第6話 神との邂逅【side紗彩】
私はずっと周りからチヤホヤされて育ってきました。
『社長令嬢』
そのレッテルを貼られた私は、父に取り入ろうとする大人達に煽てられ、増長し続けたのです。
入社したての頃の私は、表向き大人しい性格を装いながらも、心の内側では周りを見下していました。
同性からは疎まれて、男性からはチヤホヤされて、でも性的な目で見てくる有象無象が鬱陶しくてたまらなかった。
でも篠宮課長は違った。
誰にでも分け隔てなく優しく、自らは謙虚で慎ましく。
そして誰よりも課の長として責任感が強くて、部下の失敗は自分が被って、部下の功績は自分の手柄にせず上に報告する。
人生損してるとか、万年課長とか揶揄する人はいるけど、私は彼を尊敬しています。
それが恋だと気がつくのに時間はいらなかった。
きっかけは私のミスでした。
大事な打ち合わせのアポイントを七時 と一時を聞き間違えるという単純極まりないミスをしてしまったのです。
打ち合わせの時間になっても現れない先方は大激怒。
私は必死に自分を取り繕って誤魔化した。周りは庇ってくれた。
でも会社に重大なダメージを負わせた私は父に呼び出され大目玉を食らった。
『よくも水無月を貶めてくれたな』と。
私はプライドから父に反論しましたが、所詮は七光で入社した箱入り娘が何を言ったところでみっともないだけでした。
そのことが余計父を怒らせました。
でも篠宮課長は……隆行さんは社長である父の前で『社長、未来ある若者を叱り付けるだけでは部下は伸びません。彼女は失敗という大きな財産を得ました。それは将来我が社の宝である若手社員への何よりの教訓になる。そうではありませんか?』
普通出来るでしょうか?
日本でもトップに立つ水無月コーポレーションの社長に向かって説教をしたのです。
隆行さんは続けてこう言いました。
『これは十五年前、今回と同じように大きな失敗をした新入社員である私に貴方が送ってくれた言葉です』と。
父は大笑いしながら『これは一本取られたな!』と膝を叩きました。
ずっと後で聞いた話では、父は私を怒ってなどいなかったのです。
ただ周りに流され、失敗を認めようとしない私を心配して『それではいけない』と気付かせようとして一芝居打つつもりだっただけでした。
だけど、隆行さんは私を守って諭してくれたのです。
社長に説教たれるという、サラリーマンなら普通したがらないリスクを省みず、私の成長の為に危険を犯してくれた。
それから私は隆行さんに夢中になりました。
高慢ちきだった自分を戒め、今までの愚行を改めました。
やっかまれていた女子社員の先輩達にも謝り、和解することが出来ました。
時間は掛かったけど、今では皆でランチをしたり遊びに行ったり出来る仲にまでなっています。
隆行さんが課内で浮いていた私を心配して皆に根回ししてくれたと聞いた時は涙が止まらなかった。
でも隆行さんはそれを口止めしてたらしい。
そんな謙虚な隆行さんにますます恋をしました。
父は社内で最も信頼している部下に隆行さんの名前を挙げています。
だから私に彼を籠絡して自分の後継者にするように誘惑しなさいとまで言っているくらいです。
父からそんな命令を受けました。でもそんなの関係なく、私は隆行さんのそばにいたかった。
だから私は昇進をせず、彼のそばにいる事を選びました。
隆行さんは謙虚で昇進はしたがらない節があるけど、私は例え父が反対しても隆行さんと添い遂げたいと思っています。
隆行さんが望むなら、私は会社を辞めて慎ましやかに暮らすことも厭いません。
お金なんてなくていい。
そんな隆行さんが会社を貶めるような事をするわけがない!
