第31話 いつまでも可愛い娘
「そんな、バカな……ヤクザでも叩きのめすプロの兵隊だぞ……こんなバカなことがあってたまるか!」
「現実を受け入れましょうよ専務。といっても私も驚いていますがね。まあそんなことはどうでもよろしい」
俺は冷たく見下ろした浜島にゆっくり近づいていく。
正直殴り殺さないように自分を抑えるのが大変だ。紗彩と玲緒奈を怖い目にあわせたこいつらも許しがたいが、なによりそれを許してしまった自分自身を殴ってやりたかった。
だが今自分を殴ることは紗彩と玲緒奈を悲しませることになる。そんな自己満足は後で一人の時にでもやればいい。
「さて、正直私は腸が煮えくりかえっていますよ浜島専務。覚悟はよろしいか?」
拳を構えて奴に近づく。
「ひぃっ、ま、待ってくれ!許してくれ。俺は命令されただけなんだ。娘二人を誘拐しろと命じたのは副社長だ!今度の役員会で自分が社長になれば最高幹部に取り立ててやるからって!」
タガが外れたようにべらべらと喋り始めた浜島を冷めた目で見降ろし、殴る気力も失せてきた。
だがケジメはつけておかないと次にちょっかいを出してこないとも限らない。
そうだ。俺の神力を注入してみたらどうだろう。この神力という奴は俺の愛する人には恩恵を与え、敵対する者には魔を払う性質があるような気がするのだ。
俺は浜島の頭を掴んで手の平に気を集めるイメージを作り出す。
すると掴まれた浜島の顔がドンドン青ざめて震え出して来た。
「あ……あが、あがががががあぁぁああぁっぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁっぁあぁっぁぁぁぁぁっぁぁぁあああああああ」
泡を吹いて失禁し始めたので慌てて離すと床に転がりスプレーを吹きかけられたゴキブリのように暴れ始める。
暫く発狂した後に糸が切れたように気を失った浜島を担いでビルを出ることにする。
俺は紗彩と玲緒奈を安全な場所に連れていくために、ビルを出たところで深雪に電話をかけて迎えに来てもらうことにした。
「深雪が丁度近くにいるらしい。もうすぐ迎えに来るからな」
「助かった……ふぇえ」
「怖かったぁ、お義父さん、怖かったよぉ」
「ああ、すまなかったな。助けるのが遅れてしまって」
先ほどまで気丈にふるまっていた二人だが、本当は泣きたくなるほど怖かったのは明白だ。
俺は二人を抱きしめて先ほど浜島にやったのとは逆の感情で神力を込めてみた。
すると二人の感情が急速に回復していくのが分かる。精神が安定し、乱れていた感情が鎮静化していく。
やはり神力は任意で相手に込めることで威力を強めることが出来る。
泣いている二人を抱きしめながら神力をありったけ込めてやると安心したように身体を摺り寄せてくる。
やがてやってきた警察に事情を話し、浜島は会話の録音記録から御用となり、被害者である紗彩と玲緒奈は精神状態を考慮して軽い事情聴取だけで今日は帰宅することとなり、俺は警察に事情を説明するために残ることになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日、俺は深雪と共に副社長に浜島、佐山、殿山の不正行為の証拠をもって副社長に迫ることにする。
内通者は副社長本人であった。
奉龍院に会社を売り渡し、その支配下の中で社長として君臨するつもりだったらしい。
「ば、バカな……何を証拠にそんなことを」
「残念だよ副社長。篠宮君が我が社を担うようになれば君にはその補佐を頼みたかったのだがね」
すっとぼけて見せる副社長に対して社長はそんなことを言って見せる。
っていうか、もう俺を後継者にする気満々なの!?俺この間部長になったばかりだというのにさ。
「浜島、佐山、殿山の三人が警察に自供したようです。副社長のお名前も既に出ており、証拠もそろっております」
どうやら浜島は狂乱気味に今までの悪事を次々に暴露して副社長の不正の証拠となる取引記録を次々に提出して『怖い、助けて』と叫び狂っているということだ。
深雪の追及に副社長は膝を折る。会社の不祥事なのでマスコミ対策などが大変であるが、社内の膿を一掃できたのは僥倖であると社長は笑っていた。
株価の下降は免れないが3年のスパンで考えるならまだ少ないダメージで済んでいるというのは深雪の談だ。
株の事はそこまで詳しくないが、それで身を立てている深雪が言うのだから間違いはないだろう。
副社長退任という社内の大騒動であるが、既に目星をつけていた社長は抜かりなく後始末の作業へと移行していた。
ハッキリ言って今回俺が出ばる必要はなかったのではないかと思っている。
社長はほとんど副社長を糾弾する材料をそろえ切っており、俺が持ってきたピースがとどめの一撃になったとは言っているが、それがなくとも社内の問題は解決出来たものと推測できる。
一連の内通者炙り出しは俺の昇進のための理由付けに過ぎず、本当は社長の手の平で踊らされていたに過ぎないのではないだろうか。
「さて篠宮君。社内で優秀な人物がこぞって辞任してしまった。そこでだ。君には本部長に昇進してもらいますますの活躍を期待したいところだ。勿論引き受けてくれるよね?」
