深遠の騎士と緑の騎士の呪い
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この物語はフィクションであり、作者自身、初めて書く作品ですので読んで下さる皆さんの意見をお聞かせ下さい。厳しい指摘も歓迎しております。
気が付けばクロウは、真赤な絨毯で敷き詰められた、聖堂の中にうつ伏せで倒れ込んでいた。
周囲を見渡してみると、色取り取りのステンドグラスに、一二本の支柱、両側には銀で出来た甲冑が剣を胸に抱き、支柱に沿って起っている豪奢な聖堂だった。聖堂の奥には玉座があり黒い甲冑が剣を胸に抱き鎮座していた。
玉座の後ろには十字架が吊るされていた、人の形をした白くて、床にまで届きそうな位の金糸が十字架から零れ落ちていた。四肢は鎖で固定されていた。
「!!!」
クロウは驚いた、磔られた人物に見覚えがあったからだった。
「ヴェルフィーユ!」
急いで十字架に駆け寄る、玉座の前を通り過ぎようとした時、黒い甲冑は動き出し、剣をクロウに向けて横一文字に斬りつけた。
不意を付かれたクロウは、首を反らし交わすが剣は頬を翳め、血が溢れ出す。
すぐに間合いを取り、臨戦態勢に入る。
「何者だ!答えろ!」
クロウの問いかけを無視し、黒騎士は剣を振り上げると襲い掛かる。
「聞き耳持たずか・・・」
振り上げられた剣は異常な速度でクロウに目掛け振り掛かる。
驚くスピードで振り下ろされた剣を避けきれないと判断したクロウは、強引に間合いに詰め寄り両手で黒騎士の柄を力一杯握り締める。
剣はクロウの頭を翳め、頭から生暖かい鮮血の雫が伝わり落ちる。
「くそっ! なんて莫迦力だっ! ガウェイン並みか、おまけに剣撃はランスロットに近い速さか」
黒騎士はさらに力を増し、クロウは片膝を付くほどだった、このまま行けば完全に押し切られてしまうのは明白だった。
「どうする・・・どうしたらいい・・考えろ」
すでにクロウの腕は限界だった、もう駄目だと観念した時、ヴェルフィーユの声が聞こえた。
「クロウ、その黒騎士を殺しなさい。それは貴方自身の力の源なの! そいつを殺さないと此処から出られないの!」
その言葉にクロウは、我に返り瞬時に黒騎士に向かい腹部に足を掛けるとそのまま後方に投げつける。
勢いよく黒騎士はクロウの頭上を弧を描くように転がった。
その隙をつき、銀の甲冑が抱え込んでいる剣を手に取ると、黒騎士を迎え撃つ。
起き上がった黒騎士は疾走すると瞬時にクロウの間合いに入り込んだ。
「まずい!・・・こいつは俺より数段強い!」
意表を付かれたクロウに向かい、黒騎士の剣は下段から天に向かいクロウの左腕を根元から斬り落した。
クロウの左腕から夥しい血が噴出する、苦悶の表情を浮かべ片膝を付いた。
「そうだ、平伏しろ・・・貴様にはその姿がお似合いだ・・・」
初めて口を開いた黒騎士の声に驚きを隠せない。
「お前は・・・まさか・・・・・・俺なのか」
「そうだ、俺はお前だった・・・だがお前に俺が取って代わる」
「お前は何もできない、だから俺がお前の代わりにこの世を統べる!」
「あの時の黒い闇か・・・」
互いに言葉を交わしえると、黒騎士はクロウに向かい止めを刺そうと頭上へと剣を振り下ろした。
クロウは覚悟を決めると、片手で剣を受け止め力一杯防ぐ、しかし片手ではどうにもならない事はクロウにもわかっていた。瞬時に力を抜くと黒騎士の剣の沿って柄頭を、黒騎士の顔面に叩きつける。
意表をつかれた黒騎士は、若干揺らいだ瞬間をクロウは見逃さなかった。
瞬時に左足を下げ捻ると右足で渾身の蹴りで胴体を打ち抜く。
そのまま黒騎士は勢いよく吹き飛んでいった。
「クロウ! 今がチャンスよ! 早く止めを刺しなさい!」
クロウは持っている剣をヴェルフィーユの心臓に向けて投げ放った。
投げた剣は深々とヴェルフィーユの心臓に突き刺さる。心臓から溢れ出た血は剣伝い床を真赤に染上げる。
「クロウ、どうして・・・」
