第21話 娘からの緊急連絡
「お?」
会社から戻って、紗彩が作ってくれた夕飯を三人で囲んでいる時だった。
スマホからメール着信の音。画面に表示されたのは――『柏崎玲緒奈』の文字。
(……娘からか)
元妻とその前の夫との間に生まれた娘。
母親似の美貌に成長し、今は二つ隣町の飲食店街にあるメイドカフェで働いている。
(行ってみたいと思いつつ……こんなおっさんが娘のバイト先に顔を出したら、嫌がられるだけだよな)
「娘からだ。前にも話しただろ? 定期的に会ってるけど、来週の予定を“明日”に早められないかって。何か相談があるみたいなんだ」
「そうなんですね。それじゃあ、明日の私の当番はずらし込んで、会ってきてあげてくださいな」
「すまないな。埋め合わせはするから」
「うふふ、娘さんには甘いんですね」
「まあ血は繋がってないけど家族だからな。別れた妻とは疎遠になったが、彼女は今でも俺を慕ってくれるし」
「紗彩さんも言っていましたが、その子、多分、隆行さんに親以上の感情を抱いていると思いますよ。そうだったら、どうします?」
「ないない。大丈夫だよ。それにどうしてそう思うんだ?」
「女の勘です」
女の勘――それだけで、なぜか説得力が増すから不思議だ。
「OKOK、分かった。もしそうならちゃんと相談するから」
軽く返事をすると、二人は同時に頬を膨らませた。
「もう、ちゃんと分かってますか? もしも彼女が運命の女性なら、その想いに真剣に答えてあげないとダメですよ!」
紗彩の怒るポイントは、俺の思っていたのとは少し違った。
要するに「親子だから」「娘だから」という理由で彼女の気持ちを切り捨てるな、ということらしい。
「分かった。もしも彼女が俺に対して真剣な想いを向けているのなら、不誠実な真似はしない」
「よろしいです」
「うふふ、紗彩さん、第一婦人としての自覚が出てきましたねぇ」
「だ、第一婦人って!」
「そうでしょう? だって隆行さんの“一番”ですもの。日本では重婚は犯罪。結婚できるのはたった一人。それは最初であり、隆行さんが一番と宣言している紗彩さんの役割です」
「なるほど……確かに沢山の恋人と付き合っていくうえで、結婚は重要だな。最初からその役割を決めておけば余計な軋轢を生まずに済むのか」
「それでも女は、愛しい男性と同じ姓になることを欲するものですよ」
深雪の真剣な言葉に俺も姿勢を正す。
ハーレムを一夫一妻制の日本でやろうとするなら、結婚問題は確かに避けて通れない。
「でも隆行さんが私たちを真剣に考えてくれているのは嬉しいです。安心してください。いざとなれば日本政府からこのマンションの自治権を買い取って治外法権にしてしまえばいいんですから」
サラッととんでもないことを言う深雪に、頬が引きつる。だが彼女なら本当にやってしまいそうだから怖い。
「じゃあ明日、会う約束をしておくよ」
俺は玲緒奈への返信に待ち合わせ場所と時間を記載し、送信ボタンをタップした。
『ありがとうお父さん!』
――返信が返ってくるまで数秒もかからない。
絵文字だらけの「ありがとうメール」に苦笑しつつ、若者の早業に感心する。
(部下とのメールも、これくらい迅速ならいいんだけどな)