父が海外へ出張しているこの時期に彼を貶めたい誰かが今回の騒動を起こしたに違いありません。
周りの反応も変でした。専務の腰巾着で保身のことしか頭にないセクハラ禿部長はともかく、今まで隆行さんに散々助けてもらった人達まで敵に回っていました。
私は隆行さんの力になりたい。
いざとなったら私が隆行さんを養っていきます。
それくらいの覚悟があります。
隆行さんの腕に力がこもり、私を抱きしめてくれます。
腰に手を回して息を荒くする隆行さんの顔が近くにあります。
私は夢中で彼にキスしました。
隆行さんの舌がそれに応えてくれます。
厚くぽってりとした男らしい舌先。
凛々しくワイルドなお顔立ちはとても42歳には見えません。
でも、深い人生経験を積んだ人にしか出せない貫禄のある燻し銀の魅力は、顔が良いだけの有象無象とは天と地ほどの差があります。
父の付き添いで社交界のパーティに呼ばれると、顔も見たことない俗物が馴れ馴れしく手を握ってくるので怖気が立ちます。
確か今乗りに乗っている大物俳優の息子だとかなんとか言っていた気がしますが既にデータを削除したので覚えてないです。
「隆行さん、手を、手を握って下さい」
俗物の気持ち悪い手の感触を思い出して隆行さんの感触で塗り潰します。
「隆行さんの手、大きくて逞しくて、安心します。アァン」
手を握ってもらいながら彼の上にのし掛かり腰を振ります。
今までこんなはしたない真似は妄想でもした事がありませんでした。
隆行さんと結ばれたその夜、私はとても不思議な夢を見ました。
——『目覚めなさい、水無月紗彩』
耳元に落ちてきた声は柔らかくも荘厳で、聞いた瞬間に胸の奥がざわめきました。知らないはずなのに、どこか懐かしい。私はゆっくりと目を開けましたが、そこには光に包まれた白い空間が広がっているばかり。見知った部屋ではなく、まるで何もない広大な舞台に立たされているようでした。
「だ、誰……?」
恐る恐る声を漏らした私に、光の主は答えます。
——『私は愛従事者管理統制神。神に仕えし魂を導く者です』
「神様……?」
信じがたいはずなのに、不思議と恐れはなく、むしろ心の底から安堵が広がっていくのを感じました。
——『まずは、篠宮隆行様との初夜、おめでとうございます。あなたはこれから、あのお方に限りなく愛していただけるでしょう』
「ほ、ほんとですか!? ……よかった」
思わず頬が緩んでしまいました。神様と名乗るその存在の声には、不思議な温もりがあり、言葉のひとつひとつが心に沁みこんできます。
——『今日あなたに声を届けたのは、大切なお話があるからです。篠宮隆行様と、あなたのこれからの未来について』
私は思わず背筋を正しました。
「大切なお話……?」
——『ええ。まず、あの方に不思議な力を与えたのは私です』
「え!? あの力を?」
——『正確に言えば、眠っていたものを呼び覚ますきっかけを与えたのです。あれは彼が本来から持っていた力。それを【神力】と呼びます』
「神力……?」
聞き慣れない言葉に思わず復唱しました。
——『神の力と書きます。生命力の源であり、他者を幸福にし、心を通わせ、活力を漲らせる……人の域を超えた力です。あなたもすでに体感しているのではありませんか?』
確かに、と私は心の中で頷きました。昨夜から、彼とひとつになるたびに、まるで心が透けて見えるような一体感がありました。思考や感情がそのまま伝わってくるような、不思議な感覚。あれは決して錯覚ではない、と。
さらに神様は続けます。
——『本来なら隆行様は、あの魔女が与えた薬によって悲劇的な人生を歩むはずでした。その薬は一瞬の幸福を与える代わりに、後には無限の苦痛を呼ぶ呪物。発狂して命を絶つ運命だったのです。ですが私はそこに介入しました』
「そんな……!」
胸が締め付けられました。もし本当にそうなっていたら、私は彼と出会っていても、幸せを共にすることはできなかったでしょう。
——『私はあの薬を、彼の神力を覚醒させるきっかけへと書き換えました。ただし代償は必要でした。彼が短期間に味わった不幸の数々……それは穢れを浄化するための試練だったのです』
私は思い出しました。隆行さんが、会社を追われ、財産を失い、お母様との仲にさえひびが入ってしまったこと。そして、私を助けるとき「臆病で動けなかった」と自嘲していた姿。
「そういうこと……だったんですね」
胸が熱くなりました。あれは彼が弱かったからではなく、力を宿すための過程だったのです。
——『安心なさい。すでに浄化は終わっています。闇金組織も消え、会社のシステムも修復しました。隆行様はこれから、真の幸福へと歩んでいくでしょう』
「よかった……ほんとうによかった」
安堵と同時に、涙が頬を伝いました。
けれど、神様はここからが本題だと言わんばかりに声色を変えました。
——『水無月紗彩、あなたは隆行様が多くの女性に愛される未来を、許容できますか?』
胸がきゅっと痛みました。彼が他の女性と……そんなの考えただけで嫉妬に狂ってしまいそうです。
——『それは宿命なのです。神力は多くの人を惹きつけ、魂同士を結びつける。ですが安心しなさい。あなたと同じように結ばれる女性たちは、皆、過去世から深い縁を持つ者。血を超えた“家族”のような存在となるでしょう。そして心をつなぐ【スピリットリンク】の力が、愛する者同士の絆を強めます』
思わず目を伏せました。嫉妬しないなんて、本当にできるだろうか。けれど、昨夜確かに感じた“心が重なり合う感覚”を思い出します。あの感覚があるなら、きっと……。
「……やってみます。隆行さんのためなら、頑張ります」
そう口にすると、神様の声は優しく微笑んだように響きました。
——『よい心がけです。あなたは最初の一人であり、中核を担う存在。彼が道を外さぬよう導くこと、それがあなたの役目です』
最後に神様は、会社を陥れようとした人物が上層部に潜んでいることを告げました。それは隆行さんと私に課せられた試練であり、絆を深めるきっかけになるだろうと。
——『努々忘れぬように。あなたは最初の妻であり、すべての絆を束ねる者なのです』
その声は遠ざかり、光の世界も薄れていきます。
——神様、か。
私は目を閉じながら、胸の奥でそっと呟きました。隆行さんはやっぱりすごい人。多くの人に愛される運命を持つ人。独占できなくても、それでも彼の隣にいられるなら。
責任は重いかもしれない。でも、不思議と怖くはありません。むしろ、彼と共に歩んでいける未来が楽しみで仕方ないのです。
私はその想いを胸に抱きながら、再び夢の深淵へと身を委ねていきました。
※後書き※
ガンガン突き進むハーレムサクセスストーリーです。
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