参です。他の卿が認めるのもわかる」
クロウは鞘を下ろすと刀を静かに納める。
「ベディヴィエール卿、代償を払わないと貴方に勝てないと思いました。貴方が隻腕でなければ間違いなく私が負けてたでしょう」
クロウの言葉にベディヴィエールは驚く。
「隻腕であろうとなかろうと君には勝てないよ。その技量と判断力にはね。その上、敗者である相手を持上げるとは、僕も認めるよ君を」
ベディヴィエールはそう言うとクロウの左手を取り高々掲げて宣言する。
「僕は、この者に負けた。この者が円卓に連なる事を僕は認める!」
ベディヴィエールが宣言した瞬間、民衆から割れんばかりの喝采が沸きあがる。
民衆は口々に言葉を口にする。
「やっぱクロウ様が勝つと俺は踏んでたね。ランスロット様とガウェイン様が認めた相手だぜ!」
「私、失神しそう。クロウ様素敵すぎるわ・・・」
「でも、次がどうなるかはわかんないだろう? 次勝てないと円卓に迎え入れられる事はないんだぞ?」
民衆の喝采の中、ベディヴィエールはクロウに名前を尋ねる。
「君の名前を教えてくれないだろうか?」
クロウは膝を付きベディヴィエールに名を明かす。
「クロウと言います。ベディヴィエール卿」
「クロウ、起ち給え。君は強者であり僕が敗者だ、跪くのは僕の方だよ」
ベディヴィエールの言葉にクロウは立ち上がる。
今度はベディヴィエールが跪き、名を告げる。
「クロウ様、ベディヴィエールと申します。以後お見知りおき下さい」
ベディヴィエールは立ち上がると元居た場所へ颯爽と戻っていった。
階段を降りるベディヴィエールに、民衆から割れんばかりの拍手が送られる。
ベディヴィエールは白い外套を纏った相手とすれ違い様に話しかける。
「右手は、殺しておいた。君なら勝てるんじゃないかい? まぁ相手が万全であれ君に敵うとは思えないけどね。だけど僕はクロウ様を応援するよ」
ベディヴィエールの囁きに、白い外套の主は一瞬、表情を歪めたようにだった。
ケイはクロウに駆け寄ると手を掴み血で染まった右手の傷をみる。
「クロウ様、すぐ手当てをしないと・・・」
「大丈夫だよ、そこまで深くないから」
「でも!」
「ケイ。次で最後だからこのまま戦わせてくれないか! この程度で弱音を吐くようじゃ奴には敵わない!」
ケイは心配した顔でクロウを見据えると戦いの続行を決める。
「次の審査を行います。次の者前へ!」
白い外套を纏った最後の相手は舞台に静かに登るとクロウを見つめた。




