慈悲と報復
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この物語はフィクションであり、作者自身、初めて書く作品ですので読んで下さる皆さんの意見をお聞かせ下さい。厳しい指摘も歓迎しております。
その日の夕方、幹久は電話越しに妹に小言を言われていた。
「お兄ちゃん、本当に解ってるの? 綾瀬先輩の事、悪く思わないでよ!」
「先輩は、お兄ちゃんの事を思って言ってくれたんだからね! それに私、お兄ちゃんに綾瀬先輩に暴力振るってなんて頼んでないんだから! 解ってる?」
「ああ、解ってるって! こっちも忙しいだよ! もう切るからな?」
電話を切ると、幹久は無造作に携帯を上着のポケットにしまい込む。
口を開けば綾瀬、綾瀬と幹久は腹が立っていた。
「くそ! 綾瀬の野郎! 妹に心配掛けさすなよ!」
駅前を歩きながら、いつもの様に路地裏を奥に入っていくと、女性が壁の隅に持たれかかり震えていた。
幹久は何が起きたか理解できなかった。顔なじみの奴等が、血塗れで倒れていたからだった。
「おい! しっかりしろ! 生きてっか?」
その声に倒れていた奴等は何とか返事を返す。
「その声は・・・幹久か・・・俺等生きてる?」
「あぁ・・・まぁ骨は逝っちまってるかもな・・・それより何があったんだよ!」
「・・・お前と同じ高校の・・・制服着た奴が、俺らをこういう風にしたんだよ・・・」
「なんでだよ!」
「俺等がそこのねーちゃんと楽しもうとしてたらこうなった・・・アイツは完全に逝っちまってる!」
「馬鹿か? お前等何してんだよ! 俺でも怒るぞ! ちょっと待ってろ。救急車すぐ呼ぶからよ!」
幹久は電話を取り出し急いで119番に電話掛ける。
「こちら119番。事件ですか? 事故ですか?」
「ああ、事故。急いで宮寺駅の新幹線が通ってる高架下まで来てもらえないっすか」
「了解、至急救急車を向かわせます」
幹久は、電話を切ると、女性が羽織ってる学生服に目がいく、女性に近づき話しかける。
「ねーちゃん、少し聞きたいんだけど、この上着着てた奴。どんな奴だった?」
女性は、幹久に対して脅えてるようだった。女性の気持ちを察して幹久は言葉を掛ける。
「安心しろよ、こいつらみたいにあんたをどうにかしようなんて全然ねーからよ」
その言葉に安心したのか、女性は幹久に事情を話し始めた。
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「へぇ。そう言う事か、まぁこいつ等が一番わりーわな、でもねーちゃんも悪いんだぜ。この辺りはな、地元の奴なら絶対近寄らない場所なんだからよ」
「しかし、このまま行くと面倒な事になっちまうわなぁ・・・どうすっかな?」
「ねーちゃん此処で見たことは全部忘れちまいなよ。面倒事に巻き込まれるの嫌だろう?」
そういうと女性は、黙って頷く。
「じゃぁよ、今すぐ此処から離れろ。と言ってもその格好じゃな・・・」
幹久は再び電話を取り出し、急いで知り合いに電話を掛ける。
「ああ、俺っス。事情説明してる暇ないんで、女物の服すぐ持って来てもらえます?」
程なくして一人の女性が鞄を携えやってきた。
「幹久。あんたに頼まれた服持って来たけど、こりゃどうなってんだい?」
「すいません、真菜さん。実は、こいつ等がそこの女性に暴行してたらしんですけど、返り討ちに遭っちまったみたいで。面倒な事になる前に女性だけ逃がそうと思ってね」
女性は呆れたような顔をして、倒れてる連中を、一瞥する。
「当然の報いだね。寧ろこいつ等やった相手がどんな奴かは興味あるわ」
そう言うと真菜と言う女性は、幹久に鞄を投げて渡し、帰ろうとする。
「真菜さん、今度こいつ等返り討ちにした奴、紹介しますよ。真菜さん気に入ると思いますよ?」
そう言うと真菜は振り返り、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「本当に! 美少年?」
幹久は、顔を引きつらせる。
「ええ・・・まぁ。ムカツク奴っすけど・・・その代わりと言っちゃなんすけど、この女性と一緒に目抜き通りまで出てもらえます?これから救急車来るんで」
真菜は二つ返事で承知すると幹久に向こう向いてなと眼で合図する。暫くすると女性は着替えが終わったようだった。
