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封印聖女×刀ヲ継しモノ  作者: 檜高 黎
三章 円卓に集う者
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残酷な真実

感想、指摘など、気軽にご意見頂ければありがたいです。

この物語はフィクションであり、作者自身、初めて書く作品ですので読んで下さる皆さんの意見をお聞かせ下さい。厳しい指摘も歓迎しております。

 淡い蝋燭の灯りが部屋中をぼんやりと照らし出す。

 薄暗い、部屋の中をこちらに向かって歩き出す人物が徐々に姿を明確にしていく。

 漆黒の髪は光に照らされて艶めいていた、瞳は真珠の様な光沢を漂わせる。

 やがてゆっくりと姿を現した人物にクロウは全身の力が抜けていく。

 真紅のドレスを身に纏う人物に幼い頃の記憶が蘇る。

 そして侍女の姿を見て驚愕の顔をし表情を歪める。


 刀を持つ手は力を失い、手元からするりと抜け落ちる、ガシャンと絶望の音を立て床へと転がった。

 真紅のドレスを身に纏う人物は、優しそうな顔で近づいてくる。

 クロウは突然の光景に戸惑う。

  

 「嘘だ・・・母さんの筈が無い・・・」

  

 侍女は優しく笑うと、クロウに話かけた。


 「貴女は誰? 私を知っているの? でもそんな事どうでもいい事よ、私は主の命に従い貴女を殺し、アーサー王を殺すだけ」

 

 昔のままの優しい母さんの口から冷めた言葉が響き渡りこだまする。

 悪夢を見ている様だった、何故母さんが此処にいるのか?クロウは理解できなかった。

 ただ理解できるのは自分の母親が目の前に存在していると言う明白な事実だった。

  

 「母さんの姿で、母さんの声で、殺すなんて言うな! お前は誰だ!」

 

 「母さん? 貴女は私の娘なの? 例え貴女が娘だとしてもなんの感情も沸かないわ」

 

 侍女は疾走すると、壁に掛けてある剣を舞うように飛び掴み取る。

 静かに鞘から剣を引き抜きクロウへと向けると素早く駆け抜け、クロウに向けい剣を振りかざす。

 

 クロウは一瞬で転がった刀を反転し掴み取りと、瞬時に抜刀し剣を受け止める。

 刹那、侍女は刀身沿って剣を滑らせる、剣は鍔に突き当たり停止した。

 即座にクロウの胸に向かい突きを放つ。

 クロウは咄嗟に判断し、左足を軸に体を反転させ素早く避ける。

 侍女は追い撃ち掛け真横に剣を薙いだ、クロウは必死に刀身で剣を押さえつける。


 侍女の剣技を視る限り、予感は確信に変わっていく。


 「本当に・・・母さんなのか!?」


 侍女は答えない。唯優しい笑みを浮かべ、口元を歪ませていた。

 その姿は、最早人間らしい感情など持ち合わせてなかった。

 押さえつけていた剣が徐々に浮き上がる。

 浮き上がる刀を見てクロウは呟く。


 「どういう理屈だ! 女の力じゃない!」


 「死になさい! 九郎!」

 

 侍女の言葉にクロウは瞳孔が開き驚く、何故俺名前を知ってるんだ?

 この人は記憶が無い筈なのに何故、今俺の名前を口にした・・・?

