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封印聖女×刀ヲ継しモノ  作者: 檜高 黎
ニ章 追憶の果て
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実休光忠と母の残り香

感想、指摘など、気軽にご意見頂ければありがたいです。

この物語はフィクションであり、作者自身、初めて書く作品ですので読んで下さる皆さんの意見をお聞かせ下さい。厳しい指摘も歓迎しております。

 青年が、母親を失ってから初めて泣いた夜から、数日がたっていた。

 あの日の晩から刀を振るう事を止め、右手に刀を握り、壁にもたれ掛かりながら、膝を抱え、自室に篭っていた。


 「爺さんが止めてくれなかったら、きっと俺はアイツを殺していた。アイツは無抵抗だった。俺が母さんの子だと知っていたんだ・・・」


 青年は刀を見つめながら、祖父が言ったことを口にする。


 「俺に武道を教えたのは、人殺しをさせる為でなく、精神を養って貰う為か・・・」


 青年はその言葉を、口にしながら呟く。


 「アイツを許せない、今でもそう思う。だけどアイツは母さんの墓前に毎年、花を供えて墓前で泣いて謝っていた。アイツにだって家族がいたんだ。俺は母さんが死んでから、一度も墓に出向いたことは無かった。唯、復讐の為にひたすら技術を磨くだけで、結局、目的の為に武術を利用したんだ・・・」


 「俺が本当に許せなかったのは、無力な俺自身だったのかも知れない・・・他人と接触を拒んできたのも自分が嫌で・・・仕方なかったんだ。母さんの死から逃げて、爺さんの武道を踏みにじり、他人を傷つけて・・・逃げていたのは結局俺か・・・最低だな・・・」


 青年はそう呟くと刀を壁に投げつけた。刀は重い金属音を響かせて壁から転がり落ちた。


 「アイツを殺してたら、きっとアイツと同じ苦しみを背負ってた。爺さんはそれを俺にさせまいと止めにきたんだ。・・・きっと母さんがそんな事望んでないと解ってたから・・・間違ってたのは、俺の方だったんだ・・・」


 そう言うと静かに立ち上がり障子を開け、部屋を出る。

 青年は、コの字型の長い縁側を歩き出すと、居間へと向かう。

 居間にたどり着くと中から話し声が聞こえてきた。


 「爺さん、話がある・・・」


 青年の声を聞き、祖父は青年を招き寄せる。


 「丁度いい所へきたな。九郎、中に入ってきなさい」


 障子を開けると青年の眼に見知らぬ顔と馴染みのある顔が眼にはいってきた。


 「幹久・・・どうして此処にいるんだよ・・・」


 幹久は、困惑した顔で青年をみた。

 祖父は青年に座れと指示した後、見知らぬ顔の女性と話をしているようだった。


 「うちの孫がお宅の、若い衆に手を出したそうで、本当に申し訳ない。手前にできる事なら出来る範囲で差せていただきたい」


 若い女性は祖父に向かい話し掛ける。


 「お気持ちはありがたいのですが、今回の一件に関して、私共は、責任を取ってもらうつもりは毛頭ありません。非はこちらにありますし、うちでも扱いに困ってた輩なので、お灸を添えて貰っていい仕置きになりましたわ」


 祖父は困惑した顔で話を続ける。


 「しかし、治療費などもお宅に振りかかるのは納得しづらい。何か出来る事があるのなら言って頂きたい」


 若い女性は、祖父に向かい話を続ける。


 「高名な綾瀬家当主の方に、そこまでさせる訳にはいきませんわ。唯、うちの輩を叩きのめした人物にお会いしたくて参上した次第ですわ」


 「・・・だそうだ。九郎挨拶せぬか」


 祖父の言葉に若い女性がこちらに向き直す。背中まで届く長い黒髪に、大きな瞳、凛とした佇まいを醸し出している。その女性の眼は、青年には何処か嬉しそうに見えた。


 「只今、ご紹介に預かりました。綾瀬九郎と申します。今回の不始末、誠に申し訳ありません・・・」


 女性はうっとりした顔で青年に話し掛ける。


 「宮路 真菜と申します。ねぇ九郎君、お姉さんと立ち合ってもらえないかしら。それで今回の事は両成敗って事でお願いしたいのだけど」

 

