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暖かい日差しが、俺に注がれている。
誰も遮ることのない太陽の光は、人間にとっても生きとし生けるものにとっても必要不可欠なものだろう。陽光も過ぎれば、害をなす。されど、なければ、また害をなす。
適度な日の光は、もちろん俺にとっては必要で、与えられると高揚感が増す。
俺が、硬い殻から出て、この世に生を受けた時、
その暖かい光が俺を待っていてくれたんだ。前世では望まれなかった俺のために。
俺は、前世では不幸な生き方をしたと思う。
誰にも愛されたつもりもなかったし、愛しもしなかった。
望まれない命。そう思ったのは、当然だっただろう。
だって、生きる意味も見出せず、ただ無為に生き延びていただけに過ぎなかったからだ。
しかし、ぎりぎりで生き延びていた俺も、病を得てゆっくりと医師に看取られながら、
一生を終えた。
これまで、培ってきたものは、そこまで重要とは思えなかったから、生に拘らずに、
あっさりと未練を捨ててその世を去った。
こんな俺に、今の世は初めて暖かい光をくれた。春の日差しにも何も感じなかった前の世の俺にとって、今の世のこの光は何倍もの嬉しい物となってかえってきていた。
随分、長い旅をしたような気がする。生まれる前の旅は辛く厳しいものだったに違いない。
しかし、母である樹が作った硬い殻が守ってくれた。それには感謝しなければならない。
今、たどり着いたこの暖かい岸辺で一生を過ごすことができるのは、この上ない幸せであるのだから。
俺は、落ちて土にかえる種皮を見下ろしながら、そう思った。
この世で初めて知った暖かい思いが、湧きあがってきた。
「母さん。ありがとう」