 クロウは剣が刀身を浮かせる力を利用し、剣を中心に刀を滑らせ掻い潜ると侍女右側面から斬りつける。

 侍女は瞬時に避けると跳躍し、間合いを取る、足元にある小柄を足で救い上げ手に取ると、クロウの貌に打ち放つ。

 飛来する小柄を一瞬でに薙ぎ払うと、真紅の侍女へと疾走し跳躍すると刀を上段から振り下ろす。

 侍女へ打つ下ろされた刀は軌道変え片手平手突きとなり真紅の侍女の右肩を貫いた。

 侍女は右肩から血を流し右膝を床につく。

 利き腕を殺された侍女は腕から流れ落ちる鮮血と共に手から剣が滑り落ちる。

 跪いた侍女にクロウは疑問を投げかける。


 「母さん・・・本当は記憶が戻ってるんじゃないか?」


 「私は貴女を知らない・・・でも懐かしい様な気がする」


 その貌には人間らしい表情が戻っていた。


 「貴女の剣戟を受けるたび、頭の中で声がする・・・九郎は大切な宝物だと声が響くの・・・」


 クロウは刀を床に突き刺すと侍女へと歩み寄る。

 不安定な母さんに近づくと言う事は、最悪の場合自分は殺されるだろうと覚悟を決め母さんの肩を抱いた。


 「母さん、覚えてる? 俺がよく母さんの言いつけを守らなくて、コタツの中で頻繁に寝てたの」

 クロウの言葉に侍女は頭を抱え苦しみだす。


 「母さん! 負けないでくれ! 奴の魔法に! 母さんは強いじゃないか! 俺の為を思い、死に行く時でも声を決して挙げる事をしなかったじゃないか!」


 クロウの瞳から涙が溢れ出す。

 涙はクロウの頬から顎を伝い、侍女の頬をポタポタ濡らす。

 少しずつ頬を伝う涙により記憶が蘇る、侍女は静かに記憶を取り戻した。


 「九郎・・・本当に大きくなったわね? 仮初の体であっても、もう一度大切な宝物を見ることができるなんて夢にも想ってなかった・・・」

 

 「仮初の体?」 


 「九郎、この肉体は罪のない若い子の血肉から形成されてるの・・・骨は母さん自身の物だけど・・・

沢山の命を使い私を蘇らせた人物は、故意に貴方と戦わせたのよ・・・」


 クロウの顔は憎しみの感情で覆われる。


 「駄目よ、クロウ憎しみで振るう刀は決して何も成し得ない、身を滅ぼすだけよ・・・」


 母さんにたしなめられてクロウは気づく。

 そうか。そう言うことか・・・奴は俺と母さんを戦わせる為に骨壷の中身を入れ替えたのか・・・

 母さんは悲しそうな顔でクロウから離れ立ち上がると、剣を鞘に収め居合抜きの構えを取る。

 黙ってクロウも床から刀を引き抜くと刀を納刀する。

 

 ああ、知っていた。

 母さんはこのまま生を選ぶなんて図図しい考えなんて抱かない人だって事を。

 自分の命を復活させる為、多くの犠牲を払った体で生き永らえるなんて考えない人なんだと解っていた。

 母さんの想いに応えクロウは静かに覚悟を決めると静かに抜刀状態に入った。


 「母さん、この一撃で決着を着けよう。苦しむ母さんの姿をもう見たくないから、これで最後にするよ。本当はもっと話したかった、もっと甘えたかった! 母さん最後に会えて嬉しかった。さようなら母さん・・・」

  

 両者の間合いが円を描きながら縮まっていき、重なり合う瞬間互いに刃を繰り出す。

 引き抜いた刃は交差しぶつかり合い、拮抗する。

 その刹那、クロウは刀に向かって鉄拵えの鞘を寸分違わぬ誤差で刀に叩きつけた、拮抗していた刃は鞘が刀を押し出し、母さんの剣を切り裂き胴体を上下に切り離した。

 引き裂かれ床に倒れ込んだ母さんを眼にした瞬間、クロウその場に立ち竦む。

  

 「九郎・・・本当に強くなったわね・・・母さんねこれでも全国大会に優勝した事があるのよ」


 クロウは駆け寄り母さんを抱きかかえる。母さんは安らかな貌で九郎の頬を優しく撫でると静かに話し出す。

 「九郎は母さん似ね・・・その黒袴も着物も私が使ってた物よ。お父様が九郎に託したのね・・・きっと私が居なくなって寂しかったのかしらね。私の面影を九郎に重ねてたのかも知れないわ・・・本当、母さんは親不孝者ね・・・」


 クロウは黙って母さんの話を聞いていた。

 母さんは瞳を閉じて、小さな声で話すと、


 「このまま静かに九郎の胸の中で眠らせて欲しいの・・・それだけで十分幸せなのよ。残念な気持ちはあるけれど愛する息子に抱かれて死ぬのは幸せな事だわ」


 母さんは口から血を吐きながら話し続ける。


 「母さんはもうじき死んでしまうけれど、この悲しみを乗り越えてもっと強くおなりなさい・・・そして大切な人を守り抜きなさい! それが・・・綾瀬家に生まれた者の使命でしょう? だから・・・決してもう自分を恨んでは駄目よ? 九郎は優しいからきっと自分を責めるでしょうけど・・・憎しみからは何も生まれないの・・・わかったわね? 九郎。これが本当に最後になるからちゃんと伝えておくわ、母さんは貴方を愛してる。次に生まれ変わっても母さんの子供として生まれてきてね・・・」