「おし! 幹久! 後頼んだよ。私はこの子を目抜き通りまで送るからさ。例の約束忘れんなよ! ああ! それと表でうちの組の馬鹿が倒れてたから下っ端に命令して、車で組まで運ばせといたから安心しな」
そう言うと真菜は喜び勇み、女性を連れ大通りに出て行った。
「真菜さんこの状況で嬉しそうだな。どういう神経してんだよ・・・」
「おい! お前等まだ生きてっか?」
「・・・・おう・・・幹久・・・」
「なんだよ。気絶してたのか情けねーな! まぁいいや、救急車来るまで暫く寝てろよ。あとよ、何聞かれても同士討ちって答えとけよ! 真菜さん命令だかんな!」
「おう・・・」
幹久は女性が置いていった学生服に眼をやる。学生服の裏には『綾瀬』と書いてあった。
「戻れなくなる・・・そう言うことか。あの馬鹿野郎! 妹が泣いたらどうすんだよ!」
幹久がぼやいていると、表からサイレンの音が聞こえる。
「もう着やがったか。まぁいい頃合いだな」
幹久は自分の着ている制服の下に、綾瀬の制服を着込み、上から自分の制服を着て覆い隠した。
「こいつ、本当に小っせいなぁ。加えてあの顔じゃ妹じゃなくても惚れるわな」
救急車が到着すると、次々と怪我人が担架で運ばれていく。
そのうち警察も来て、対応で幹久は忙しくなった。
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夕闇が迫る頃、 雑踏を覚束無い足取りで街を当てもなく徘徊する青年は、駅の方角に向かう救急車を見かけた。鼓動が早くなる。
隠れるように、路地裏へと歩みを進めるとフェンスにもたれ掛かり、崩れ落ちる。
「俺は・・・彼等に・・・何をした・・・?」
青年は混乱していた。
青年がはっきり覚えている事は、女性が殺された母親と重なって見えた事だった。
あの光景を目の当りにした青年は、殺意に自我が飲み込まれて行った感触を思い出す。
恐ろしくなって、歯がカチカチ、カチカチ、と鳴る。
いつまた正気を失うか解らない自分が、怖くて仕方なかった。
青年は、あの路地裏の事も、理解していた。 自分の中に内在する、抑えきれない衝動を、抑え込む為に、敢えて危険な場所を足を踏み入れていたのだ。少しでも渇きを潤す為に・・・
「感情を殺せ!・・・じゃないと潰れるのはお前だ!!」
そう自分に言い聞かせるとフェンスからゆっくりと起き上がる。そしてまた覚束無い足取りで、暗闇に点々と蛍火を灯す街へと向かい歩き出した。
まるで、何かを求めるように街を彷徨う。青年の瞳にはすでに光がなく、死人の様な眼をしていた。
通りを行き交う群集の中、青年は大型家電スーパーの前で歩みを止める。
陳列されたテレビからは、夕方のニュースが流れていた。
雑踏の中、足を止めた青年は、ニュースが終わるまでテレビを呆と眺めていた。
「もう、戻れないか・・・いや元から戻る場所なんて俺にはなかったんだ・・・あの時からずっと」
感情の無い貌をし、静かに歩き出す。
もう何処へ向かうのか自分でも解らなかった・・・
それから青年は何処をどうあるいたのか覚えていない。
気が付けば、漆黒の闇に包まれた閑静な住宅街を歩いていた。
そして、意識を失い倒れた――――――
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次に意識を取り戻したとき、ダンボールで出来た簡素なベットに寝ていた。
周辺を見渡すと、河川敷だった。外は雨が容赦なく打ち付けていた。
濡れない所をみると、どうやら高架下したの様だった。
「目が覚めたかい?」
薄汚い男が話しかけてきた。風貌から察するにホームレスだった。
「あなたが、俺を助けてくれたんですか?」
「ああ、驚いたよ。道路の真ん中で倒れてたからね・・・」
そう言うと男は焚き火に、拾ってきた小枝に投げ入れる。
「何か事情があるんだろうが、帰れる所があるのなら早く帰ったほうがいい・・・」
その言葉に、青年は言葉が出ない。
「・・・・・・」
薄汚れた男は、小枝を投げ入れると静かに語りだした。
「こんな話がある、昔一人の男が、酒に酔って殺人を犯した話だ・・・酒に酔った男は、若い女性を鉄パイプで殺害した。それから刑務所に送られた。刑務所を出所した男が、その後知った事は、自分の家族が世間やマスコミ、親類縁者から蔑まれた後、自殺した事だった・・・」
