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封印聖女×刀ヲ継しモノ  作者: 檜高 黎
ニ章 追憶の果て
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漆黒の悪意

感想、指摘など、気軽にご意見頂ければありがたいです。

この物語はフィクションであり、作者自身、初めて書く作品ですので読んで下さる皆さんの意見をお聞かせ下さい。厳しい指摘も歓迎しております。

 青年はその晩、久々に好い夢をみた。幼い自分を抱えて微笑む母さんの隣に、誰か寄り添っている。

 その顔は、雲の様な霧が掛かっていて見えなかった。本当に幸せそうに笑う母さんが印象的だった。


 「母さん・・・」


 寝ている青年の眼から雫が零れ落ちた。


 翌朝、甘い匂いに包まれて目が覚めた。母さんが使っていた部屋をみると、ピンクのカーテン、白いテーブル、ベットの脇にはクマのぬいぐるみ。いかにも女の子らしい部屋だった。母さんが自分とそう変わらない年齢に使ってた部屋だと思うと、複雑な気持ちになった。

 起き上がると部屋を出て、母屋おもやに足を向ける。母屋に入ると直接、居間へと向かった。

 障子を開けて中にはいると祖父が朝食を食べ終えた様だった、お茶をすすりながら、祖父が話しかけてきた。


 「九郎、解っておろう?」


 「ああ・・・」


 この何日か疑問に思っていたことを問いかける。


 「なぁ、爺さん聞きたいことがある。あの時なんで俺の居場所がわかった?」


 「携帯電話のGPS機能じゃよ。お前が帰って来んでな、心配して武道具屋に電話してみればまだ来てないと言われたわい。そこに幹久君から電話があってな、心配して見に行けば案の定じゃったわい」


 「爺さんはアイツがあそこに居るって知ってたのか?」


 「大分前からの・・・お前に教えるとろくな事にならんと解っていたからの、お前には黙っておいたがな」


 「・・・アイツが入院している病院と母さんの墓の場所教えてくれ」


 そう言うと祖父は黙って二枚のメモ用紙を青年に渡し居間を出て行った。

 青年は足早に自室へ戻ると、仕度をすませてと玄関へと向かう。

 玄関で靴を履き、離れへと向かった。

 部屋に入るとクローゼットを開ける。様々なマフラーがあった。そこから紺色のマフラーを手に取る。


 「母さん、借りていくよ。きっと俺はアイツを見たら自分を保てなくなるから・・・」


 マフラーを首に巻くと、甘い香りがした。

 離れを後にすると、門へと向かい、外へ出る。

 屋敷から出ると石畳が道路へ延びていた、青年は道路に向かい歩き出す。道路に出ると、祖父に貰ったメモ用紙を見ながら登り坂を歩き出した。十分程度登ると寺が見えてくる。


 「ここか、結構近い場所にあったんだな・・・まぁ今まで爺さんに聞いたこともなかったから・・・」


 寺の入り口を通り抜け墓地へと足を踏み入れる。墓地は人の出入りを拒むように四方を石垣で覆っていた。まるで人の出入りを拒むような墓で覆われた迷路の道をメモを頼り探していくと、古い墓標があった。そこには安達六郎姫忠の名前も記されていた。


 「これが、先祖代々の墓か、初めての墓参りが母さんの墓参りなんて滑稽こっけいだな・・・」


 青年は墓の前に座り静かに手を併せる。

 暫く眼を閉じ拝んでいると、人の足音が聞こえた。砂利を踏む音が近づいてくる。

 砂利の音は青年の後ろで鳴り止んだ。

 疑問に思い振り返るとそこには、顔を包帯だらけの男が佇んでいた。


 「・・・こっちから会いに行く手間が省けてよかったよ、行きたくもなかったしな! こんな所に何の様だ!」


 青年の顔は憎しみで覆われていた、今にも飛び掛りそうな程の醜悪な顔をしているのに自分でも気が付いていた。

 包帯だらけの男は膝を付き、頭を垂れ涙ながらに訴える。


 「どうか墓前に手を拝ませて下さい・・・どうかお願いします・・・」


 「帰れよ! 此処はアンタが来る場所じゃないんだよっ!!」


 青年はそう言うと睨みつけ、片手でマフラーを握り締める。


 「そういやアンタ家族がいたんだったな! そっちの墓参りはいいのかよ! こんな所に来る位なら自分の家族の墓参りに行けよ!!」


 男は心臓を握りつぶしたような苦悶の表情を浮かべ、静かに語りだした。


 「私は・・・身内から籍を抜かれ帰る場所が無い人間です。家族の墓にも行きたいのですが、二度と参る事が叶わないのです、此処に居るのは行き場の無くなった唯の死人です。死人に出来るのは被害者の方に償う事しか出来ないのです・・・」


 男は頭を伏せたまま微動だにしない。

 青年は祖父から言われた言葉を思い出し、怒りを押さえつけながら問いかける。


 「爺さんから、アンタの話を聞けって言われたからあの晩の事を少しだけ聞いてやるよ」


 男は顔を伏せたまま語りだした。

 「あの晩私は、会社の同僚と酒を酌み交わし、帰路に着いていました。電柱にもたれ掛かりつい眠ってしまったのです、まどろみの中、周囲は濃い霧で覆われ黒いローブを纏った人物が、私の額に人差し指をつけ聞き取れない言語を口にしたのを覚えています、そのあと気が付いたら・・・血の海に倒れていたのです・・・警察に話したのですが信じてはもらえませんでした」