 青年が祖父に眼をやると、祖父は頷いた。


 「解りました。では道場の方へ移動して頂けますか・・・」 


 祖父は門弟を呼び出し案内するように命じた。

 居間に祖父を残し、門弟の後ろに付き居間を出て縁側を歩き道場に足を向ける。

 道場に向かう途中、後ろからひそひそと、話し声が聞こえた。どうやら幹久と真菜と言う人は話してる様子だった。


 「ちょっと、幹久。九郎君凄い可愛いじゃない! 幹久・・・ゾクゾクしてきたわ」


 幹久は冷たい視線で真菜を見ると呆れた顔をする。


 「真菜さん、綾瀬は強いッスよ・・・真菜さんでも勝てないかも」


 幹久の言葉に真菜は眼を輝かせる。


 「強ければ強いほどいいわ! 屈服させがいがあるもの! あんな可愛い子が辛そうな貌してるの想像しただけで凄く・・・興奮しちゃう!」


 青年は後ろが騒がしいと思いながら、渡り廊下を抜け、道場にたどり着く。


 「道場はこちらです、どうぞ中へ」


 門弟が道場の扉を開けると一様に道場へと歩みを進める。

 門弟は真菜に近づき案内する。


 「奥に着替える場所があるので、そちらをお使い下さい」


 「必要ないわ、すぐ終わらせるから」


 門弟にそう告げると、壁に掛けてある木刀を二本取り青年へ一本放り投げた。

 道場の隅にポツンと残された幹久は溜息をつく。


 「何だってこんな事に付き合わないといけないんだよ・・・」


 「九郎君、準備は出来てるわ、早くしましょ!」


 門弟を挟んで、互いに中央に歩みを進める。

 そして火蓋は切って落とされた。


 「勝敗は先に二本先取した者とします。両者、互いに礼! 始め!」


 門弟の掛け声が道場内に響き渡る。先陣を切ったのは真菜だった。

 真菜は下段に構えると瞬時に疾走し、青年に向かい切り上げる。


 「無拍子か、相当な物だな・・・」


 青年は瞬時に体を反り交わすと、右足を軸に反転し下段から真菜の首元に木刀を突きつけた。


 「一本!」


 真菜は驚きを隠せなかった、真菜とて素人ではなかったからだった。


 「なんて子なの・・・紙一重で捌くなんて・・・これでも私、剣道、十段よ!」


 内心そう思いながらも次こそは、取ってみせると躍起になっていた。

 互いに中央に戻り、両者、正眼に構えると切先の攻防を繰り広げながらも先に仕掛けたのは、青年の方だった。

 縫い込む様に真菜の木刀を伝い青年の木刀は真菜の胸に突き刺さる手前で止められた。


 「一本! それまで! 勝者、綾瀬師範代!」


 真菜は愕然としていた・・・・

 かつて神童と言われた真菜でさえ青年に敵わなかったのだ。


 「驚きました・・・その若さで相当な腕前ですね」


 「正直に話すとね私、剣道十段なの。剣道最高位の私をあしらうなんて九郎君、居合何段なの?」


 「初段です」


 「初段!? その強さで初段ってどういうつもりかしら!実力だけなら範士八段は優に超えてるわよ!」


 「大会では祖父の影響もあって特例で審査して頂いてるんです。段位を取るつもりは始めから毛頭ないんです。優勝もしてますがマスコミ各社には、祖父が圧力掛けてるので一般には知られて無いんです」


  「本当は貴方を叩きのめすつもりできたんだけど、うちの組員が容易にやられた理由がわかったわ。正に天賦の才ね」


 「そんな格好の良い物じゃありませんよ・・・」


 「どうして?」


 「・・・・・・」


 「言いたくないならいいわ。兎に角、完敗よ! 何かあったらうちの組にいらっしゃい、世話してあげるから」


 「幹久、帰るわよ!」


 真菜は道場を出て行った。

 慌てて幹久も後を追う、何か思い出したように戻ってくると制服の上着を投げつけて話しかけてきた。


 「面倒かけんなよ! 路地裏での事、始末するのに大変だったんだからな!! 妹に感謝しろよ!」


 そういうと真菜を追いかけて走り出そうとする幹久を青年は呼びとめた。


 「幹久、済まない・・・」


 「勘違いするなよ! 妹の為だからな!」


 青年を背を向けたまま、言葉をを返すと、急いで真菜の後を追い走っていった。

 

/

 

 帰りの車内での事。

 真菜は勝負に負けたにも関わらず惚けていた。そんな様子を見てか幹久が真菜に問い正す。


 「真菜さん・・・何呆けてんスか?・・・まさか・・・」


 「九郎君って可愛い上に、強いのね。多少影はあるけど、沖田総司みたいでカッコイイ!」


 幹久は顔は引きつっていた・・・こうなる予感はしてたからだ。


 「綾瀬。真菜さんまで手玉に取るとは・・・しかし、あの綾瀬が俺にお礼を述べるとはな、そっちの方が俺には事件だけどねぇ・・・」


 真菜は決意したように幹久に命令する。


 「幹久帰ったらすぐ、各組長に電話しなさい! 今後、綾瀬九郎に手を出す様な事をしたらこの私が許さないって伝えておきなさい!」


 幹久はうな垂れながら小声で返事をした。


 「組長って・・・俺の精神的負担凄いんですけど真菜さん・・・!?」


 真菜は幹久の言葉を聞き流すと、真面目な面持ちで車内から空を仰ぐ。


 「九郎君は欲がなさ過ぎる。人が成長していく過程で必ず出てくる物を持ち合わせてないなんて、異常だわ」

 