「俺は、お前に用はないよ、俺が大事なのはヴェルフィーユだけだ!」
クロウはもう迷いが無かった。山水の様に澄み切った透明な瞳をしていた。
黒騎士はむくりと起きあがると、疾風の速さで、剣を水平に構えクロウを向かって突き刺した。
貫かれたクロウは、平然として黒騎士を抱きしめる。
「お前は、小さな俺だったんだ、今の俺ならきっと助ける事ができる。お前もヴェルフィーユも・・・だから安心して俺の中に戻れ・・・」
優しく語り掛けると、黒騎士は泣きじゃくる子供の姿に変わりそのまま体に吸い込まれていった。
十字架に磔られたヴェルフィーユは怒りを露にする
「どうして、解った!?」
「ヴェルフィーユは間違っても殺せなんて言葉は口にしないからだ!」
「たったそれだけの事で剣を差し向けたか?」
「ああ、アンタが何者かも大体想像出来てる」
ヴェルフィーユを模った人物は鎖を引き千切ると、悠々と降り立つ。こちらに向かいながら、徐々に緑の騎士へと姿を変えた。クロウは背中越しに緑の騎士と対峙する
「さすがと言うべきかな・・・あの方が目を付けるのも頷ける」
「あの方って言うのは黒いフードを被った奴の事だろ?」
「さてな・・・それはお前の知る事ではない」
「まぁいい、アンタが知っていようといまいと自分で探し出すさ。一つアンタに予言をしておこうか。アンタは絶対俺には勝てないし此処で滅ぶって事だけは確かだ」
そう言い放ったクロウは振り返ると緑の騎士を睨みつける。
「片腕で戯言を言ってくれる」
「アンタ如き片腕で十分なんだよ」
緑の騎士は怒りクロウに襲い掛かった。
次の瞬間、クロウは脱兎の如く逃げ出した。
「ふん、大口を叩く割には逃げるのか。臆病者め!」
クロウは走りながら考える。全身鎧だと日本刀でもなければ一撃では無理だ。
剣は甲冑が抱えてる物を使うとしても・・・そうだアレならいけるかも?
但し失敗すれば命は無いだろうな。その為には偽装が必要だ。そう考えたクロウは走りながら、銀の甲冑から剣を五本程拝借する事に決めた。
一本、二本、三本、四本、五本と逃げながら巧に剣を無造作かつ正確に円を描き、床に投げ突き刺していく。
クロウは剣の中央に立ち、緑の騎士を挑発する。
「準備はできたぜ、遠慮なく掛かって来いよ!」
緑の騎士は笑いながらゆっくりと歩みをこちらに進めてくる。
「ふん! どんな事かと思えば剣の数で勝とうなど片腹痛い」
「やってみないとわかんないだろ! ああこう言う時は騎士風に言うなら『臆したか?!』か」
緑の騎士は愚弄され、憤慨し剣を振り上げるとクロウに襲い掛かる。
まずは一本剣を引き抜くと、緑の騎士の剣を受け止める。次に瞬間剣は弾かれクロウの手から吹き飛んで言った。緑の騎士の剣はクロウの左腕があった場所を翳めてゆく。
瞬時に右足で二本目をすくいあげ手に取ると緑の騎士の胴を打ち抜く。しかし鎧に傷を付けるのが精一杯だった。最初から解ってたが切れ味が無さ過ぎなんだよ、西洋の剣ってのは・・・そう思いながら、二本目の剣を緑の騎士の兜に向かい投げ放った。
緑の騎士は剣で兜をかばった。その隙を突き疾走すると、三本目の剣を取りそのまま心臓に向けて投げつけた。
すかさず四本目の剣を掴み取り三本目を投げた場所へ正確に投げつける。
三本目の剣が緑の騎士の鎧に傷を付けると間髪いれずに四本目の剣が突き刺さった。
それを見て緑の騎士は驚くと怒りを通り越し冷静になった様だった。
「なるほど、大した技量だ・・・人間なら死んでるだろうな、殺すには惜しい」
「お褒めに預かり光栄だな・・・」
あれでも駄目か! 内心焦りながらもクロウはその言葉を待っていた。
「さて、そろそろ終幕だ」
「そう願いたいね・・・」
クロウは五本目の剣を引き抜くと、無謀にも緑の騎士に襲い掛かる。
上段から繰り出されたクロウの剣を緑の騎士は片手で受け止めた。
「くそ! 片手じゃ力が入らない!」
「当然だろう、だが敵にしては賞賛に値する。片手でよくぞここまで凌いだ」
そう述べたあと緑の騎士は渾身の力でクロウを斜めに切りつける。