 母さんの手は力なく床に落ちると静かに息を引き取った。

 突然黒い霧が現れると母さんを包み込み込むと吸い込まれていく。

 クロウは焦る、もう二度と奴に、母さんを利用させたくないからだ。

 

 「ヴェルフィーユ! 母さんの魂を救ってくれ! お願いだから!」


 クロウは初めてヴェルフィーユに見せた事の無い貌で懇願する。

 ヴェルフィーユは姿を現すと、涙を流しながら頷く。

 魔方陣を展開したヴェルフィーユは、クロウに雪子を円の中心に寝かせる様に指示を出す。

 準備が整うとヴェルフィーユは静かに言葉を紡ぎだした。

 

 「聖ジョージと月の天使ガブリエルの名において盟約する! 囚われしこの者の魂を天界へと誘いたまえ!」

 

 言葉を紡ぎ終えるとヴェルフィーユは右手を頭上に掲げた。

 ヴェルフィーユ手から水が溢れ出す。

 水を雪子の全身にかけると引き裂かれた体が再び繋がり再生した。

 ヴェルフィーユは最後に呪文を唱える。

 

 「呪われし体と魂に永久の安息を与え給え 『リカバリー』」

 

 眩ゆい光に部屋全体が覆われる。

 母さんを包み込んでいた黒い霧は、光によって消し飛ばされた。

 光の中に女性の様なシルエットが浮かびあがると、母さんを抱きかかえ閃光の彼方へ姿を消して行ったのをクロウは見たような気がした。

 眩い光が静まり視界が戻る頃、母さんの姿は何処に存在しなかった。

 ヴェルフィーユは、安堵した瞳でクロウを見やる。


 「クロウ、安心してこれでもうユキコの魂は天界に昇って往ったわ」


 「今のは一体・・・」


 「天界において高位に座する熾天使してんしガブリエル様よ」

 

 膝を付き顔を伏せているクロウにヴェルフィーユは背後から抱きつくと優しく包み込む。


 「クロウ、今は思いっきり泣いていいの・・・悲しい時は思いっきり泣きなさい」


 「ヴェルフィーユ・・・」


 クロウはヴェルフィーユの言葉に押し殺した感情を露にすると、号泣した。

 泣きつかれ深い眠りに誘われる。


 クロウと雪子の決闘を見届けたアーサー王は、ヴェルフィーユに向かい跪く。


 「聖女ヴェルフィーユ、貴女もどうかお休み下さい。クロウは手厚く持成します故」


 ヴェルフィーユはアーサー王に向かい、言ってのける。


 「クロウと一緒じゃないと嫌よ!」


 アーサー王は困った顔をして聖女に申し上げる。


 「仰せのままに致します」


 クロウを抱きかかえるとアーサー王は王宮の一室に向かった。

 

/


 目覚めると、クロウはふかふかのベットの上に寝ていた。

 周囲を見渡すと、高級木材で出来たテーブルに、光沢を放つ木造の椅子に、部屋の隅には本棚があり本がお互いを押し合うように詰められていた。

 ベッドのから少し離れた位置に暖炉があり、炎がパチパチと音を立て燈っていた。


 不意に甘い香りが鼻孔を擽る、金色に輝く髪がクロウの貌に纏わり付いていた。金糸の主はすやすやと寝息を立てクロウの横に寝ていた、その姿は可愛らく、天使の様な雰囲気を醸し出していた。

 ヴェルフィーユをみて呟く。


 「ヴェルフィーユ、母さんの魂を救ってくれてありがとう」


 クロウは寝ているヴェルフィーユに視線を投げかける。

 君は一体何者なんだ? 人智を超えた奇跡を体現し、天使を使役する不思議な女の子。

 人なのか天使なのか、そんな問いを投げかけていた。

 この世界に召喚されるまで天使や悪魔なんて信じてなかったけどヴェルフィーユの姿を見て信じてしまう自分がいる事に気が付いた。

 そんな自分に若干の違和感を感じつつクロウは横になると再び眠りについた。


 クロウが寝息を立て始めた後、金糸の髪をベットに豪快にばら撒き寝ている少女はそっと瞳をひらく。

 体を起こし左右、色の違う瞳でクロウに視線を注ぐ。


 「クロウ、今日は辛い試練だったね、きっと貴方はこれからもっと辛い思いをしもっと強くなる。そしていつか戦う事になる、その時は私を殺してね・・・クロウ」


 悲しい顔をして少女は蛍の光に似た形に姿を変えると窓の外へと舞い上がって行った。

 

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