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42歳バツイチ 神様になってイチャLOVEハーレムを作る!  作者: かくろう


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第3話 湧き上がるパワー

「待てやチンピラども!!」


 声を張り上げながら走る俺の身体は、まるで別物になったかのようだった。

 肺が焼けるように苦しいはずなのに、空気を取り込むたびに体中が軽くなる。

 心臓は高鳴っているのに、妙に落ち着いている。

 足は地面を蹴るたびにバネのように弾み、視界は驚くほど鮮明だ。


「篠宮課長!?」

 水無月君が驚いた声をあげた。

 その声に応える余裕はなかったが、確かに彼女の震えが耳に届く。守らなきゃ、という思いが胸を突き動かす。


「おっ、ご本人登場か。だったら話が早ぇ」

「ちょうどいい、借金返してもらおうじゃねぇか」


 チンピラどもの下卑た笑い。だが、不思議なことに、怖くない。

 さっきまであれほど足がすくんでいたのに、今はまるで別人のように心が澄んでいる。


「言っておくが、俺は金なんか借りていない。証文がどうのと言うが、昨日盗まれた免許で勝手に契約したものは無効だ。警察で確認すれば一発でわかる」


 俺は真正面から言い放った。

 チンピラの一人が、手にしていた紙をちらつかせる。

 昨日付けの借用証。印字された俺の名前、免許証番号。だが――


「なっ……字が、見える……?」


 驚愕した。

 普段なら小さな文字は老眼のせいで霞んで見えるはずだ。だが今は、ありえないほどはっきりと視認できる。

 その証文に書かれた粗雑な偽造痕跡すら、指先でなぞれるような感覚で見抜ける。


「昨日の日付だな。借りた翌日に取り立てに来る? そんなルール破りを堂々とやって、貸金業者を名乗るとはな」


「う、うるせぇ! 口の減らねぇオッサンだ!」


 苛立った男が拳を振り上げて突っ込んでくる。

 だがその拳は、あまりに遅く見えた。まるでコマ送りの映像のように。

 俺はほんの少し身をずらし、相手の腕を軽くいなす。


「ぐおっ!」


 体重を利用しただけの動作で、チンピラの巨体が派手に地面に叩きつけられた。

 自分でも信じられない。高校の体育で習った程度の護身術しか知らないはずなのに、まるで達人のように身体が勝手に動いている。


「な、なんだこいつ!?」

「聞いてた話と違うぞ!」


 残る二人が狼狽する。その声に俺の耳が敏感に反応した。

 ――聞いていた?

 やはりこれは偶発的なトラブルじゃない。俺を狙った、何者かの仕掛けだ。


「おい、やっちまえ!」


 二人が同時に飛びかかってくる。

 俺は咄嗟に一人の腕を掴んで捻り上げる。その瞬間、信じられないことが起きた。


「ぐあっ!? あ、上がっ……身体が浮いて……!?」


 男の全体重が腕にかかったはずなのに、まるで子供を持ち上げるように軽い。

 驚愕する暇もなく、俺は彼を地面に叩き伏せ、残る一人へと鋭い視線を向けた。


「……っ!」

 最後の一人は一瞬ひるんだが、すぐにナイフを取り出して構える。

 街灯の光を反射して鈍い光を放つ刃。

 普通の俺なら確実に腰を抜かしていたはずだ。だが――


「やめろ……!」

 俺の声が、意識していないのに低く響いた。

 まるで全身から圧を放っているような感覚。

 チンピラの腕がわずかに震え、刃がかすかに揺れた。


「……ちっ、クソが。引き上げるぞ!」


 吐き捨てるように言い残し、三人は退散していった。

 俺はすぐに水無月君を背後から庇い、周囲を警戒する。


「……はぁ、はぁ……」

 彼女の肩は小刻みに震えていた。

 泣き出しそうな顔で、必死に俺の背中にしがみついてくる。


「すまない……巻き込んでしまった」

「ち、違います……篠宮さんは、私を……助けてくれました……!」


 弱々しくも、確かにそう言った彼女の声に胸が熱くなる。

 さっきまで震えていた足は、今やしっかりと地面を踏みしめていた。


 ――これが、あの魔法薬の力か。

 勇気、冷静さ、身体能力。すべてが一変している。

 恐怖で逃げようとしていた俺が、今は彼女を守れている。


「とにかく、ここから離れよう。落ち着ける場所に」


 水無月君を優しく促しながら、俺は夜の街を見回した。

 闇に溶けて消えたチンピラたちの影、その背後にある“誰か”の存在を感じながら――。


 だが同時に、胸の奥底では別の感覚が芽生えていた。

 昂ぶり。高揚感。

 まるで血が沸き立つような、今まで味わったことのない力に包まれる感覚。


 俺は知らなかった。

 この一口の薬が、自分の人生を大きく変えていく引き金になることを――。



「……すごい……」


 呆然とした声が背中越しに聞こえた。

 振り返ると、水無月が俺を見上げていた。大きな瞳に涙を浮かべたまま、口元は震えている。


「すごいって……俺が?」


 自分のことなのに首をかしげてしまう。

 だって今までの俺を知ってる彼女なら、真っ先に“篠宮課長=臆病で平凡な中年”というイメージがあるはずだ。

 だが彼女は、目を潤ませながら力強く頷いた。


「はい……! あの人たちを前にして、こんなに堂々と……私、初めて見ました」


「そ、そうか……」

 俺は気恥ずかしくなって視線を逸らす。

 正直、全部薬の力だ。俺自身の勇気じゃない。そう言いかけて――やめた。


 震えながらも必死に俺を信じ、俺のために涙まで流してくれた彼女に、「実は俺、インチキ薬を飲んだだけです」なんて言えるわけがない。


「……でも課長、顔が違います」

「え?」


 水無月は俺の胸元を掴んだまま、真剣な眼差しを向けてくる。

 その距離、近い。お嬢様育ちのはずなのに、躊躇なく距離を詰めてくるあたり――いや待て、この子、天然か?


「昨日までの課長は、いつも少し自信なさそうで……どこか疲れていて。でも今は……強くて、頼もしい男の人の顔をしてます」


「……買いかぶりすぎだよ」

 言いながらも、心臓が跳ねるのを止められなかった。

 この年で“頼もしい”なんて言われると、どうしたって意識してしまうじゃないか。


「私……」

 水無月が小さく唇を噛む。

 彼女の白い頬に、街灯の明かりが差して――やけに美しい。


「……もっと課長のそばにいたいです」


 息を呑んだ。

 その言葉は、ただの部下としての忠誠心ではなかった。

 それは確かに、ひとりの女性として俺に向けられた“想い”だった。


「水無月君……」


 呼んだきり言葉が続かない。

 だが、彼女の瞳を見つめ返した瞬間、なぜか理解した。

 ――これが、幸運の始まりなのだ、と。

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