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第1話:燃えないゴミからの呼び出しと、完全燃焼の婚約破棄

本作は「悪役令嬢×最強主人公×ざまぁ」をテーマにした、

ちょっとスカッとするお掃除ファンタジーです。


主人公クレアが「おそうじ」という名の痛快な浄化活動で

世界のゴミを一掃していきます。


よろしければ、ぜひお付き合いください

「みんな、おはよう! 今日も我がヴィクトリア領とこのお屋敷をピカピカに、そして『風通し良く』しましょうね! それでは、今日もおそうじをはじめましょう!」

「「「はい、お嬢様!」」」


 雲一つない、爽やかな朝。

 ヴィクトリア家の大広間には、私の元気な号令と、それに呼応するメイドたちの統制の取れた声が響き渡っていた。

 私は燃えるような真紅の髪をアップにまとめ、特注のフリル付きエプロンを身に纏い、愛用の日傘(という名の特級魔導杖)を片手に満足げに頷く。


 私はクレア・ヴィクトリア。

 表向きはしがない男爵家の令嬢だが、裏の顔は王家直属の始末屋。国王の特命により、愚鈍な第一王子の監視役として長年『婚約者』というポストに据えられていた。

 そして何より、この国で最も『おそうじ』を愛する女だ。


「――チャキッ」


 微かな金属音。私の背後に影のように控えていた無口な護衛メイドのリタが、どこからともなく取り出した巨大な裁ちバサミで虚空を切り裂いた。

 パラパラと、シャンデリアの裏から『ただのホコリ』と『他国が放った羽虫型の偵察魔導具』が真っ二つになって落ちてくる。

 リタは感情の読めない顔のまま、私のドレスに汚れが落ちる前に、空中でそれらを細切れに粉砕した。相変わらず、完璧な防汚対策である。


「ありがとう、リタ。じゃあ、散らかったゴミは私がまとめて片付けるわね」


 私は日傘の石突きを床にコツンと鳴らした。

 ――『掃討スイープ』。


 無詠唱で発動した風魔法が、大広間に局地的な竜巻を生み出す。

 凄まじい吸引力を持った突風が、床に落ちたゴミも、壁の汚れも、ついでに屋敷に潜り込もうとしていた三流の暗殺者も、すべてを文字通り「ちり」のように巻き上げ、ピンポン玉サイズに圧縮し、窓の外へと綺麗に放り投げた。

 ああ、なんて素晴らしい。空気が浄化されていくのがわかる。美しい国には、美しい環境が必要不可欠ですものね。

 ――ふと、右手の指先に視線が落ちる。手袋の下の指先が、微かに冷たい。

 ……気のせいですわね。さっきの風が少し冷たかっただけ。


「お見事な『おそうじ』です、お嬢様。圧縮されたゴミ(暗殺者)は、後ほど庭師と一緒に庭の肥料にしておきます」


 完璧な笑顔と共に現れたのは、我が家の有能な腹黒執事、シリルだ。彼が銀盆に乗せて持ってきてくれた極上のダージリンティーを受け取り、私は優雅に香りを嗜む。


「ありがとう、シリル。これで今日も良い一日が始まりそう――」

「ええ。ですが残念なお知らせが。本日の予定に急遽『粗大ゴミの処理』が入りました」


 ピタ、と私の手が止まる。


「……王城より、第一王子殿下からの呼び出しです。至急、登城せよとのこと」

「…………はぁ」


 私は心の底から深いため息をついた。

 せっかく屋敷の空気が綺麗になったというのに、朝からあんな『燃えないゴミ』の顔を見に行かないといけないなんて。


「リタ、一番汚れが目立たないドレスを出してちょうだい。シリル、ちりとりの準備を」

「かしこまりました。次の『ゴミ箱』の手配も進めておきましょうか?」

「ええ、お願い。……さっさと片付けて、美味しいケーキをいただきますわよ」


 憂鬱な気分を隠しつつ、私は再び日傘を手に取った。

 この時の私はまだ知らなかった。王城で待っていたゴミが、想像以上に悪臭を放つ『有害物質』へと成り下がっていたことを。


   * * *


 豪華絢爛な王城の大広間。

 扉が開くと、待ち構えていたのは金髪を無駄に輝かせた第一王子と、その腕にぴったりとくっつく高位貴族、侯爵家の令嬢――モモ・ダストだった。


「よく来たな、クレア・ヴィクトリア!」


 王子がホールに響き渡る声で叫ぶ。周囲の貴族たちが何事かとざわめき始めた。


「なぜ私が、お前のような階級の低い冷酷な女と婚約しなければならない! 私は真実の愛を見つけた! お前との婚約は、今この場で破棄する!」


 大広間に沈黙が落ちる。

 しかし、私の内心は至って冷静だった。


(ああ……ずっと目障りだった王城のゴミが、今日はひとまとめに落ちていますわ。なんてお掃除日和かしら)