「男は、当然の報いだと思った。人の命を奪ってしまったのだから・・・だが家族を巻き込んでしまった事、被害者の家族にも決して忘れる事のできない傷を負わせてしまった事を考えると男は死ねなかった」
「その後、男は女性に男の子がいた事を知った・・・その後、男はその男の子を捜した・・・」
青年は、感情を押し殺し問いただす。
「その男は何処にいる・・・」
「君の目の前にいる」
青年は押し殺した感情を解き放つと薄汚れた男に飛び掛った。
「お前が母さんを殺したぁあ!!お前さえ居なければ・・・!!!」
倒れこんだ男の襟を掴み、顔面を殴打する。そこには一匹の獣がいた。
幾度も、幾度も、叩きつける・・・
「殺してやるっ!!!!」
薄汚れた男は、夥しい(おびただしい)血を流し、意識が無かった。
青年が止めを刺そうと渾身の一撃を放つ刹那―――
顔面に衝撃を受けて青年は転がっていく。
「何とか間にあったかの・・・この馬鹿者が!!」
番傘を差して歩いてきた人物は、薄汚れた男を抱え上げ怪我の具合を見る。
「まぁ何箇所か骨折れてるが命には問題はなかろうて。最後に一撃を貰ってたら死んでたじゃろうがな・・・」
静かに体を起こすと、青年は荒らしく声をあげる。
「九郎、いい加減にせんか! 事件の事はもう終わった事じゃ、早く忘れい!!」
「邪魔するな!! そいつは俺が殺すって決めたんだ! 邪魔するなら爺さんでも許さねぇ!」
そう言うと青年は祖父に殴りかかる。
祖父は、青年の拳を右手で円を描く様に払い上げる、体を崩された青年の顎を左手で真横に打ち抜くと瞬時に左手を引き、腰を下ろし、右手で顎を真上に打ち抜いた、そして浮き上がった側頭部に回し蹴りを叩き込んだ。
「やれやれ・・・怒りで戦い方すら忘れなんだわ」
青年はグシャリと音を立て地面転がり、這いつくばる。
「爺ぃさん・・・そいつは・・・俺が殺す・・・んだ・・・」
「九郎・・・もういいんじゃ・・起つな・・・」
「嫌だ・・・そいつは俺が・・・!」
「九郎! 今のお前の姿を見て雪子はどう思うかわからんか!!」
「・・・・」
「悲しいのはお前だけじゃない! 儂も一度として忘れた事はない! そしての九郎、お前が殺そうとした男もまた苦しいじゃ・・・心優しいお前が一番よくわかっとろう!!」
「爺さんは・・・そいつを・・・許せるのか?・・・俺は・・そいつを殺したい・・」
青年は、這いながら体を起こすとゆっくりと構える。
「小さな時から根性だけは、一流じゃな。全く面倒な事じゃ」
祖父はそう言うと、青年に襲い掛かった。
青年は、祖父の左拳を右手で払うと瞬時に五指を腕に掛ける、そのまま腕を捻り上げる、祖父はその場で一回転して捌くと左手を素早く引き抜く。
「九郎。儂の腕を折る気じゃったの。そんなにこの男が憎いか?」
「当たり前だ! その為なら・・・」
「儂がお前に武道を教えたのはな、精神を養ってほしかったからじゃ。人を殺す様に教えたつもりは毛頭ないんじゃがな」
「・・・・・」
「お前の中には闇が潜んでおるの、暫くそいつと向き合ってみるとええじゃろう」
そういうと祖父は踵を返し歩きだす。羽織から電話を取り出すと救急車を呼んだ様だった。
「爺さん・・・まだ話は終わって・・・ない!」
青年は疾走すると背を向けた、祖父に向かって中段蹴りを放った。
祖父は右手で足を掴み取り脇に抱え込む、遠心力を乗せた左手で青年の顔に裏拳を放った。瞬時に抱え込んだ足を離す。
青年は顔面を殴られた勢いで転がり込んだ。
倒れた青年に祖父は語りかける。
「九郎、毎年、事件の日に雪子の墓前に花を添えてくれてるのはその男じゃよ。お盆もそうじゃ、墓前で涙を流しながらずっと謝る姿を、儂はこの目でみてきたんじゃ、それに比べてお前はどうじゃ?墓前にも顔を出さず、復讐の為に、毎日明け方まで稽古しては飯も食わずに寝るだけじゃろう」
「俺は、母さんの為に!」
祖父は呆れた顔ををして言い放つ。
「九郎は勘違いしとるの? 雪子がいつそんな事頼んだ?」
「・・・・・」
「兎に角、一旦この男の話を聞いて見る事じゃな、そこから見えて来る物もあろう」
祖父はそう告げると、到着した救急車に男の付き添いとして乗り込む。
残された青年は、母親が亡くなって以来、その晩初めて泣き叫んだ。