 青年の顔は酷く歪んでいた。

 「そんな莫迦みたいな話を俺に信じろというのか? 爺さんに言われて話を聞いたはいいが、莫迦らしくて耳が腐り落ちそうだ。俺は今すぐアンタを殺してたい!」


 「私も最初は、彼方に殺されるつもりでした。でも考え直して思ったのです、彼方が私を殺したら今度は彼方が苦しむ事になると・・・そんな思いをするのは私一人で十分だと、事情はどうあれ人を殺めた事は事実なのですから・・・彼方にそんな思いをさせる事は絶対にできません・・・」

 

 「ふざけるな・・・俺の気持ちはどうなる! 母さんを奪われた俺の気持ちは何処にぶつければいいんだよ!」


 青年は我慢できなくなって男の頭目掛け蹴り上げる瞬間。


 「九郎・・・その人を許してあげなさい・・・」


 一瞬、青年の耳に母親の優しい声が聞こえた様な気がした。

 驚きの余り、足が止まる。気が付けば青年から殺意は消えていた。青年は男を無視し来た道を戻っていく。途中で足を止め背中越しに男に話し掛ける。


 「アンタ・・・行く所ないんだって言ってたな、此処の坊さん知り合いだから母さんの為を思うなら一生此処で母さんや無縁仏の供養に残りの人生掛けて償え、それで許してやる・・・但し一日でも怠ったらその時はアンタを殺す」


 男は驚きを隠せない表情をしていた、その顔からは涙が滝のように零れ落ちていた。


 「アンタが言った事、正しいよ。俺もここ数日考えて気づいたからさ・・・あと怪我が治るまで無理するな」


 男は泣き崩れ、悲鳴に似た声で叫んだ。


/


 それから毎日の様に、青年は深夜に墓に出かけては手を合わせていた。綺麗に墓は手入れされていた

 「・・・これでよかったんだよな・・・母さん」


 そう呟くと自宅に向かい歩き出す、そんな日々の繰り返しが日課になっていた。

 半年が過ぎた頃だろうか。深夜に目が覚め寝付けない青年は久々に刀を持って道場に向かっていた。

 その晩は雨が降っていた、近隣一帯は、濃い霧に包まれ、異様な雰囲気が立ち込めていた。

 突然、雷が落ちた。嫌な気配がした青年は墓へと走り出した。

 坂道を登り終え、墓で埋め尽くされた迷路のような道を駆け走る。

 そこで青年はとんでもない物を目の当りにする。

 母親を殺した男が古い壷を、全身黒いフードを纏った人物に手渡していたのだ。

 黒いフードの人物は微かに嗤うと聞き取れない言語の呪文を唱えだした。

 唱え終えた瞬間、母親を殺した男は塵になって跡形も無く消えていった。

 その光景を目の当りにした青年は、憎しみを露にした。それで全て理解できたからだった。


 「お前が全ての元凶か! 何者だ!」


 携えた刀を持って疾風の如く黒いフードの人物に襲い掛かる。

 瞬時に間合いを詰めると鞘から刀を引き抜き横一文字に切りつける。

 黒いフードの人物は後方に下がり紙一重で交わすと不気味に嗤う。

 青年は間髪居れずに刀を上段に持ち直すと、黒いフードの人物に向かい一気に振り下ろす。

 刀が黒いフードの人物に届く瞬間、男の頭上に青白く光を放つ魔方陣が広がり遮られた。


 「くそっ! なんで届かない!!!」


 黒いフードの人物は青年の額に手をかざす。

 緑の小さな球体が青年の瞳に吸い込まれていったのを確認すると口角をあげ嗤った。


 「いずれ解る・・・」


 黒いフードの人物は見下すように嗤うとそのまま黒い霧の中に吸い込まれていった。


 「待てっ!!」


 残された青年は、悔しさの余り悲痛な叫び声を上げた。


/


 失意の内に自宅に帰った青年は、ベットに横になり深い眠りついた。

 翌朝目覚めると、逸早く祖父の元に向かい昨夜の出来事を伝えると、すぐに祖父と墓地に向かい走り出した。墓に到着すると納骨されていた骨壷が一つ少ない事に祖父が気が付いた。


 「九郎・・・雪子の骨壷は無事じゃったが、安達六郎姫忠の骨壷がなくなっとる・・・何に使うか解らぬが不味い事になったの・・・」


 「爺さん、アレはもう人間じゃない・・・人以外の何かだ」


 「お前がそこまで言う相手じゃ恐らく・・・人ではないかもしれぬな」


 「九郎、お前はもっと強くならねばならん! 今日から寝る間も惜しんで実践での稽古を行う・・・わかったの」


 「ああ、今度は逃がさない・・・」


 それから、数ヶ月なんの進展も無く、稽古に明け暮れる日々が続いた。

 次第にアレは夢だったのではないかと思い始めていた。その内行き場の無い憎しみの矛先は自分に向けられるようになっていった。

 そして居合大会を迎える日に至る事になった。


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