「理由はそれだけではありません! お前は嫉妬に狂い、昨日のお茶会で愛しのモモのドレスに泥水を引っかけただろう! この美しく可憐な彼女を汚すなど、許しがたい悪逆非道な振る舞いだ!」

「ひぐっ……私、怖かったですぅ……。クレア様、いくら私が殿下に愛されているからって、あんな汚い泥を……」


 モモが王子の胸に顔を埋め、わざとらしい嘘泣きを始める。

 周囲の高位貴族たちが「たかが男爵令嬢のくせに、なんて酷い女だ」と私に非難の目を向けた。

 ――が、私は見逃さなかった。王子の胸に顔を埋める直前、モモの目が一瞬だけ、冷たい計算の光を帯びて高位貴族たちの顔ぶれを素早く確認していたことを。

 (……やっぱり、ただの泣き虫じゃありませんわね。この手の『ダスト』は、目に見えないうちに積もるから厄介ですの)


 だが、私より先に、背後の従者たちが静かにキレていた。


 シリルは笑顔のまま青筋を立てている。

(……あのお方は、お嬢様の『お掃除に対する美学』に対する最大の侮辱を口にしましたね。後で舌を物理的に漂白しておきましょうか)

 リタは私を汚す泥の存在自体が許せないらしく、無言でハサミをチャキッと鳴らした。


 私は日傘を床にコツンと鳴らし、冷たく言い放つ。


「……殿下。冗談はご自身の頭の中だけにしてくださいませ。私が、わざわざこの世に『汚れ(泥)』を生み出すとでも?」

「な、なんだと!?」

「私は汚れを何よりも嫌悪しておりますの。もし私が彼女に危害を加えるなら、泥で汚すような二度手間はいたしません。塵一つ、灰一つ残さず『焼却処分』いたしますわ。……中途半端な汚れを残すなど、私の美学に反します」


 私の正論に、王子は顔を真っ赤にして激昂した。


「黙れ、この分をわきまえぬ下賤な女が! お前の方こそ、この国から『消去おそうじ』してやる! 国外追放だ!」


 プツン。

 私の中で、何かが切れる音がした。


「……あら。私をお掃除(国外追放)する、ですって?」


 私はため息をつき、「……表の顔で穏便に済ませてあげようと思いましたのに」と呟いて日傘をパタンと閉じた。

 それを背後のリタへと預ける。本気の魔法(杖なし)を使う合図だ。


「面白いわ。殿下、私が本気でお掃除を始めたら、この国がどうなるか……身をもって『灰』になって教えて差し上げましょうか?」


 私の足元から、絶対に消えない青白い『焼却処分』の炎が魔法陣として展開する。

 大広間の熱気が一気に上昇し、チリチリと空気が焦げるような音が響いた。


「おい、馬鹿者! 止めろ、王子!!」


 その時、奥の玉座から転げ落ちるように、顔面蒼白の国王が駆け寄ってきた。


「ま、待ってくれクレア殿! 愚鈍な息子の不敬は私が詫びる! だからどうか、その『焼却処分』だけは……! 王都が消し飛んでしまう!! ――お前がこの国にとって、どれほど……いや、今はいい、とにかく頼む!」

「「え……?」」


 国王の悲痛な叫びと、尋常ではない炎の熱気に、王子とモモはついに自分たちが「絶対に触れてはいけない劇薬」を怒らせたことを理解した。二人は腰を抜かし、床にへたり込んで震え上がる。


 張り詰めた空気の中、シリルが静かに進み出た。


「お嬢様。このような分別のつかない粗大ゴミのために、特級の炎を使うなど魔力の無駄遣い(エコではありません)です。お手が汚れますよ」


 すかさず、リタが無言で日傘を私に差し出す。

 私は日傘を受け取り、スッと炎を収めた。


「……シリルたちの言う通りね。国王陛下に免じて、本日の完全燃焼は見送って差し上げますわ。ですが、少々埃が目立ちますから……」


 私が指をパチンと鳴らすと、小さな風の刃と熱波が王子たちを襲った。

 一瞬にして、王子の前髪の半分と、モモのドレスの派手なフリルだけが「チリッ」と音を立てて灰(炭)に変わる。


「ひぃっ!?」

「きゃあああっ!」


 悲鳴を上げる二人を見下ろし、私は日傘を肩にかけて優雅に微笑んだ。


「少し埃が目立ちましたから、軽く『おそうじ』させていただきました。……それでは殿下、ごきげんよう。リサイクル不可能なその方と、お幸せに」


 私は踵を返し、完璧な従者たちを引き連れて、呆然とする貴族たちを残したまま王城を後にした。

 さあ、早く帰って美味しいケーキと紅茶をいただきましょう。

最後までお読みいただきありがとうございます!


クレアのおそうじ活動、いかがでしたでしょうか。

次話では早速「本格的なお掃除」が始まります。


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