/


 青年は着替えを済ませると祖父のいる居間に足を向ける。

 渡り廊下を抜け、縁側を通り居間にたどり着くと襖越しに祖父に話し掛ける。


 「爺さん、大事な話があるんだ・・・」


 「入ってこい」


 青年が襖を開けると、祖父は大きな座卓でお茶を飲んでいた。


 「で・・・どうじゃった? あの女子おなごは帰ったんじゃろう?」


 「ああ・・・動きに無駄が無かった」


 「そうか。で、話はなにかの?」


 「爺さん、まだはっきりと答えは出て無いけど、爺さんが俺を止めてくれた事、武道を利用した事、自分が間違っていた事、その意味が解ったから・・・刀を置く事にする・・・」

 

 「そうか・・・そこまで解ってるのなら後はお前次第じゃの。九郎ついて来い」


 祖父はおもむろに立ち上がり、居間を出ると縁側を通り、中庭を抜け、離れ座敷に向かう。

 離れ座敷前に着くと羽織からレトロな鍵をを取り出すと鍵を開ける。

 音を立てて扉が開いた、随分使われてないようだった。

 中に入ると部屋は刀の宝庫だった。刀は木箱に入れられ綺麗に整理され積まれていた。


 「爺さんここって・・・」


 「うちが所有してる刀の倉じゃよ、先祖代々集めてきた縁の品じゃな」


 「へぇ。家の家系ってそんなに長いの?」


 その言葉に祖父は呆れた顔をする。


 「まぁな、お前は物に執着もなければ、此処に来てからも強くなること意外に興味を持たなかったから知らぬだろうがの、四百年は歴史がある家系じゃて、初代当主、姫忠から始まった由所ある家系らしいがの。まぁ本当かどうかは知らないがな、かの織田信長と縁があったと言われておる」


 自慢そうな顔で講釈を述べる祖父の姿に青年は呆れかえる。


 「そんなの迷信だろ」


 青年は数ある木箱を無造作に手に取ると漆黒の鞘に収まった刀を取り出し、引き抜いた。


 「こんな変哲の無い刀、刀剣愛好家の家になら何処でもあるだろう?」


 祖父は驚いた顔をして青年に詰め寄る。


 「九郎! その刀どうやって抜いたんじゃ!」


 「いや普通に抜けるだろ? 刀なんだから・・・」


 「そうじゃないわい! ちょっと見せてみぃ!」


 祖父は刀を見るや否や解体し始める、刀身には『実休光忠じっきゅうみつただ』と掘り込まれていた。

 青ざめた顔をし祖父は青年に向かい、顔を上げる。


 「この刀は持ち主を選ぶ刀なんじゃ! 儂も若い頃そう言われて試したことがある、だが儂には抜けなかったんじゃよ」


 「爺さんがそこまで言うなら今抜いてみたらどうなんだよ・・・」


 青年は祖父から刀を取り上げると鞘に刀を納刀し、手渡した。

 祖父は鞘から刀を抜こうとしたが、鞘から刀が抜けることはなかった。その様子を見て青年は祖父を疑いの眼で見た。


 「爺さん、芝居じゃないだろうな?」


 「馬鹿を言え! 芝居でこんな莫迦な真似をするか!」


 青年は祖父から再び刀を無造作に取り上げて、怪しげに見つめる。


 「爺さんの言う事が本当だとして、どうして作りが新刀なんだよ?信長が実在した時代なら古刀が主流だろう? それに鞘だって鉄拵えだけど普通の鞘じゃないか、覇王か魔王か分からないけどそう言う人物が持つならもっと派手じゃないのか?」


 その言葉に祖父は静かに語りだした。

 「それはの九郎、その刀を持つものは世の中を統べると信じられているからじゃ。かの太閤秀吉もその刀を倉に納めておいた品物じゃ。扱えなかったのか知らぬが、一説には家康もその刀を欲したらしい、それが世に言う『大阪夏の陣』じゃ。結局刀は家康の手には渡らずじまいじゃったがの、ご先祖様が刀を焼き直して見た目では分からぬように仕向けて持ち出したとの事らしいがの、それからずっとこの倉に眠っておったんじゃよ」


 全く信じてない顔で青年は、祖父に質問を投げかける。


 「爺さん、その曰くつきの刀がなんで俺に抜けるんだよ?」


 「知らぬわ! 刀が持ち主を選ぶというたじゃろう! まぁそう言う事じゃ・・・その刀はお前が持っておけ! どうせお前にしか使いこなせない品物じゃ」


 祖父は肩を落として刀部屋から奥に歩き出した。奥には古い階段があった。

 祖父に連れられて階段を上がると甘い香りが微かに漂ってきた。

 何処かで嗅いだことのある匂いに青年は懐かしく感じた。

 二階全体が部屋になっていて随分と広かった、レトロな机に寝台、衣桁いこうには真紅の和服が掛けられていて、和洋折衷な部屋だった。


 「爺さんこの部屋って・・・」


 「雪子の部屋じゃよ」


 「・・・・・・」


 「九郎、今日からこの部屋を使え。今のお前には良い所じゃろうて、此処で心を休めろ」


 そういうと祖父は青年に鍵を渡し階段を降りて行った。

 複雑な思いで刀を置き、青年はベットに、くの字型に横たわると瞼を閉じる。


 「懐かしい母さんの匂い・・・好い匂いがする・・・」


 まどろみの中、青年の意識は薄れていった。

 

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