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雷光の矢に貫かれし者

感想、指摘など、気軽にご意見頂ければありがたいです。

この物語はフィクションであり、作者自身、初めて書く作品ですので読んで下さる皆さんの意見をお聞かせ下さい。厳しい指摘も歓迎しております。

 『本能寺の変』から四百とニ十年の時が過ぎた―――現代。

  

 居合大会に出場する為、彼は京都に居た。


 三日に亘る競技を無事に終了し、彼の優勝で大会の幕は閉じた。

 百年に一人の天才と周囲から囁かれる彼だが、そこに彼の感慨はない。

 公式、非公式であっても、彼には関係のない無縁の話だった。


 彼は、もうこんな処に用はないと言った感じで着替えると、会場を急ぎ後にする。

 会場から一歩外へ出ると、紅葉やつつじ等が大地に根づいて、その葉をキイロやアカに染め上げている。

 一般的にそんな移り行く季節の感動を目の当りにしたのなら、きっと多数の人がアカとキイロで織り成す光景に心をとらわれただろう。

 だが、ある時から彼の世界は一変した。

 今の彼の現実は、虚像の様な世界だった。

 感動などと言う感情は彼の心には飛来しない。 

 そう。

 ガランドウの世界。

   

 彼は俯き一瞬だけ足を止めた。

 


 「その天才がこの様か…」

 

 静かに呟いて、宿泊しているホテルへと静かに歩み出した。

 薄暗くなった空、ビルと言う森に囲まれた街をひたすら歩く。

 雑踏の中、淡々と歩みを進める。

 時折すれ違う人は、恋人達か、友人同士だろうか。

 目抜き通りを楽しそうに歩く人達の姿は、彼には別世界の人間に見える。

 突然、薄暗くなった空から雷鳴が鳴り雨が降り出す。

 先程まで楽しそうに歩いていた、彼等も急ぎ飲食店や閉店した店の軒先のきしたに避難する。

 しかし、彼だけは違った。

 雷鳴や雨など、気にも止めず淡々とホテルへの道を突き進む。


 「あの日も雨が降っていた…」


 立ち止まり、空ろな瞳で空を見上げる。

 一瞬、ぼうとした後、静かに正面に向き直しホテルまでの道を再び踏み出す。

 周囲の人達は彼を、奇異な眼差しで見ていた。

 人の目など気に留めず、彼は歩いた。

 やがてビルと言う大木が群生する、目抜き通りで一番大きな交差点に差しかかる。

 彼は渡ろうとしたが、歩行者信号は赤になり歩みを止めざる得ない。

 向いに信号待ちをしている人が大勢いた。

 当然、傘を差してない彼は、滝に打たれたかの様にびしょ濡れだった。

 雨で学生服は水気を帯び、紺色のマフラーが肌に張り付いている。

 少し長めの漆黒の髪からは、水滴が髪を伝いアスファルトへと吸い込まれていく。

 そんな彼の姿を見てか、一人の若い通りすがりの女性が後ろから話し掛けて来た。


 「ねぇ君、傘くらい差さないと風邪を引くわ」


 優しそうな声に彼は振り返った。


 「構いません。雨に打たれたい気分なんです。そんな気分の時も、貴女にもあるでしょう?」

 女性へ言葉を返すと、悲しげに笑う。


 彼は分かっていた、きっと本当に心配してくれてるのだと。

 だからこそ遭えて疑問で投げ返したのだ。

 普通なら相手も好い気はしなかっただろう。

 だが、振り返った彼を見た瞬間、若い通りすがりの女性は思わず見惚れてしまった。

 切れ長で二重の瞳、スッと通った鼻筋、少し厚めのやらかそうな下唇をした端整な顔をした青年に。

 若い通りすがりの女性が見惚れてぼうとしてる間に、信号は青に変わっていた。

 突然、雷鳴が轟いて若い通りすがりの女性は、我に返ると俯き加減に小声で呟いた。


 「そうね・・・そんな日もあるわね」


 頬を薄いピンクに染めて、足早に横断歩道を走り去っていった。

 降り頻る雨の中、何事もなかった様に横断歩道を彼は歩きした。

 横断歩道の中央部分に差し掛かった頃、信号は青から赤へ変わりだしていた。

 

 点滅する信号と共に雷鳴が響く、まるで共鳴するかの様に。

 

 何かのスクランブルの様に。

 

 誰かを待っていた様に……雷鳴は咆哮をあげた。

 

 暗雲を切り裂き、閃光が槍のようにビルと言う大木を避け、狙いを定めると迷う事なく獲物を捕らえる。


 空から落ちた蒼き落雷は、彼の姿を閃光の彼方に一瞬にして覆い隠した。

 眩い程の閃光に人々は一瞬にして、視界を奪われた。


 人々が視界を取り戻す頃、雨は止んでいた。

 周囲は騒然とし、混乱している。

 丁度真向かいの店の軒下から見ていた、中年のサラリーマンが声を荒げた。


 「おい! 人が落雷に撃たれたぞ! 俺は救護に行くから誰か救急車と警察を呼んどいてくれ!」


 男性が、急いで店を出ると落雷が落ちた場所へ駆け寄る、アスファルトが焼け焦げる匂いと煙で辺りはよく見えなかった。

 急ぎスーツのポケットからハンカチを取り出すと口の周り覆う。

 男性は、どうにか落雷の落下した場所へとたどり着いた。

 アスファルトは熱を帯び、靴を履いている状態でも熱を感じる事ができた。

 落雷の落ちた現場は、半径一メートル程の穴が顔を覗かせた、穴を縁どるように煙が立ち昇っていた。


 現場を目にした男性は驚き、その場に呆然と立ち尽くし叫んだ。


 「確かに落雷が人に落ちたはずだ! 何で誰も居ないんだよ!!」


 程なくして救急車、警察が到着すると周辺は警察の手により立ち入り禁止のテープが貼られ、落雷の周囲をかこみ、興味本位で見物に来る人々を遠ざける。

 それでも辺りは、騒然として野次馬が絶えなかった。

 その場で、警察により現場検証と目撃者の事情聴取も行われた。

 目撃証言も多数あり、警察も手を焼いているのが現状だった。

 この落雷の事故は、各種マスメディアに取り上げられ、翌日の朝TOPニュースとして流される事となった。

 

 警察の記者会見では、少年らしき人物が、落雷に打たれた事は目撃証言からも紛れも無い事実であると言う見解であり、激しい落雷により、全てが蒸発したと報道された。




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