瞬時に左肩に剣先を乗せ、右手を上へ突き出すように防いだ。次の瞬間、剣は打ち砕かれた。
勢いよく後方に吹き飛ばされる。柱が体を受け止めてくれたみたいだった。
「もう、打つ手が無い・・・どうせ殺されるなら武士らしく頭を刎ねて殺してくれ…」
「いいだろう、貴様は敵ながら見事な腕前だった、敬意を称して望み通り殺してやる」
クロウは、右膝を付き顔を下に向ける、首目掛け緑の騎士の剣が振り下ろされる刹那、
(位置に着いて用意、スタート!)と掛け声をかけて、クロウは柱の傍にある甲冑に向かい全力疾走する。
緑の騎士の剣はクロウの首を捉えることができず空を切って硬い地面に叩きつけられた。
瞬時に甲冑が抱えている剣を引き抜くと、甲冑を足蹴に跳躍し柱に足をかけ飛び上がる。
緑の騎士は剣を引き抜こうと力を込めていた。クロウは緑の騎士の首目掛け全体重を乗せ力を込め剣を振り下ろした。
剣は金属音を立てながら緑の騎士の首を切り下ろした。
転がった兜から声が聞こえてくる。
「大した者だ、敵であり騙された私が言うのも可笑しな話だが、実に心地いい。貴公に一つ助言をしておくとしよう。『一年以内』に貴公も死ぬと忠告しておくとしよう。さらばだ強き者よ」
クロウを讃えると、緑の騎士は塵になり溶けていった。
「アンタ敵だったけど、憎めないな。そんな貴方に俺も敬意を評してこの剣を捧げよう!」
クロウは緑の騎士が溶けて言った場所に剣を力一杯突き立てる。
「貴方の事は忘れない、誇り高き緑の騎士よ・・・」
踵を返すとクロウは柱に寄りかかり、疲弊した体を休ませる。
「はぁ、疲れた!! 万策尽きたと演技するのも疲れるなぁ・・・」
呟きながら呼吸を整えていると、先程剣を取り上げたある甲冑から呻き声が聞こえてくる。
「うー! うう! ううう!」
立ち上がり片手で甲冑の頭を取ると、金糸の髪が溢れんばかりに沸いてきた。
「ヴェルフィーユ!? なんでこんな所にいるの?」
「うう!うううう!」
ヴェルフィーユの口には布が巻きつけられていた。布を取るとヴェルフィーユは怒り出す。
「クロウ、なんで私を足蹴にするのよ! 甲冑なら他にもあるじゃない!」
「いや・・・なんでって言われても何となく気になったからかな・・・」
「もう!! でもクロウはどうして磔になったのが私じゃないって気づいたの?」
「なんだ・・・見てたのか」
怒ってる様な、嬉しそうな顔で見つめてくるヴェルフィーユにクロウは告げた。
「だって、君は優しいからね、絶対そんな言葉は口にしないとわかってたから、妖精のおねーちゃん!」
ヴェルフィーユは嬉しそうな顔をするとクロウを抱きしめる。
「いだだだだ! ヴェルフィーユ甲冑が刺さってる!! 抱きしめるなら甲冑脱いで!」
「嫌よ! これは待たせた罰ゲームなんだから!」
そういうヴェルフィーユは顔を赤く染めていた。
二人が抱きしめ遭ってると、玉座に光が注ぎこむ。二人は寄り添いながら玉座に歩みだすと光の中へ入る。すると二人の体はゆっくりと宙に浮き空に登って行った。
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クロウは甘い香りと共に目が覚めるとそこにはヴェルフィーユの顔があった。
「俺が寝ている間、ずっと膝枕をしててくれたのか・・・」
どうやらヴェルフィーユは疲れて寝てしまってる様だった。
今ならキスできるかな? と邪な思いに駆られたがすぐに掻き消した。
男ならいつか自分で掴み取る物だ、と思いつつも、クロウは困っていた。
「まいったなぁ・・・俺が恋するなんて思わなかった」
そう呟くと暖かい体温を感じられる膝枕に体を戻し甘い香りに誘われ深い眠りに落ちていった。
クロウが寝入ったのを確認したヴェルフィーユは、クロウを横に寝かせ毛布を掛けると金糸の髪と共に顔を近づけクロウの口に接吻をした。
「おやすみなさい、クロウ好い夢を」
優しい声で微笑んで光の粒となって去っていった。