その問いには『イエス』か『はい』で答えるほかはなかった。有無を言わさぬ迫力で凄まれた俺は首を縦に振るのみである。
紗彩を危険な目にあわせてしまった俺のミスにご立腹のようだ。そこばかりは俺の落ち度なのでどうしようもない。
奥さんは笑って許してくれたが娘を溺愛している社長としてはこのミスを許しがたいらしい。
それにしたってそのことを笠に着て俺を昇進させる材料にしなくたっていいではないか、とは怖くて言えないのである。
これをもって突然のクビから始まった社内内通者騒動は幕を閉じることになる。
うちの課でも係長が退社となったために仕事も少しきつくなる。
◇◇◇◇◇◇◇◇
一週間後、騒動のマスコミ対応もひと段落し、俺たちは日常を取り戻しつつあった。
解決課は解散となり、深雪が副社長に収まって海外事業部のフィルリーナ=エレノフスク本部長が専務に昇進した。前代未聞の25歳専務の誕生とあって社内はちょっとしたお祭り騒ぎだ。
もともと企画部にいた彼女はうちのアイドルだったからな。元上司としては誇らしい気持ちである。
驚いたことに、今回の副社長を始めとした社内の膿を一掃した騒動解決の裏方としてフィルリーナ女史が動いていたらしい。
具体的には証拠を掴むために深雪と結託して浜島や佐山、そして副社長の動向を探り証拠集めを手伝っていたということだ。
これは上層部に食い込んでいる彼女にしか出来ないことであった。
深雪は敵を騙すにはまず味方からという言葉の通り、水面下で動いている人物を組織して調査のための人員に引き入れていた。実は深雪さんってばそういう人物を他に何人も既に味方につけており、今回とんでもないスピードで社内問題が収束したのもそれらの秘密裏に組織した人事が裏で活躍してくれたおかげだという。
その筆頭がフィルリーナ本部長であり、彼女はその役目にいの一番で名乗りを上げたのだとか。
『お礼なんて言わなくてイイ。今度フィルにケーキごちそうしてくれればそれでいい。シャルルドマーニュのショートケーキ、最高級のヤツ』
なんて鼻息荒くして言われたら驕るほかないだろう。
まあ、それくらいで済んでよかった。
玲緒奈は無事にバイトと学校に復帰して猫耳店長も思った以上に早く復帰出来て喜んでいるらしい。
なんだかんだで売れっ子の玲緒奈が出勤していないと売り上げに響きそうでひやひやしていたんだとか。
ただそういうことより玲緒奈の安全面を最優先してくれた店長さんには感謝してる。
「言葉なんていらないにゃ!売り上げに貢献してほしいにゃ!あと若作りの秘訣とか若作りの秘伝とか若作りの奥義とか若返りの秘薬とか教えてくれたらいいにゃ!っていうかそれだけでもいいにゃ!頼むにゃ!切実にゃ!小じわが小じわがよぉおおお」
と、血の涙を流しながら懇願するもんだからちょっと気功で若返りが出来ますよってな感じで言いくるめて神力の注入訓練の被験者になってもらった。
運命の女性でない人に神力ってどの程度影響するのかの実験的な意味合いもある。
「美味しくな~れ、萌え萌えきゅーん♡」
「うおおお、玲緒奈ちゃん萌ぇええ」
「玲緒奈ちゃん写真集出すんだよね!俺買うよ!五冊は買うよ!」
「そんなに買わなくてもいいですよぉ、それよりご家族のために使ってあげてください。お店でお金を使ってばかりではダメですよ。家族を大事にしない人は『メっ』です」
「玲緒奈ちゃん輝いてますね。まさしく天職って感じです」
玲緒奈は今日もメイドとして働く。俺はそんな光景を紗彩、深雪と共に玲緒奈特製のオムライスを食べながら眺めていた。
「可愛いメイド服ですよねぇ。私もメイドの姿で隆行さんにご奉仕してみましょうか」
「それなんて素敵ワード?」
「あ、隆行さんエッチな顔してますよ。想像してるんですか?」
美女メイドのご奉仕とか興奮材料でしかない。紗彩も深雪も超絶似合うだろうな。
(お義父さん!お店の中でエッチな話は禁止ですよ!)
小声で抗議する玲緒奈の顔はちょっと紅潮している。
どうやらこれはおねだりすればメイド服でご奉仕とかもやってくれそうだ。
「紗彩さん、深雪さん、せっかくだからメイド服の試着体験していきませんか?」
「え?メイド服着られるの?」
「はい。スペシャルオムライスご注文のお客様の特典です。キングキャッスルのスペシャルメイド服試着体験。お姫様二名ご案内~」
「はは、これは楽しみだな」
玲緒奈の勧めでメイド服を試着する三人を眺めながら、来週あたりメイド3Pでもおねだりしてみようか、などと考えている俺であった。
ようやく平和な日常が戻ったな。しばらくは仕事以外はのんびりできそうだ。
恋人も三人に増えてますますハーレムライフが楽しくなってきた。
「ご主人様、お嬢様たちと一緒に記念撮影しましょう!」
「ぐぬぬ、あのような美女を二人も侍らせるとは」
「リア充爆発しろ!」
そんなやっかみも心地よい。なんとも自惚れそうになる自分を抑えるのも楽ではないな。
「それじゃあ撮りますにゃん、はいポーズ!」
俺はメイド服を着た三人と記念写真を撮りながらこれから始まるバラ色ハーレムライフを想像するのであった。




